派手さはないかもしれませんが、私たちの日々の食卓に欠かせない「海苔」。おにぎりに巻かれた海苔の香ばしい香りは、日本人にはホッとする「おいしい」香りですよね。その海苔をはじめ、和食に欠かせない乾物を扱っているのが札幌に本社を置く「ホッカン」です。同社は海苔などの乾物メーカーですが、他社の商品の卸売業も行っている2つの側面を持った珍しい会社。今回は海苔工場も併設している白石区の流通センターにある本社を訪れ、営業第1部の課長・岡崎伸彦さんに会社のこと、仕事のことなどを伺いました。
新卒で入社し、営業として20年の豊富な経験を生かして活躍中
大きなトラックがたくさん走る流通センター。イベントや展示会が行われるアクセスサッポロを越えて少し行ったところに、今回の目的地である「ホッカン」の社屋があります。忍者の格好をした同社のキャラクター「のり丸くん」が目印です。
広く清潔感のあるロビーに一歩入ると、潮の香りが鼻先をかすめ、海苔を加工する工場を併設しているのだなとあらためて実感します。そんなことを考えていると、「よろしくお願いします」と今回取材させていただく岡崎伸彦さんが現れました。
若々しい印象の岡崎さんですが、入社20年というベテラン組。豊富な現場経験を生かし、課長として部下を引っ張りながら、自身も営業として日々忙しく飛び回っています。
「出身は千葉で、大学から札幌に来ました。両親が札幌出身で祖父母もいたので、札幌は子どものころから親しみのある街でした。ずっとサッカーをやっていて、サッカー繋がりの友達や知り合いも札幌に多く、大学時代は楽しく生活していました」
大学卒業後は関東へ戻ろうと考え、東京の企業に的を絞って就活をしていたそうですが、ちょうど就職氷河期といわれた頃でなかなかうまくいきませんでした。道内の企業にも目を向けようとターゲットを広げ、説明会で「ホッカン」と出会います。
「当初、業種にこだわりはなかったのですが、食は人にとって欠かせないものですし、特に海苔や乾物は日本人に欠かせないものだから、そういうものを製造している食品メーカーに魅力を感じて入社を決めました」
ところが入社してみると、「メーカーの仕事だけではなく、他社の商品を卸す仕事もしていてびっくりしました」と笑います。自社の海苔や乾物をスーパーなどに卸すほか、寿司店やファミレス、スーパーの惣菜担当部署に自社商品のほかに、他社の業務用商品も卸すという2つの顔があり、現在は営業第1部、第2部で担当分けをしているそうです。
営業といってもその仕事内容の幅は広く、新商品を考えることも!
岡崎さんがいる営業第1部は、メーカーとしてスーパーの棚に並ぶ家庭用の乾物商品を扱う部署。「乾物には、海産乾物と農産乾物と大きく2つあり、うちは両方全般を扱っています」と岡崎さん。海産乾物は海苔やコンブ、ひじき、ワカメなどで、農産乾物はシイタケ、春雨、切り干し大根など。主な取引先はスーパー各社ですが、お土産屋やEコマースのショップなどにも卸しているそう。
「得意先をただ回るだけでなく、エンドユーザーの価格設定やスーパーへの卸価格の設定、在庫チェック、スーパーの商品が並ぶ棚のゾーニング(商品陳列の構成を考える)なども行います。棚に関しては、スーパーなどから乾物の棚を任せてもらっていることも多く、バランスや売れ行き、トレンドなどを考えながら陳列を考えています」
価格も原材料の産地や仕入れ価格などあらゆることを加味して決めるため、決して簡単ではありません。また、消費者行動から見て、乾物、特に海苔が動くのは年末ですが、その年末商戦に向けて9月あたりから各スーパーとの商談が増え、忙しくなるそう。さらに半期に1度は各スーパーの棚の見直しもあります。ほかにも、手に取ってもらえるパッケージについて考えたり、時代のニーズやトレンドを踏まえて新商品を考案したりすることもあるそう。スーパーのオリジナル商品を作ることもあり、それらの相談を受け、商品化まで併走するのも仕事です。営業とひと言で言っても、その幅の広さに驚きます。
「新商品を考えるときは、自分が売りたいと思うものを作ることができるので、結構楽しいですよ。あとは、販促についても自分たちで考えますし…。考えることはいつもたくさんありますね(笑)」
岡崎さんは現在1人で60社近くの顧客を担当しています。道内のスーパーのほか、関東から九州まで各地のスーパー、有名ECサイトなどを担当しています。2020年から3年間、転勤で東京支店にいたという岡崎さんは、「東京で広域営業を担当していたこともあり、それをそのまま第1部で見ているので全国各地のお客さんを担当しているんです」と話します。ちなみに、学生時代に東京で働きたいと思っていた岡崎さんは「念願の東京だと思ったのもつかの間、ちょうどコロナ禍に突入してしまい、ほとんどリモートワークの3年間でした」と苦笑します。
