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難しさもあるが、継続的な周知を。札幌市のヤングケアラー支援

2024.12.12

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家族の介護やその他の日常生活上のお世話を過度に行っている子ども・若者を「ヤングケアラー」と呼びます。社会問題として取り上げられることも多く、ニュースなどでその言葉を聞いたことがある人も多いはず。令和3年に厚労省が調査した全国アンケートによると、中学高校のクラスに1~2人はヤングケアラーがいるという結果でした。どの地方自治体でもほぼ同じ割合と言われており、札幌市も同様の状況にあります。

さっぽろ未来ベースでは、これまでもケアラーやヤングケアラーに関する記事を掲載してきましたが、今回は、札幌市でヤングケアラー支援を担当する子ども未来局子ども育成部の方たちと、札幌市から委託を受けて「ヤングケアラー交流サロン」を運営しているスタッフの方に、リアルな現場の声や現状を伺いました。私たち大人ができることは何だろうと考えるきっかけをいただけた取材となりました。

子どもの権利が注目され、ヤングケアラーも社会問題として取り上げられるように

今回、取材に応じてくださったのは、札幌市子ども未来局子ども育成部子どものくらし・若者支援担当課の課長・引地志保さん、同じ課の福司明香(さやか)さん、そして、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会こども若者事業部こども事業課主任の森口賀寿葉(かずは)さんの3人。

左から引地志保さん、森口賀寿葉さん、福司明香さん

まずは札幌市のヤングケアラーの現状について尋ねると、「令和3年の11月から12月にかけて札幌市でも中高生にアンケート調査を行いました。その結果、24人に1人、だいたいクラスに1人〜2人はヤングケアラーの子がいるということが分かりました。この数字は、ほぼ全国どこも同じです。平成30年ころから厚生労働省がヤングケアラーの調査・研究に着手し、令和に入ってから社会問題として全国的に注視されるようになったと思います」と引地さん。

昔から家で家族のお世話をしていた子どもたちというのは一定数いたと思うと引地さん。ただ、昔はそれを「お手伝い」とみなしたり、それがそれぞれの家庭で「当たり前」と思っていたりという時代背景もあると話します。

社会でヤングケアラーが取り上げられるようになったのはいつごろからなのかについて、森口さんは「これに関しては諸説いろいろあるのですが、ある大学の先生によると、子どもの権利を主張する人たちが増えてからヤングケアラーのことも注目されるようになったそうです」と話します。

引地さんも「子どもの権利という概念が世の中に浸透してきたというのはあるでしょうね。子どもらしく遊び、学ぶ権利が子どもにはあるよねという考え方も、ヤングケアラーが注目されるようになった背景にあると思います」と話します。

ヤングケアラーはひとつの部署だけで解決しない。連携しやすいようガイドラインを制定

札幌市は令和5年にヤングケアラー支援に関するガイドラインを発表。札幌市におけるヤングケアラーの現状と課題のほか、支援の在り方、相談窓口、ヤングケアラーの参考ケースなどが載っています。

「私たちの部署だけでできることは、実は案外少ないんです」と引地さん。

こちらが札幌市子ども未来局子ども育成部の引地志保さん

「ヤングケアラーの課題はひとつの部署だけで解決できないという特徴があります。家庭の状況やケースによって、必要となる支援はさまざまなのです」と続けます。

たとえば、同じヤングケアラーと言っても、自分より小さい弟や妹の面倒を見ている子もいれば、おじいちゃんやおばあちゃんの介護をしている子もいます。それぞれ必要としている支援は違いますし、対応する部署も異なってきます。引地さんは、「できるできないや各家庭で何を希望するかにもよりますが、私たちは今あるいろいろな社会サービスを組み合わせて、支援の形を考えていきます。部署や所属を超えてチームとして動くことがヤングケアラー支援では重要」と話します。

そのための指針となるのがこのガイドラインというわけです。学校、高齢者福祉、障がい福祉など、関わりのある部署がそれぞれでバラバラに支援をしても、できることは限られ、効果的な支援ができないケースがどうしても出てきます。

