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仕事や暮らし、このまちライフ

かわいくおいしいお菓子を。「prunelle(プリュネル)」

2025.6.10

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札幌市西区にある洋菓子とドライフラワーの「prunelle(プリュネル)」。フランス語で「瞳」を意味するこの店は、2024年6月にオープンしました。そして、店を経営するのは、オーナーの遠藤俊敏さんと妻の瞳さんです。念願の店を札幌でオープンさせた2人ですが、出身地は札幌ではありません。富良野市出身の俊敏さんと兵庫県出身の瞳さんが、どのように出会い、札幌で店をオープンさせることになったのか。オープンから1年経った今の心境や、これからの夢について伺いました。

ケーキ作りに夢中になった少年時代

北海道富良野市で生まれ育った俊敏さんが、お菓子作りに目覚めたのは小学生の頃。姉の影響もあり、レシピ本を見ながら作ったケーキを家族や友達の誕生日などにふるまっていました。

「中学生の頃には、よくシャルロットケーキを作っていました。円筒型の焼き菓子『ビスキュイ』で囲んだ枠に、カスタードクリームやフルーツをデコレーションしたケーキです。田舎なので材料がなかなかそろわなかったのですが、缶詰や近所のスーパーで手に入る果物を使ってよく作っていましたね」

写真左が、prunelle(プリュネル)のオーナー遠藤俊敏さん。隣に座る、妻の瞳さんと一緒にお店を経営しています。

最初は上手にできなかったものの、少しずつ腕が上達してくるにつれて、ケーキ作りの楽しさにはまっていった俊敏さん。中学を卒業する頃には、将来パティシエになると心に決めていたそう。高校へ入学後もその思いはゆらぐことなく、卒業後は大阪にあるエコール辻大阪製菓マスターカレッジへ進学しました。

「北海道から沖縄まで、いろいろな地域の人がいました。方言も違って面白かったですよ」

18歳で富良野を離れ、大阪での学生生活がスタート。同じ夢を目指す仲間と一緒に、1年間かけてケーキ作りの基礎から技術までを学びました。

卒業後も、そのまま関西に残り、兵庫県の宝塚市にある洋菓子店に就職。タカラジェンヌもときどき訪れることがある人気店で、焼き菓子や生菓子を作りながら修業を重ね、パティシエとしての経験を積んでいきます。入社3年目には、西日本洋菓子コンテストに出品し、見事優勝するという快挙を遂げました。

「もともとコンテストには興味があって、就職するときもコンテストに出品しているお店で働きたいと思っていたんです。その店では通常、入社2年目からしかコンテストに出られなかったのですが、1年目のときに『遠藤君、出てみる?』と声をかけてもらえたんです。ほかにも、ジャパン・ケーキショーという洋菓子のコンテストなどにも出品させてもらえましたね」

こうして、俊敏さんの今に繋がるパティシエとしての道が始まります。

かわいいお菓子を作るパティシエになりたい

続いて妻の瞳さんにお話を伺います。

瞳さんの出身は兵庫県伊丹市。料理やものづくりが好きで、小学生の頃からお菓子作りにも親しんでいたといいます。

柔らかな雰囲気をまとっている遠藤瞳さん。

「自分の手で何かを作ることが楽しくて、幼稚園の頃から絵を描くのも、図工も得意でした」

女子大学附属の私立中学校に入学し、そのままエスカレーター方式で高校に進学した瞳さん。この頃から、パティシエになりたいと思っていたといいます。

「高校時代の友人が、バレンタインデーにアイシングクッキーを作ってきてくれたことがあったんです。それがめっちゃかわいくて!もともと、アメリカのケーキみたいな、ポップでキュートなデコレーションがすごく好きだったのもあって、私も見よう見まねで、砂糖でケーキをデコレーションするシュガークラフトなどを作るようになりました。ただ…かわいいケーキを売っているお店でも、食べてみたら甘いだけでがっかりということがあったんです。そこで私は、かわいくて味もおいしいケーキ屋さんを開きたいと思ったんです」

