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人のつながりが、シン・だし文化を生む!削り節店 富樫政雄商店

2025.4.3

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平岸と中の島のちょうど境目辺り、環状通から少し住宅街へ入ったところにある削り節の店「富樫政雄商店」。小さな店舗の扉を開けると、鰹節のいい香りに包まれます。もともとは業務用の卸を専門にしていましたが、数年前から一般消費者向けの小売販売にも力を入れるようになり、昨年(2024年)9月、工場の1階に店舗を構えました。今回は、代表取締役の富樫悠平さんと店舗オープンに合わせて入社したという店長・営業担当の「シャイン」さんにお話を伺いました。

5つ星ホテルの勤務を経て、家業である削り節の世界へ

1948年(昭和23年)に札幌・平岸で創業した「富樫政雄商店」。現代表の富樫悠平さんの祖父が立ち上げ、富樫さんで3代目になります。自社工場で削り節を製造し、削りたてを札幌や道内各地の飲食店に卸してきました。

こちらが、富樫政雄商店3代目代表取締役の富樫悠平さん。

「札幌で生まれ、ここ(工場)のすぐそばで高校卒業まで暮らしていました。兄がいたので、学生時代は自分が跡を継ぐとは考えたこともありませんでした」

大阪にある関西外国語大学へ進み、卒業後は1年半ほどアメリカへ。ホテル業界に興味があった富樫さんは、アメリカでホテルに関する専門学校に通ったのち、高級ホテルとして知られるザ・リッツ・カールトン大阪に就職します。レストラン部門のマネジメントなどを任され、約8年勤務。バリバリ仕事に取り組んできましたが、「一旦、小休止というか、ちょっと休みたいなと思って、思い切って退職することにしました」と話します。富樫さんが札幌へ戻って少し経ったとき、2代目として会社を切り盛りしていた父親が体調を崩します。

「ちょうど2010年ですね。東日本大震災の前だったんで。兄はそのころ東京にいましたし、誰かが父をサポートしなければならないと思ったので、父から仕事を教わりながら会社に関わるようになりました」

ホテルに勤務していた頃はレストランで仕入れる側でしたが、今度は製造する側に。「そういう意味では、まったく知らない業界にゼロから飛び込んだわけではなかったので、特に抵抗もありませんでした」と振り返ります。

新しい客層を取り込みたい。一般家庭向けの商品を発表し、イベントにも出店

祖父、父と2代にわたって、数多くの飲食店と取引を行い、「従来のお客さまとの取引が安定していたので、新規お客さまの獲得や販路拡大に動くようなことはしていなかったんです。とは言っても、このままでずっといいとも思えず、僕としては卸だけでなく、新しい客層を獲得するために小売も増やしたいと考えていました」と富樫さん。

そんな矢先、2019年から広がったコロナの感染拡大によって取引先である飲食店の多くが経営の危機を迎えます。

「中には店を閉めてしまうお客さまもいて、真剣に先のことを考えなければと思うようになりました。これまでも業務用の削り節を百貨店に卸して、一般消費者向けに少し販売もしていましたが、パッケージをはじめ、ブランディング的な部分などは一切こだわりなく販売していたので、思い切って、一般の方たちにもこの削り節やだしのおいしさを知ってもらい、家庭で利用してもらうため、小売用の商品を作ることにしました」

コロナ禍にパッケージを考案して小売用の商品準備をしたものの、販売する機会がなかなかありませんでした。そんなとき、札幌で異業種交流を行っている「さっぴよ」と出合います。札幌の商工業者をSNSから元気にしようと、SNSで宣伝や集客をしている業者同士が互いに宣伝・集客を発信し合い、札幌を盛り上げていこうと活動している団体です。この「さっぴよ」が主催のイベントに出店し、商品を販売することに。

