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大学生で魚屋?水産業の未来へ全力でひた走る熱き青年のお話

2023.10.31

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サケ、ホタテ、タラ、ホッケ、いくら、ウニ等々、多種多様な魚介類を全国に送り出している北海道の漁業。国内はもとより海外でも、高い評価を得ています。そういった水産関係・漁業関係の方と関わっていく中で、ちょくちょく名前が出てくる大学生がいます。

北海道大学 水産学部 海洋生物科学科に在籍する北浦優斗(きたうらゆうと)さん。彼は大学生であり、魚屋さんです。いったいどんな人なんでしょう?彼のSNSにはこんなことが書かれてありました。

特徴:とにかく何でも全力でやることがかっこいいと思っている

人生の目的:今、この瞬間を幸せに生きる

大学生で魚屋さん?なぜ?そんなことできるの?聞きたいことが次から次へと出てきます。お話を伺う中で感じた、彼の中の熱いエネルギー。それは私たちが圧倒されるほどでした。ぜひ皆さんにも、彼の熱さを感じてほしい!

有り余るエネルギーをサッカーに捧げた幼少期。そして北海道へ

大阪府堺市出身の北浦さん。取材当日は生憎の雨でしたが、緑溢れる北海道大学のキャンパスに自転車で颯爽と現れました。案内していただいたのは、北大構内で100年以上の歴史を持つ学生寮、「恵迪寮(けいてきりょう)」。この恵迪寮が、現在の活動拠点の一つとなっているとのこと。

高校3年生までは、生活のすべてをサッカーに捧げるほど、生粋のサッカー少年だった北浦さん。海が近いまちで育ち、近所には魚市場もありましたが、当時はほとんど行かなかったそうです。

「高校3年まではサッカーしかしてなかったですね。でも高校最後の大会は、コロナの影響で出ることができませんでした。そのモヤモヤした気持ちをもてあましていたら、大学受験を考える時期になって。そりあえずそれに全部ぶつけることにしました」

「進学については、特にこの道に進みたいっていう考えはありませんでした。でも自然に関わることには興味があって、それを勉強したい思いはありました。じゃあとりあえず北海道だろうって。すごく浅い考えで決めました(笑)」

彼の湧き上がるエネルギーの行き先ははたまたま北海道へ。そして北大水産学部での大学生生活がスタートします。

思うように行かない大学生活。休学への決意

まだまだコロナの影響が大きかった大学生生活のスタート時。行動も制限され、思ったような活動が出来ず悶々とする日々。面白さを感じられなかったそんな時期に、あるイベントと出会った北浦さん。それは、学生団体と地元の飲食店と大学1年生が一緒に食卓を囲み、参加している飲食店の新メニューを一緒に考える企画でした。そこで様々な活動をしている同級生たちと出会いました。会社を興した人、イベントを企画している人。コロナに負けず、自分の想いを行動に起こしている人達でした。

「夢中に活動する同世代との出会いは刺激的でした。自分にはそういうものが見つかってないっていうことも実感しましたね。それで何を思ったか、そのイベントの3日後に、イベントに参加していた『夢を語れ札幌』というラーメン店に『バイトさせて下さい』って突撃したんです。募集はしてなかったんですけどね」

このラーメン店でアルバイトを始めた北浦さん。その中で、お店の定休日に1日店長として運営のすべてをやらせてもらう機会を得ます。仕入れ・仕込み・調理・接客、その全てを一人で行ったそうです。

「オリジナルメニューを考えたり、仕入れや売上を計算したり、経営の流れを一通り経験しました。大学もあったので寝る時間を削ってやってました。正直きつかったですけど、いろんな人と夢や将来を語り合ったりすることもあって、とても充実してました」

1日店長としては約4カ月間活動。その中で一番大変だったことは、人と一緒に働くことだったそうです。

「自分はいろんなことを学ぶ気持ちで取り組んでましたが、みんな同じテンションじゃないですよね。働くことに対しての考えもみんな違うっていうことを知りました」

目の前のことに対して真っ直ぐにエネルギーをぶつけていく北浦さんは、多くのことを学んで行きます。他の人と歩調を合わせる大変さもその一つでした。

1年生を終了する頃には、大学で日々学ぶ水産業界でも、実際の仕事やそこで活動している人の考えを知りたいという思いが生まれます。両親やまわりの人たちに相談し、彼は1年間の休学を決意。ここから水産業の現実を学ぶ旅が始まります。

インターンシップで道内各地を駆け回る

水産現場を学ぶ最初の武者修行は、大学の先輩に紹介してもらった、むかわ町にある「鵡川漁業協同組合」でのインターンシップでした。

「こちらの漁協には、たまたま僕の先輩が1年前にインターンしていました。それで紹介してもらったんです。魚を獲る漁師さん、それを受け取って市場に卸す漁協、両方の仕事を見ることができるので、漁協でのインターンは最適でした。それぞれの仕事の現場をみることができると思いました」

北浦さんは魚の仕分けや選別などを経験する中で、それぞれの仕事の現状や、そこで働く人たちの思いを目の当たりにしていきます。当然そこでも、全てが一致するわけではありません。みんなで足並みを揃えることの難しさは、ここでも知ることになります。

「今考えればわかるんですが、その時は、なんでみんなもっと仲良くできないんだろうって思いました。みんなで力を合わせれば、簡単に問題解決できるのにって。でも、実際はそんなに簡単じゃないですよね。それぞれに考えていることや都合もあるし」

未利用魚の問題についても、そのインターンの中で学んだそうです。未利用魚とは、認知度の低さや安定供給度合いの低さで、十分な利益にならないことを理由に、市場に出回らない魚のことです。こういった未利用魚には、味の良い魚もたくさんあります。未利用魚の活用は、漁師の生活安定に繋がる課題です。北浦さんは、こういった水産現場のリアルも学んでいったのでした。