営業の仕事内容に関してさらに驚いたのは、原材料の海苔の仕入れも一部担当しているという話。岡崎さんは、「指定業者として買い付けに行って、入札もしています。産地は宮城、愛知、四国、九州とありますが、僕は宮城の買い付けに毎年行っています」と話します。
自社製品に誇りを持ち、海苔や乾物の素晴らしさを伝えていきたい
いち営業として現場の仕事をこなす傍ら、部下の指導にあたったり、相談に応じたり、中間管理職としても多忙な岡崎さん。仕事でやりがいを感じるときはどういうときなのでしょうか。
「若いときは営業として数字を上げることに必死だったので、利益を出して会社に貢献することが大きなやりがいでした。お客さんに提案し、それが通ったときも嬉しかったですね。でも、部署をまとめる立場になった今は、自身のこれまでの経験を伝えるなどしてみんなの役に立てるよう、みんなが力を発揮できるようにといつも考えています。それでみんながうまく仕事を回していけるのを見ると嬉しく思いますね」
世の中の動向やマーケティングなど、その都度学ぶこともたくさんありますが、それも仕事の面白さのひとつと続けます。
新入社員が入ったときは、まずは自社商品を知ること、興味を持つことから教えているそう。「メーカーですので、自社のものに誇りを持ってお客さんに提案、提供しなければなりません。そのためにはまずはよく知ることですよね。あとは、海苔や乾物についても知ることが大事と伝えています」と岡崎さん。自身も入社してすぐから乾物について学んでいったそう。
「学生時代から自炊をしていましたし、料理も好きだったので、自分でも乾物から出汁を取って料理をするなど、使ってみてその良さもお客さんに伝えられるようにと思っていました」
旅行先や出張先でもすぐに地元のスーパーに立ち寄り、乾物売場をチェックしてしまうそう。「商品の並びを見ると、その地域でどのようなものが好まれているのかなどが分かるし、そのときの流行なども感じ取れます。また、新商品のヒントが得られることもあって、どこへ行ってもついスーパーに入ってしまうんです。これは職業病ですね」と笑いますが、その様子は楽しそうにも見えます。
会社としても、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食の文化、和食に欠かせない乾物の伝統を次世代に継承することを大切に考えているそうです。
「乾物で使っているのは、海や山の自然の恵みから得た素材。食生活はどんどん変化していますが、乾物が素晴らしい食材であることを若い世代にも伝えていきたいし、そういうものを取り扱っている会社であることに胸を張りたいです」
仕事は楽しくがモットー。風通しの良い職場の雰囲気作りにも配慮
会社の雰囲気について伺うと、「自由で風通しも良いと思います。自分が入社したときに比べると現場が動きやすくなり、いい方向に変わっているし、働く環境は常に改善されていると思います」と岡崎さん。
自由度が高い分、もちろん自身の管理能力や責任も伴いますが、「言われたことを渋々やるより、自分で考えて動いて結果を出す面白さは確実にあると思います。自分で作りたい商品を作らせてもらえるのも、うちの会社の規模だからできることだと思います」と話します。
半年に1度、会社で研修旅行があり、「全部の部署から人が集まるので、普段話す機会の少ない部署の人ともコミュニケーションを取ることができて楽しいですよ」とニッコリ。さらに、新商品のプロジェクトなど、部署を横断してチームが作られることもあり、他の部署との交流はよくあるそうです。
「僕自身、仕事は楽しくやりたいと思うタイプ。職場の雰囲気が悪いと楽しいものも楽しくなくなると思うので、雰囲気作りは大切にしています。職場の雰囲気作りは管理職の役目だと思っているので、どんなに自分が忙しくても部下の声がけなど怠らないようにしています」
スポーツもアウトドアも好きな岡崎さん。単身者の部下が多かったときは一緒に釣りやキャンプを楽しんでいたそう。「コロナがあったり、既婚者が増えたりでみんなで出かける機会は減ってしまいましたが、その分、普段のコミュニケーションはしっかり取るように心がけています」と話します。
最近は自身も多忙で、趣味に時間を割けないのが少々残念と言いますが、「ずっと続くわけではないので、落ち着いたらいっぱい遊びます」と笑います。車、釣り、キャンプ、サッカー、スノーボード、料理、音楽と多趣味な岡崎さん。中でも音楽は、小学生のころからギターを演奏し、高校時代はバンドを組んでコンテストで賞を受賞した経験もあるそう。
これからのことを尋ねると、「営業としては利益を出すことが大事。いかに利益を出せる商品を作って、売っていくかをみんなで一丸となって考え、同じ方向を向いて楽しみながら取り組んでいきたいですね」と最後に話してくれました。