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困りごとを解決する。問題はシンプルだけど、解き方は千差万別。

2024.7.25

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大切な人が突然亡くなると、近しい人であるほど、悲しみに浸る間もなく、いくつもの手続きを進めなければなりません。しかし、何から手を付けて良いか分からず、不安を抱える人が多いのです。さらに、葬儀が終わった後には何をするべきか想像もつきません。そんな遺族の気持ちに寄り添い、支援する事業を展開している株式会社アルドの代表取締役、山本貴之さんにお話を伺いました。

大切な人の死に直面した原体験

株式会社アルドが手がける現在の事業は、山本さんの体験が原点にありました。

中学生の頃から面倒を見てくれた育ての父親が2017年に突然亡くなり、様々な手続きを行う必要が生じましたが、全く思うように進まなかったといいます。当時の苦労話を語ってくれました。

「育ての父親が亡くなったのですが、書類上は赤の他人と判断されてしまうので、火葬や納骨をするために必要な火葬許可証をもらえなかったり、一般的にできる手続きが自分の立場ではできなくて本当に困りました。父は会社経営もしていたので会社の手続きも必要でしたが、口座や書類の場所も何もわからず、思い通り進められずに大変な思いをしました」

やらなければならない手続きが次々と増え、しかも進まない。先延ばしにできない手続きもあり、早く解決しなければならない。突然そのような状況に追い込まれ、悲しみよりも先に不安と焦りを感じたそうです。そして、父親が経営していた会社というのが、いま山本さんが代表を務める株式会社アルドでした。

父親が残したもの、失って得た経験

育ての父親が2009年に設立した株式会社アルドは、衣食住に関わる仕事を通じて社会に貢献するために設立されました。社名の由来は「なんでもあるど」からきているそうです。山本さんの父親は宅地建物取引士の国家資格を持っておりました。会社設立から9年目に、不動産事業を始めるため山本代表自身も宅地建物取引士の資格を取得し、事業を始める申請をしました。しかしその年、父親は突然亡くなってしまいます。

父親がどんな思いで会社を立ち上げ経営をしようとしていたのか、仕事を通じて何を成し遂げたかったのか、正直なところ全く聞いていなかったと山本さんは言います。そんな会社をなぜ引き継いだのかを尋ねたとき、父親の思い出を話してくれました。

「父親から褒められた記憶が全然ないんです。いつも怒られていました。父のいない部屋を掃除していたとき、机からたくさんの名刺が出てきました。会社経営をしていたから当然かもしれませんが、飲食店の名刺も多かったんです。興味本位で、妻と一緒にその店を全て回ってみたら、驚くことにみんな僕のことを知っていました。父はお酒に酔うと、自慢げに息子を褒めていたんだそうです。…嬉しかったですね。亡くなってから、感謝の気持ちが湧いてきました」

怒る父親の記憶しか残っていないはずが、外では全く違う姿を見せていました。想像もしていなかった、全く知らない父親の姿。父親が残した会社を継ぎ、自分自身が体験した苦労を解決できる仕事がしたい。この二つの想いが合わさり、株式会社アルドの遺族への支援事業が始まりました。

本気になって、遺族に寄り添う

大切な人が亡くなったとき、必要な手続きは人によって異なります。株式会社アルドでは提携する葬儀会社様と連携してご遺族の方と連絡を取り、必要に応じて訪問日を調整します。身内が突然亡くなる心構えとして、とても重要なことを教えてもらいました。

「大切な人が亡くなるなんてことは一生のうちに数回しかありません。その準備ができていないのは当然なんです。最初は何に困ってるかも分からない人が多いので、ご遺族の状況などをとにかく聴いて、いま必要な手続き、これから必要になってくるであろう手続きなどをアドバイスします」

最初の相談で、今後の道筋がだいたい見えて来るそうです。一般的には、困ったときに検索サイトなどで会社を選び、問い合わせてから会社の事務所に行くケースが多いですが、株式会社アルドは早くからご連絡を取り、自宅まで駆けつけます。「そんな不謹慎な電話をかけてこないで」と怒られることも多いのかと思いましたが、そのようなケースはかなり少ないそうです。