「そうならないようにみんなで共通のルールを作って、それに則ってヤングケアラー支援をやっていきましょうねというのがこのガイドラインであり、そのルール作りをしているのが私たちの部署ということになります」と引地さん。

また、子ども未来局子ども育成部では、学校や市の福祉に関する各部署、関連する社会サービスを提供している団体をはじめ、一般市民にも広くヤングケアラーについて知ってもらうための研修会なども開催しています。

ヤングケアラーについての基礎編研修の様子

他人に言えない子、お手伝いと思っている子。ヤングケアラーの地道な周知の必要性

ヤングケアラーに関する支援のためのガイドラインはできましたが、実際に支援をしてほしいと直接言ってくるような子どもはほとんどいないそう。

「ケアラー問題というのは、家族の問題。かなりプライベートかつデリケートなことなので、外の人間が、『ああすればいい』『こうすればいい』と簡単にズカズカ入っていけるものではないんです。ですから、そう簡単に支援を届けられない部分もあります」と引地さんは語ります。

お手伝いとお世話の違いをそれぞれがどう捉えるかによっても違いますし、実際、お手伝いの延長と捉えている子やその家族もたくさんいるそうです。また、多感な10代の子どもたちの中には、自分がヤングケアラーだとカテゴライズされ、ラベリングされてしまうことに抵抗を感じる子や受け入れられない子もいて、「だから難しいんですよね」と引地さん。また、「10数年しか人生経験がない子に、広い視野や客観性を持って自分の置かれている環境を考えてみてと言ってもそう簡単にはできませんよね」と話します。

令和4年から始まった「ヤングケアラー交流サロン」や「いとこんち」(家と学校以外に安心して過ごせる子どもと若者の居場所のひとつ)などで実際にヤングケアラーの子どもたちと話す機会が多い森口さんは、「そもそも子どもたち自身がお手伝いだと思っていてヤングケアラーだと気付いていないケースや、ヤングケアラーという言葉をまだよく分かっていない子も多い」と話します。

若者支援施設でヤングケアラーに関するワークショップを開いた際、ヤングケアラーという言葉を中学生の子は半分くらいしか知らなかったそう。別の場所で行った際は、参加していた中学生5人が全員知らなかったということも。「言葉を知っているという子も、割とライトな感じで捉えている子が多い印象でした」と森口さん。

札幌市内の中学校と高校にヤングケアラーについて知ってもらうための周知カードを配布したそうですが、「もっと広めていく必要があるし、地道なことかもしれませんが周知していく活動を継続していくのが大事だと思っています。興味や関心を示すのも、自身が該当していると気付くのもそれぞれのタイミングがあると思うので」と引地さん。

森口さんもヤングケアラーに関する出前授業の依頼を受けて定時制高校などへ行くことがあるほか、所属する公益財団で運営管理している5つの若者支援施設でもヤングケアラーについて話をすることもあるそう。

「話を聞いて、初めて自分がヤングケアラーなんだとか、ヤングケアラーだったんだと気付く若者たちもいます」

集まる人数が大勢という場所ばかりでもないため、確かに草の根的な活動かもしれませんが、続けていることで、一人でも多く悩んでいるヤングケアラーの力になれるかも…、そう考えればとても大切な活動であると分かります。

子どもたちとゆっくり信頼関係を構築。気持ちを吐き出せる安心な場所

森口さんが所属する公益財団では、中学生の学習支援を行う「まなべぇ」を市内40カ所で行っており、多くの中学生と大学生の学習支援サポーターが参加しています。ここで会う子どもたちの中にも話を聞いているうちにヤングケアラーに該当する子がいるそう。

「何気ない会話のやり取りの中から、『家のことやってて自分の時間がないんだよね』とか、『本当は部活やりたいけど、きょうだいの世話をしなくちゃならなくてできないんだ』とポツリポツリと自分の気持ちを漏らす子がいるんです。そんなときに、同じような境遇の子たちが集まるサロンがあるけど、よかったら参加してみる?と声をかけています」と森口さん。

引地さんが、ヤングケアラーは家族の問題であり、かなり私的で繊細なことだからいきなり介入するのは難しいと言っていた通り、信頼関係ができて初めて子どもが本音や気持ちを吐き出すというケースは多いよう。