瞳さんが作るアイシングクッキー。どうやって作ったんだろうと思うほど細やかでかわいいデザイン!そして味もとっても美味しいです。

しかし、夢と現実を天秤にかけた時、「就職のことを考えた」という瞳さんは、大学の食物栄養学科に進学します。それでも心のどこかにずっと、「パティシエになりたい」という思いがあったそう。大学卒業後に選んだ道は就職ではなく、エコール辻大阪製菓マスターカレッジへの進学でした。

「パティシエの道を選ぶなら『いつかフランスで修業してみたい』と思っていたので、フランスにも校舎があるところに行きたかったんです。もう1校候補にしていた学校があったのですが、卒業生の開業実績と年代の近い仲間が多いエコール辻を選びました」

趣味としてお菓子作りを楽しんでいた瞳さんですが、プロの現場を意識した授業や実習は、想像以上に厳しかったと振り返ります。

「ケーキ作りには手早さも必要で、きちんと基礎を学んでおかないと実習についていけないんです。学校では、プロになるための厳しさも学びました」

ケーキ作りよりマジパン(ケーキの上に乗っている「サンタ」や「お家」など、砂糖とアーモンドを練り混ぜて固めて作られる飾り)細工やデコレーションをするのが好きで、その道のコンテストへの出品にも興味があったという瞳さん。卒業後、ホテルへの就職を希望していました。

繊細なペンの運び…!瞳さんのこだわりと思いがペン先にこめられていきます。

「ホテルってコンテストの出品に積極的なところが多いんです。それに、結婚式場が併設されているところなら、デコレーションの凝ったウエディングケーキを作れるチャンスがあると思って。ホテルや結婚式場を2社ほど受けたのですが、どちらも面接で落ちてしまったんです」

そんなとき、担任の先生から紹介されたのが、マジパン細工のコンテストに力を入れている洋菓子店でした。宝塚にあるそのお店は、瞳さんが子どもの頃から伊丹にある姉妹店によく通っていた、思い出の場所。そして、すでに俊敏さんがパティシエとして働いていた、あの洋菓子店です。

「そこで夫と一緒に働くことになるのですが、実はその前に一度だけ会っているんです。私がエコール辻にいたときに、彼が講師として学校に来てくれていて、『特待生で卒業して、入社1年目に西日本洋菓子コンテストで優勝した遠藤さん』だと紹介されて、『すごい人だ』と思ったのを覚えています(笑)」

「そんな風に言われてたの?」と初出しの情報に思わず瞳さんの方を見る俊敏さん。

共に働き、そして結婚。富良野で始まる新たな生活

同じ職場で働き始めた2人は、やがて少しずつ距離が縮まり、交際に発展。2人が付き合う前から、瞳さんは、いつか自分の店を出したいという夢を俊敏さんに話していたといいます。

「かわいくておいしいケーキ屋さんを開きたいけれど、自分ひとりでは難しいかも…という話をしていました。でも、その頃彼は、自分の店を持つことにまったく興味がなかったんです」と瞳さん。

それどころか、俊敏さんはいずれパティシエを辞めるつもりだったといいます。

「学生の頃から、一生パティシエをやるのは嫌だなと思っていました。昔からものづくりが好きだったので、ほかにもいろいろやりたいことがあったんです。でも彼女と話をするようになってから、自分の店を出すのも面白いかもしれないと思うようになりました」

就職から2年が経ち、瞳さんはお店を退職。すると同時に、俊敏さんからプロポーズを受け、2人は夫婦としての第一歩を踏み出しました。ほどなくして瞳さんの妊娠が判明し、妊娠8カ月のときにハワイで挙式。その後、俊敏さんも5年半勤めた宝塚の洋菓子店を退職し、2人は富良野にある俊敏さんの実家で新たな生活を始めます。