札幌駅前通地下歩行空間にて、さっぴよ主催の「さっぴよバザール」に出店。

「このイベントは、会場を訪れた一般消費者の方に削り節やだしのおいしさについて直接お伝えできるいい機会でした。実際に削り節を食べたり、だしを飲んでみたりしてもらわないと、そのおいしさはなかなか伝わらないので」

だしのおいしさを伝えたい!「さっぴよ」繋がりで頼もしい人材が入社

季節に合わせて年4回行われていた「さっぴよ」のイベントで、富樫さんの削り節と運命的な出合いをしたのが「シャイン」さんです。(「シャイン」はSNSなどの広報活動の際に使われているお名前です)シャインさんも「さっぴよ」メンバーで、当時、司法書士事務所に勤務しながら、「さっぴよぷらす」というインターネット音声ラジオのパーソナリティも務めていました。

「鰹節ってこんなにおいしいんだ!と驚きました」とシャインさん。「もともと食べるのは好きでしたが、それまで自分で鰹や昆布でだしを取ったこともないし、顆粒出汁しか使ったことがなかったんです(笑)。でも、富樫政雄商店の鰹節に出合って、そのおいしさに目覚めました」と話します。

前職時代から広報活動に携わっていたシャインさん。Xのアカウントを中心に活動しており、現在フォロワー1.3万人!

さらに、一般家庭にも本物のだしのおいしさを広めていきたいという富樫さんの思いを聞き、シャインさんは「私も一緒に広めたい!と思いました。それくらい鰹節のおいしさが衝撃的だったんです」と続けます。

富樫さんは、「小売用にきちんと店舗を構えたいと考えていたタイミングでした。これまでも、削り節を買いたいと工場を訪れてくださったお客さまに販売はしていたのですが、事務所の一角で売っていただけだったので…。それで、店長兼広報という形でうちに来てもらうことにしました」と話します。

シャインさんがスタッフになってくれたことでSNSの発信も任せられるようになり、さらに人手が確保できたことで百貨店の催事などの出店も請けやすくなったそう。シャインさんも「直接、たくさんの方にだしや削り節のおいしさを伝えられるのはうれしい」とニッコリ。だしの取り方はもちろん、削り節の食べ方なども伝えていきたいと続けます。「だしの世界は奥が深いので、その魅力を伝えるために私自身もまだまだ勉強していかなければと思います」と話します。

また、シャインさんは「リテールマーケティング(販売士)」という小売業や流通に関する資格の保有者でもあり、販売士の視点からトークするラジオ番組をはじめられています。お店の陳列の工夫や集客方法など、普段の買い物では気づかないようなテクニックを紹介・解説する内容で、聞いているうちに買い物に行きたくなるような、お店を経営されている方にとっても参考になるような内容を目指しているとのこと。番組名は「販売士の知恵袋」、FMアップルにて毎月第1・第3火曜日の18〜19時に生放送でお話しているそうなので、気になる方はぜひ一度聞いてみてはいかがでしょうか。

店舗の半分は中古カメラ屋? 映画番組と削り節の異色コラボ「やぶやぶ節」?

事務所だった部分を改装した店舗、入って左手にはいろいろな種類の削り節の商品が並んでいますが、右の棚にはオールドレンズやカメラがズラリ。富樫さんの趣味なのかと思いきや、「違うんです。こちらは中古カメラの専門店なんです」とシャインさん。店名を「Inherit Camera(インヘリットカメラ)」と言い、店主は「さっぴよ」仲間なのだそう。「ちょうど知り合ったころに、いつか独立して中古カメラの店をやりたいと聞いたので、うちの店の半分のスペースでやってみたら?と声をかけました」と富樫さん。削り節とカメラという異色な組み合わせですが、カメラ愛好家の方がカメラを見に来た際に富樫さんの削り節のだしの試飲をして、初めてだしのおいしさを知って購入していくことも多いそう。「だしや削り節とは無縁のような人にも知ってもらえることに意味がある」と続けます。