筆者の体験談になりますが、4年前に父親が亡くなったとき、葬儀会社の担当者がとても親身になってくれたことを覚えています。お弁当の発注、新聞への掲載依頼、お寺さんへの連絡など、次から次へとやるべきことを処理して、悲しむ余裕すらありませんでしたが、困ったら相談できる相手がいるというのは心強かったです。しかし、葬儀が終わるとその担当者と会う機会も話す機会もなくなります。

お墓の問題、自宅の名義変更、口座解約や公共料金の名義変更、携帯電話やネットサービスの解約、父方の親族の介護問題など、新しい困りごとが古民家の雨漏りのようにポタポタと落ちてきます。これから先、予想外の新しい問題が隠れているかもしれませんが、いつでも何でも相談できる存在がいたら、とっても安心だと思います。

問題は至ってシンプル、解き方は千差万別

株式会社アルドのHPを見ると、相続不動産事業、遺族支援事業、遺品整理事業、omamori【死後事務委任】、生命保険代理店事業と、たくさんの事業が書かれていますが、元々は遺族支援事業だけだったそうです。

会社を引き継いでから手書きでパンフレットを作成し、関係者を回り、どんな困りごとがあるのかを聞いて回った山本さん。当初は相談件数も少なかったそうですが、徐々に遺族からの問合せが来るようになり、いろんな人の悩みが分かったそうです。

「最初は葬儀会社や病院などを周り、業者側の困りごとを聞いて回りました。徐々に遺族の話も聞けるようになり、できることがあれば解決していきました。今思えばボランティアでしたね。でもおかげでニーズがつかめました。『やっているのは遺族支援じゃないか』、と言ってくれた人がいて、当時はそんな言葉を使っている人はいませんでしたが、業務内容を遺族支援事業と名づけました」

葬儀が終わった後に不動産売買に関する相談が多く、売れる遺品があるなら買取をお願いしたい、遺品を処分してほしいという声が多く集まり、自社でできる事業が増えていきました。また、一社だけでは解決できないほどに遺族の困りごとは多岐に渡ります。そこで、協力会社と一緒に動くことでスムーズに対応できるよう体制が整えられました。

株式会社アルドは山本さんを含めて6名、グループ会社は4社あり、協力会社のスタッフが相談を受けることもあります。相談件数は月に約150件ほどです。

遺族が困っているタイミングで駆けつけ、その問題を解決する。やっていることは至ってシンプルですが、当事者それぞれに課題が異なり、その解決方法も均一ではありません。トータルでサポートしてくれる体制は心強いですね。

生前の相談も。複雑化する社会問題

葬儀以降の関わりをメインにしていましたが、「子どもたちに負担をかけたくない」という理由などで、生前から相談するケースも増えてきたそうです。また、「自分には家族がいないから、亡くなったら遺産は全てお寺さんに寄付したい」という要望を受けた住職さんから相談を受けたこともあったそうです。この場合、いないと思われていた親族が出てきて「騙したんですか?」などと、後になってから言われる可能性もあり、様々な懸念材料があったとのこと。

そこで、生前に死後事務委任契約書を公正証書で作成する仕事にも対応するようになりました。今までにも、遺書を巡って家族が揉める場面が何度もあったそうです。「これはあんたが書かせたんでしょ、私は聞いてない」など、お金に絡む遺族の揉め事も少なくありません。死後事務委任契約書をネットで調べて自分で書こうとする人もいるそうですが、かなり内容も複雑で難しいとのことです。

会社を引き継いで今年で8年目。時代の変化について尋ねたところ、コロナの影響もあり、自殺や孤独死が増えているそうです。ニュースで知ってはいましたが、首都圏の話だと思っていました。しかし、実態は違いました。

「札幌や地方でも、コロナ以降かなり増えています。飲食店経営者が亡くなる場合、請求書と書かれた未開封の封筒の束が散らかっているなどの特徴があります。遺族に伝えると、『そんなに追い込まれていたなんて知らなかった』と答える人がほとんどです」

死を選択する前に言ってほしかった、と嘆く家族も多いそうですが、言えない精神状態だったのかもしれません。これは、関係性が薄いとか深いという単純な話ではなく、家族だからこそ相談できない悩みもあるんだそうです。特にお金については家族に言えないケースも多く、本当に難しい社会問題です。山本さんは、その社会問題を根本から解決するところまでは手が届きませんが、時代の変化を体感しているようでした。