「店を出す前に、フランスで修行するための資金を貯めようと思ったんです。それで一度地元に帰って、お金を貯めようと」と俊敏さん。

しかし、兵庫県生まれの瞳さんにとって、北海道は初めての土地。富良野への移住に不安を感じることはなかったのでしょうか。

「初めて富良野に連れて行ってもらったとき、のどかでストレスなく暮らせそうな場所だなと思いました。静かだし、子どもも、のびのびと育てられそうだなって」

こうして2017年に富良野へ移住した2人は、3年後にフランスへ行くことを計画。ところが、2020年になりコロナ禍へ突入、予定していた計画はストップします。しかも、俊敏さんは、渡航準備のため、すでに富良野の洋菓子店を退職していたのです。

「そんなにコロナ禍は長く続かないだろうと思っていたんです。実家にいれば出費も少ないし、子育てしながらコロナ禍が収まるのを待っていましたが、なかなか明けなくて。ワーキングホリデービザで行くつもりでしたが、ようやく渡航できる頃には、30歳の年齢制限を超えてしまっていました」

フランス行きの夢が叶わなかった2人は、富良野を離れ、生活の拠点を札幌へと移すことに。俊敏さんはカフェを併設したケーキ屋で働き始め、瞳さんはその頃、花の魅力に心を惹かれるようになっていったといいます。

店内には瞳さんがつくるドライフラワーのブーケが。特に、母の日には多くの方にお求めいただいたそうです。

「結婚式の装花をお願いしたお花屋さんがとても素敵で、そこから花に興味を持つようになりました。富良野にいる頃から、自分でも花のことを調べたりして、少しずつ学んでいたんです。それを見ていた夫が、『花屋とケーキ屋を一緒にやったらどう?』って。でも、そんなに簡単に花屋になれるものじゃないと思って、まずは花のことをもっと知るために、未経験者でも採用してくれる花屋さんの正社員として働き始めました」

当初の計画とは違う道をたどったものの、2人はこの後、自分たちの店のオープンを目指して動き出します。

ふたりの夢が叶い「prunelle」誕生

2人はそれぞれの勤務先で働きながら、店のオープンに先駆けてオンラインショップをスタート。焼き菓子やクッキー缶を中心に販売を始め、少しずつファンを獲得していきます。並行して、札幌での出店を見据えた物件探しも進めていました。

「西区から円山あたりまでのエリアを中心に探していました」と俊敏さん。

そんなある日、2人の目に留まったのは、以前パン屋が入っていた物件でした。駐車場があり、間取りもそのまま使えるなど、理想に近い条件がそろっていたために、ほぼ即決だったといいます。

2023年12月に契約を結び、翌年4月から内装工事をスタート。ショーケースの配置を考えたり、ものづくりが好きな俊敏さんが棚を手作りしたりと、2人で協力しながら店をつくりあげていきました。そして半年後の2024年6月15日。ケーキと花を一緒に買える洋菓子店「prunelle(プリュネル)」が、ついにオープンします。

俊敏さんお手製の商品棚。手作りのものとは思えない完成度です。

prunelleという店名にはどのような思いがこめられているのでしょうか。

「prunelleは、もともと私が個人で使っていたSNSのアカウント名なんです。フランス語で“瞳”という意味で、夫が『店名もそれでいいんじゃない?』と言ってくれました」

オープン当日、店の外には、開店を待ちわびて並ぶお客さんの姿が。しかし、その後は思っていたほど来店客が増えず、2人は不安を感じたといいます。

「ネット通販で購入してくださったお客さんが来てくれることもありましたが、道外の方が多かったんです。チラシは作ったものの、店頭に置いただけで、ポスティングもあまりできていなくて。だから、オープンしたことを知っていたのは、店の前を通る人くらい。SNSで広告も出していましたが、なかなか集客につながりませんでした」と瞳さんは話します。

そんな不安が解消されたのは、開店から1週間ほどたった頃です。SNSでお店を紹介してくれたインフルエンサーの投稿をきっかけに、フォロワー数が一気に急増。そこからお客さんの数も少しずつ増えていきました。