鵡川漁協でのインターンの次の目的地は広尾町でした。広尾町では、ピロロツーリズム推進協議会でのインターンを経験。こちらは、酪農家や漁師・農家などの一次産業同士を繋ぎ、体験型観光や商品開発など新たな地域の魅力づくりに取り組む団体です。北浦さんはこちらの団体の副代表である、昆布漁師の保志弘一さんと一緒に昆布漁を経験します。また、漁に出ないときはピロロツーリズムの地域おこし活動にも参加。保志さん以外の漁師さんとも、多くの交流が生まれました。

インターンでの一枚。多くの方との出会いが生まれます
船の上での仕事も経験

近頃の水産業界では、6次化が話題にあがっています。6次化とは、漁獲・加工・販売を一事業者で一貫して行うことです。

「6次化は水産業界のトレンドですが、全ての漁師さんが出来るわけではないということも知りました。6次化しても、すべての問題は解決できるわけじゃないんだなって思いました。本来なら、漁師さんは魚を獲って事業を成立させる、そういう世界が理想だと思うんですけど、そう簡単じゃないんだっていうことですね」

北浦さんには見るもの全てが新鮮に映ります。その真っ直ぐな視線。大学生だからこそ聞くことができる、それぞれの立場のお話。「大学生じゃなかったら、そこまで本音の話で話してくれないですよね」と感じる北浦さん。弱冠二十歳にして、水産業界の本当に深いところまで目にしてきたようです。

広尾でのインターンを終えた後も、インドネシアのバリ島でインターンに参加したり、福岡県で未利用魚を使ったアジフライのお店をだしてみたりと、お話を伺っているこちらが驚くような経験を積んでいきます。こうして休学期間の1年間は、あっという間に過ぎていくのでした。

水産業の魅力を多くの方に伝えたい!移動式鮮魚店「レディ魚ー」始動!

1年間の休学を終えた2023年の春。北浦さんはある事業を始めました。それが私たち取材班が耳にしていた魚屋さんの事業です。

「福岡で活動していたときに知り合った会社の社長さんから、北海道で支店を出さないかとお声をかけていただきました。諸々事情があってそのお話は一旦お断りしたんですけど、水産に関わる何かはやりたいなってずっと思ってて。それで、できることから小さく始めてみようと思ったのが移動販売なんです。考えはあんまりまとまってなかったんですけど、とりあえず軽トラック買いました笑」

こうして始まったのが、移動式鮮魚店「レディ魚ー(レディゴー)」。各地で開催されるイベントやお祭りなどに出向き、包装された商品を仕入れて販売する物販事業をメインで行っています。6次化して頑張っている漁師さんへの、販売する場所の提供も目的の一つです。

「魚屋を始めてはみたんですが、魚についての目利きや知識が全然なかったんです。それはちょっとまずいなと思って、札幌市内にある一和鮮魚店さんで修行させていただきました。こちらでは週1回、朝から晩まで魚を裁き続けてました」

こちらの一和鮮魚店さんについては「くらしごと」で取材しておりますので、こちらもご覧いただければと思います。

現在この移動販売の事業は、北浦さんの繋がりからどんどん人が集まり、今では約30名が所属し、15名位のメンバーが中心となって活動しています。しかし、メンバーの中には現場を経験出来ていない仲間も多いとのこと。目下の予定は、メンバーみんなで水産の現場に行くことだそうです。水産の現場に触れ、その魅力を伝える力を身に付けようとしています。また。水産業界の課題に目を向けられるようになることも、目標の一つだそうです。

水産業界の新しい形を考えていくこと

「道内各地でインターンを経験して、沢山の魅力的な方に出会いました。同時に、これまで全く知らなかった水産業界の現実も目にすることができました」と語る北浦さん。

思うように魚が獲れない現実も見てきたそうです。海老を獲りに船を出しても、10匹しか籠に入らなかったり、狙った魚が思うように獲れないときもあること。安定した漁獲量を確保することは、簡単なことではありません。これも漁師さんのリアルな現実。

「だから本当に漁師さんの力にならないと、漁師さんがいなくなっちゃうんじゃないかって思いました。水産業に関わる人の魅力を、この事業を通じて多くの方に伝えていきたいです。それが今の僕にできることだと思うので」

「僕たちはもっともっと勉強して、水産の現場を知らなきゃいけないんです。今やっているこの移動式鮮魚店の事業は、水産の現場と大学での座学を繋げる場所だと思っています。このお店をしっかり形にして、後輩たちが学べる場所を残していきたいです」

以前SNSで、「水産業界に革命を起こしたい」という強いメッセージを残していた北浦さん。水産業界の様々な現実を目にした今は、変わらなければならないことと残していかなければならないこと、その両方を理解した上で新しい形を考えていくことが、自分たちの使命と感じているようです。

大学3年生になると、北大水産学部は函館キャンパスに移ります。北浦さんも2024年から函館に拠点が変わりますが、きっとこれからもその熱さを失うことなく、走り続けていくことだろうと思います。

「この先どんな活動をしていくのか、将来どんな仕事に就くのか、今のところはまだ全然具体的にはなっていませんが、水産業界には関わっていきたいと思っています」

北浦さんとは、この先取材を続けていれば、またきっとどこかで出会う日が来るんだろうと思います。その時に彼が、何を考えどんな活動をしているのか。きっとその時も、まわりをわくわくさせるような、熱い思いを形にしているに違いありません。

北浦優翔さん

北海道大学 水産学部

北浦優翔さん

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