また、問題が複雑化し、誰に相談したらよいか分からない悩みに陥ることも増えたそうです。例えば、弁護士資格を持っていないのに詳細を聞き出して交渉などを行うと、非弁行為となって処罰されることもあります。そのため、詳しい話を聞けなかったり、詳しく説明することができない場合もあるそうです。弁護士、行政書士、司法書士、税理士など、誰に相談したらいいのかなんて一般の知識では分からない。そのため、ワンストップ窓口のような形でまずは相談を受け、そこから専門会社を紹介するなどのサポートもあります。

相談の連絡が来たら、可能な限り相手に合わせます。そのため、山本さんのスケジュールは常にパンパンになるそうです。

代表の人柄、会社の雰囲気

クリスマスやホワイトデーなどの大きなイベントでは、スタッフ全員分のプレゼントを用意する山本さん。スタッフの誕生日に何かサプライズを企画するのですか?という質問に、相談員を担当している敦賀さんはこう答えます。

「誕生日の場合、忘れてしまったり、直接渡せなかったり、土日を挟むとズレることもあるので、誕生日には何も用意しないと聞いたことがあります。隠し事ができない人だから、サプライズはきっと苦手だと思います(笑)」

「裏表が一切なくて、誰に対しても話し方を変えず、スタッフにも真剣に向き合ってくれます。子供の運動会や参観日などには『一切アポを入れないで!』と、年に何度か家族の日を作っている、家族思いのパパの一面もあります」

人の不幸に近い仕事、遺族のトラブルに巻き込まれるなどで負の気持ちも受け取って、ストレスは溜まらないんですか?との質問に、山本さんは明るく答えてくれました。

「ストレスは全く感じません、負だと思っていないんでしょうね。遺族の方が悲しいのは当然ですが、我々が一緒に暗くなる必要はないと思っています。『ご愁傷様です』という声かけも表面上の言葉になりやすいですから、スタッフには相手に気を遣い過ぎる必要はないと言っています。『大変な時にお疲れ様です』『休めてますか?』などの言葉は自然と出てくるので、遺族の前、関係会社との打ち合わせ、自社に戻ってからのスタッフとの会話、いつでもどこでも同じスタンスです」

悲しみに共感して欲しいわけではなく、いま起きている課題や、通過しそうな落とし穴があるなら事前に聞いておきたい。その知識と解決する知恵、そのための費用の目安を知りたい。父親の葬儀を経験した筆者にとって、山本さんの考え方には非常に共感できるものがありました。

最後に、この仕事をやっていてよかったと思う瞬間について山本さんに聞きました。

「遺族が喜ぶ姿を見たとき、それが一番嬉しいです。手続きなどが終わった後、最後にアンケートを書いてもらっているんですが、悩みが解決した後に率直に書かれたアンケートを読むと、素直に嬉しく、元気が出ます」

遺族からのコメントはHPに掲載されています。そこには、悩みが解決できた喜びと、支えてくれた感謝の気持ちが溢れていました。

株式会社アルドのHPには「家族以上に本気で関わり」という言葉が書かれています。正直なところ、インタビュー前は少し違和感を感じていました。「家族の問題を家族以上に関われる存在があるのだろうか?」と。しかし、身内だから話せないことがあり、揉めることもあれば、揉めたくないから踏み込んだ話ができないケースもあることを知りました。今思えば筆者自身も、第三者がいた方がスムーズに進んだと思えることがあり、父の死から4年が経ちますが、やらなければならないことを未だに後回しにしています。

だからこそ、家族とは少し違う視点から一緒になって、本気で困りごとに関わってくれる。そんな存在が欠かせないのだと感じました。何より、山本さんの人柄が、暗いトンネルに迷い込んでいても、きっと手を差し伸べてくれる安心感があります。その原点にあるのは、父親を失い、手続きに苦労したという経験。そして、失ってから得た父への想い。この人生体験に勝る説得力はありません。

山本貴之さん

株式会社アルド 代表取締役

山本貴之さん

札幌市東区北20条東1丁目1-17

TEL. 011-769-0083

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