Instagramの投稿一部抜粋。かわいい…!ぜひInstagramもご覧ください。きっとあなたも実物を見たくなる・食べたくなるはず。

「かわいくておいしい」を届け続けたい

オープンからまもなく1年。今では、コンスタントにお客さんが訪れるようになったprunelle。この1年を振り返り、印象に残っている出来事や大変だったことについて、2人に聞いてみました。

「一度、テレビでお店を紹介してもらったんです。ちょうどホワイトデー直前だったこともあって、放送後にはたくさんの方がクッキー缶や焼き菓子を買いに来てくださったんです。まさか、そんなに多くの方が来てくれるとは思わなくて、品切れしないように作り続けるのが大変でした。うれしい悲鳴でしたね」と俊敏さん。

瞳さんも、「親子で来てくださったお客さんが、ショーケースを覗いて『かわいい!』と話している姿を見ると、頑張って作ってよかったなと思えるんです」と笑顔を見せます。

prunelleの人気商品のひとつが、猫やシマエナガなどの動物をモチーフにした、かわいらしいデザインのクッキーです。中でも猫は、お店のイメージキャラクターにもなっています。ケーキや焼き菓子の製造を担っているのは俊敏さん。瞳さんは、アイシングのデザインやドライフラワー作りを担当しています。

そんな2人が今後目指すのは、2店舗目のオープン。次はカフェスペースを備えた店舗を出したいと考えているそうです。

「まずは札幌市内で3店舗ほど展開できたら、その先は東京や大阪にも挑戦してみたいですね。その次はフランスかな(笑)」と俊敏さん。

「夢が大きすぎて、本当に?って思いますけど(笑)。でも、まだフランスには行ったことがないので、まずは旅行で訪れてみたいですね」と瞳さんも笑います。

2人とも、いつかは海外に住んでみたいという思いはありつつ、今はまだ札幌での暮らしを続けたいと話します。札幌の好きなところを尋ねると、そろって「都会なのに自然が多くて、野菜や食べ物もおいしいところ」と答えてくれました。

今は、お店を増やしていくことが2人の共通の夢。ただ、そのためには資金が必要です。子育てをしながらの挑戦に不安はないのでしょうか。

「不安は常にあります。でもそれ以上に楽しい気持ちの方が勝っているんですよね。昔は、ただ作るのが好きでした。でも今は、自分たちの店が少しずつ育っていくことに面白さを感じています」と俊敏さんは語ってくれました。

いずれは、お菓子を作るプレーヤーとしての立場から、経営の方に軸足を移していきたいと話す俊敏さん。最後に、パティシエを目指す若い世代に、こんなアドバイスをくれました。

「パティシエとしてトップを目指したいなら、東京に出て修行を積むという道もあります。でも、技術をとことん極めるのと、自分のお店を持つのとは、まったく違う話。大事なのは、お菓子が好きという気持ちを持ち続けることです。それさえあれば、札幌にいても自分のお店を持つことはできます。技術を学びたいなら、専門学校に行けば基礎からしっかり教えてもらえるし、なによりそこで生まれる仲間とのつながりが、後からすごく大きな力になってきますよ」

俊敏さんの職人としての静かな情熱と、瞳さんの明るい笑顔が印象的なインタビューでした。丁寧に作られたお菓子とドライフラワーからは、お2人のものづくりに対する思いがまっすぐ伝わってきます。ケーキと花が織りなす世界が、これからどんな風に広がっていくのか、とても楽しみです。

取材中に完成したチョコレートケーキ。俊敏さんと瞳さんのあうんの呼吸で作られていく、その一部始終を見させていただきました。今後も、わくわくするようなケーキが生み出されていくことを楽しみにしています。
遠藤俊敏さん

パティスリー「prunelle」オーナー

遠藤俊敏さん

遠藤瞳さん

遠藤瞳さん

北海道札幌市西区琴似2条7丁目2−41 琴似2・7ビル 1F

TEL. 011-624-5396

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