「オールドレンズの品揃えがすごい!」とこの写真を撮影したカメラマンも絶賛。時間を忘れて眺めてしまいます。

また、「さっぴよ」繋がりで、コラボ商品も開発。中でも「やぶやぶ節」と名付けられた混合削り節は、昨年開催された第67回全国水産加工たべもの展で大阪府知事賞を受賞しました。この「やぶやぶ節」は、鹿児島産の鰹節と鮪節、そして北海道標津産の鮭節という3種類の削り節をミックスしたもの。「やぶやぶ節はだしを取るためではなく、食べる用に3種類の削り節をブレンドしました」と富樫さん。その場で味見をさせてもらいましたが、薄く削られた削り節には雑味がなく、豊かな風味に驚きます。

「そのままつまめばお酒のあてにもなりますし、卵かけご飯やサラダ、麺類にトッピングするのもおすすめです。ワンランクアップのおいしさを感じられますよ」とシャインさん。実際、自宅で卵かけご飯にトッピングしましたが、そのおいしさに思わずおかわりしてしまうくらいでした!

この絶品商品は、富樫さんの「さっぴよ」仲間だった矢武企画という会社からの声がけがきっかけで誕生したそう。矢武企画とは、映画の制作や配給、宣伝など映画関連事業を行っている会社です。FMノースウェーブで映画専門の番組「キャプテン・ポップコーン」の制作も手掛けており、番組DJの矢武兄輔さんが番組の放送記念でオリジナルの削り節を作ってほしいと富樫さんに打診したのが始まりでした。完成した商品は「やぶやぶ節」と命名され、ラジオに出演した映画関係者に記念品としても配られているそうです。もちろん、店舗やインターネットからも購入できます。

ちなみに、大阪府知事賞を受賞した際、その報告を兼ねて「キャプテン・ポップコーン」の番組に登場した富樫さん。なぜかそのままほぼ毎週番組に出ることになり、自身が劇場で鑑賞した映画について語っているそうです。「やぶやぶ節」のチラシも映画のフライヤーを彷彿とさせるようなデザインになっていて、本当にドキュメンタリー映画が製作されたのかと見間違うくらいです。

味と品質を守りながら、若い層へだし文化を伝える活動もしていきたい

2023年2月に代表に就任し、3代目となった富樫さん。「だしは飲食店にとって何よりも大切なもの。そのだしの味が変わってしまうと店の味自体が変わってしまうから、これまで代々守ってきた削り節の品質や味を守り続けていくというのが大きな使命。そこはこれからもこだわっていきたい」と話します。

2階の工場には、鳥羽式鰹節削り機という年季の入った機械があります。この削り機は、昔から上質な削り節を製造するのに適しているといわれており、富樫さんのところでも長い間大事にメンテナンスをしながら使用。品質を守り続けるためにも欠かせない機械です。機械だからと言って、誰でも簡単に扱えるわけではなく、花びらのように薄く削る「花」や中厚、厚など、削る厚さを調整するための刃の扱いも含め、職人の技術と経験によるところが大きいそうです。

ひとつひとつ人の手で機械に通し削っていきます。

「味や品質を守りつつ、これからは若い人にもっとだし文化を伝えていきたいと考えています。だしに関する新しいものやニーズも取り入れつつ、新しい商品の開発をはじめ、だしや削り節について知らないという人たちにも知ってもらえるよう活動の幅を広げていきたい」と富樫さん。

また、「さっぴよ」がきっかけで、商品に惚れて入社を決めたシャインさんや「インヘリット カメラ」の代表との出会いがあり、さらに「やぶやぶ節」「きなこ節ふりかけ」(黒千石のきなこと削り節をミックスしたふりかけ)などコラボ商品も誕生。最後に「これまでと変わらず人との繋がりも大事にしていきたいですね」と語ってくれました。

富樫悠平さん

富樫政雄商店 代表取締役

富樫悠平さん

シャイン さん

富樫政雄商店 店長・営業担当

シャイン さん

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