公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会こども若者事業部の森口賀寿葉(かずは)さん

また、「学習支援のボランティアに来ていた大学生で『自分もヤングケアラーだった』という子がいて、まなべぇの会場で自分の経験を話してもいいと言ってくれたのでお願いしたら、家族の世話に必死でその渦中にいると周りが何も見えなくなると話していたんです。だから、ひとりで抱えないほうがいいよというアドバイスをしていて」と森口さんは続けます。経験者の話から、あらためてケアに追われていくと客観性を失ってしまうと分かったと言います。

「ヤングケアラーの当事者の子たちは、目の前のこと、毎日生きることに精一杯なんですよね。だから周りを見る余裕もなくなってしまう」と引地さん。

森口さんは「交流サロンに来たからと言って、すぐにケアラーとしての状況が変わるというわけではないのですが、サロンに来た子たちの多くは『安心した』と言う言葉を発します。こんな子は自分だけだと思っていたけれど、似たような子がほかにもいるという安心感が生まれるようです。また、学校の友達や家族には言えないことがここでは言えたとスッキリする子も多いようです。きっとひと息つけるんでしょうね」と語ってくれました。

交流サロンにてお花見をしている様子

「サロンにおいで」と声をかけ、連れてくるまでが大きな肝になると、森口さんは続けます。

「自分から動こうとする子はほとんどいません。この人が言うなら…という信頼関係を築くのが大事。そうなるまでどうしても時間はかかりますが、じっくり腰を据えてやっていくしかないかなと思います」

交流サロンに通っている子たちのほとんどは、「ヤングケアラーの集まりに参加している」と親には言っていないそう。「若者支援施設に行ってくるとか、勉強教えてもらってくるとか言って出てきているようです。親に言うと、否定されるからと思っているようですね」と森口さん。

参加するハードルを下げようと、オンラインで当事者同士をつなぐ交流も行っているそうで、森口さんは「顔出しもしなくていいと言っているので、ただ聞いているだけの子もいます。でも、1回オンラインで参加して、次はおもしろそうだからリアルで参加しますという子もいるんですよ」と言います。

交流サロンに来る際にご飯を食べている時間がないという子がいたのを機に昼ごはんを用意したり、間に合わない子のところにはスタッフが車で迎えに行ったりするなどの対応もしているそう。「車中でスタッフとやり取りする中で、また本音が聞けることもあるんですよね」と森口さん。一人ひとりと丁寧に向き合っているのが分かります。

令和6年スタートのヤングケアラー世帯訪問支援事業。家庭に入ることの難しさが課題

ヤングケアラーの子どもたちの心のケアは少しずつ進んでいますが、そもそもの原因となる家庭状況や家族のことに関する支援についてはどうなっているのでしょうか。

「根本的な部分から支援をしていかなければヤングケアラーの課題は解決しないと考え、今年度からヤングケアラー世帯への訪問支援をスタートしました」と引地さん。ヤングケアラー世帯訪問支援事業としてこの今年度から実施。その担当をしているのが福司さんです。

札幌市子ども未来局子ども育成部の福司明香(さやか)さん

福司さんは、「ヤングケアラーの子どもの負担を軽減、解消するためにご家庭にヘルパーを派遣しようというものですが、支援できているのはまだほんの数件。相談件数は結構あるのですが、最終的に『うちは必要ありません』とサービスを拒否される家庭が圧倒的です。私的な部分なので、他人に知られたくないという保護者や、他人に家に入られることに抵抗を持つ方が多いようです。保護者の方が自分の家には支援が必要だと自認していなければ、私たちも入っていけないので…」と語り、思った以上に壁の高さ、難しさを感じているそうです。

森口さんのところでも訪問支援を希望する子どもがいましたが、保護者が絶対にダメだと拒否したケースもあったそう。「交流サロンで子どもたちと繋がりができても、なかなか家の中には踏み込めない部分がありますね。そもそも親にヤングケアラーの集まりに出ていると言っていない子も多いので」と話します。

引地さんは「ご家族の心が疲れている・弱ってる場合は、直ぐには助けを受け容れていただけない傾向が強いように思います」と話します。「そういった場合、子どもはもちろん、保護者の方への言葉のかけ方、接し方がとても大事」と続けます。

まずは子どもに焦点をあて、保護者に対して「〇〇ちゃんが学校にもっと行けたらいいよね」と声をかけ、それを糸口にしてヤングケアラーの訪問支援を受け容れてもらい、他人に助けてもらうことや社会サービスを利用することに少しずつ慣れていってもらいたいと考えているそう。

「慣れてきたら、ヤングケアラーの訪問支援ではなく、保護者の方自身が受けられるサービスの申請をしませんかと提案します。そこまで話を持っていけたら、やっとヤングケアラーの課題の根本の部分にアプローチできると考えています」と引地さん。

拒否する保護者もいる一方で、「中には子どもに負担をかけてしまっていると申し訳なく思っている保護者の方もいます。実際に訪問支援のサービスを受けられた家庭の保護者さんの中には、利用できるサービスがあることを知らなかったとか、家族以外に頼れると思っていなかったという方もいらっしゃいます。支援を必要とする世帯に、少しずつでも支援を届けていきたいです」と福司さん。

一般市民にもできることはある。まずはヤングケアラーを知り、子どもに寄り添う

「それぞれのご家庭の状況、担っているお世話や家事の負担や継続性によって、お手伝いなのかケアラーなのかの線引きが難しいところです。私たちもそこの部分をどう見極めながら、どう声をかけながら支援していくかが課題です」と引地さん。

森口さんは「お手伝いは悪いことではないし、むしろ成長するにあたって必要な部分もあります。でも、度を超えたお手伝いはヤングケアラーになりうると思うんです」と話します。

たとえば子どもが「今日は〇〇ちゃんと遊びたい」と言ったとき、「うん、いいよ」と言ってあげられる環境が作られているかどうか、あるいは「今日は難しいけれど、この日なら遊んできていいよ」と調整できる余裕があるかどうか。これらができず、「毎日いないと家が回らない」と引き留めてしまう場合、過度なお手伝い、つまりヤングケアラーに当たるのではないかと考えるそう。

「子どもが成長していく過程で経験してほしいこと、友達と遊んだり、部活をしたり、勉強をしたり、そういう時間を当たり前のようにすべて奪ってしまうような家族の世話は、過度なお手伝いだと思います。本当は、家族ひっくるめての支援ができたらヤングケアラーの子どもたちの負担はおのずと減っていくと思うけれど、そこがなかなか難しいところ。でも、私たちは子どもたちがあきらめることなく、やりたいことができるよう、自分が主人公となって生きていけるよう、寄り添って応援していきたいと思っています。ヤングケアラーの子たちにはまずは自分ひとりで抱えず、交流サロンなどがあることを知ってもらいたいですね」

引地さんは、私たち一般市民もヤングケアラーのことや札幌市が設置している相談窓口、支援サービスのことも知ってもらい、必要がある子どもには助け舟を出してあげてほしいと言います。

「たとえば、毎日スーパーに買い物に来る子がいたとして、買っているものがお菓子や漫画ではなく、食品や日用品だったら、もしかして?と思ってほしい。ただしそのときにいきなりヤングケアラーと声をかけるのではなく、温かい目で、少しずつ距離を縮め、困っていることがないかとさりげなく声をかけてもらえたらと思います」と引地さん。

デリケートなことだからこそ、声かけは慎重に。でも、きちんと見ているよ、見守っているよ、何かあったら頼っていいよというサインを私たちが送ることで、ヤングケアラー問題が抱える課題をほんの少しでも解決できるのかもしれません。

引地志保さん

札幌市子ども未来局子ども育成部子どものくらし・若者支援担当課課長

引地志保さん

福司明香さん

札幌市子ども未来局子ども育成部子どものくらし・若者支援担当課

福司明香さん

北海道札幌市中央区南1条東1丁目 大通バスセンタービル1号館7階

TEL. 011-211-2947

札幌市HP

森口賀寿葉さん

公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会こども若者事業部こども事業課主任

森口賀寿葉さん

北海道札幌市西区宮の沢1条1丁目1-10

公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会HP

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