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札幌で100年以上続く酒屋でみつけた、働きやすい職場のカタチ

2024.3.11

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明治43年創業。札幌市中央区で114年続く老舗酒屋、桜本商店。洗練された外観に心ときめきながら、店内に入るとセンスの良い日本酒や焼酎がズラリと並びます。「いらっしゃいませ!」と美しく輝く酒瓶たちの向こう側から現れたのが、今回の取材対象者である桜本商店のスタッフのおふたりです。入社12年目の古屋 秀斗(こや しゅうと)さんと、入社4ヶ月目の浅川 沙綾(あさかわ さや)さんに、桜本商店で働く理由を伺いました。

銘酒を知らない彼が見つけた酒屋

まずは、古屋さんに取材します。店内のお酒へ興味津々の私たちに、色々話しかけてくださり、とても気さくな人柄が印象的です。

「僕は、お取引のある飲食店さまへ、お酒の配達をするのが担当です。それと同時に、飲食店への営業も行います。酒屋の営業なので、お酒を薦めるのは想像がつきやすいと思いますが、『メニューを根本的に見直したい』という要望があれば、お酒リストを持って行き、一緒に料理に合うお酒を考えたりもするんですよ」

少しはにかみながら、仕事内容を説明してくれた古屋さん。つい声をかけたくなる人当たりの良さはどこからきたのか、桜本商店入社までの経歴も伺いました。

今回、取材させていただいた入社12年目の古屋 秀斗(こや しゅうと)さん。

「北見出身で、22歳の時に就職で札幌に出てきました。病院でリハビリ系の仕事をしていたのですが、24歳で退職します。当時も人と接することは好きでしたね。求職活動中に、友人が教えてくれた求人アプリで、桜本商店の求人を見つけて応募しました」

それまでの古屋さんは、お酒を飲むのは好きだったものの、銘酒と言われるお酒には全く縁がなかったそう。しかし、桜本商店の求人を見たときに「お酒は好きだし、なんだか桜本商店に関わってみたい」と直感的に感じたといいます。

「不思議な縁でしたね。履歴書を応募したら、書類選考が通ってすぐ面接でした。社長となにを話したかは、さすがに12年前なので記憶にないのですが(笑)。これだけは覚えていて…社長に『せっかく面接に来たし、お酒飲んでみる?』と言われたんですよ」

古屋さんのおすすめは、大分県豊後大野市に醸造所を置く、藤居醸造の麦焼酎「泰明」

古屋さんの思いがけないタイミングで、銘酒との出会いが訪れます。このときに注いでもらったお酒は、日本酒とゆず酒だったそう。

「今まで銘酒を飲んだことがなかったので、口に入れた瞬間に広がるまろやかな味わいに『こんなにうまいものがあるのか』と衝撃を受けました。ゆず酒の味も今も鮮明に覚えていて、ゆずの皮のほろ苦さと酸っぱさが絶妙に合わさって『果実酒って甘いだけじゃないんだ…』と感動したのを覚えています」

面接から1週間後には「うちで働いてくれますか?」と連絡があり、古屋さんは桜本商店の一員となります。その時の気持ちを聞いてみると…。

「嬉しかったですよ、すごく。でも『お酒のことわからないのに、ちゃんと仕事できるかな。先輩方についていけるかな』という不安も多少なりともありましたね」

その不安は、すぐに払拭されます。当時の桜本商店では、新入社員が久々だったこともあり、みんなが古屋さんを待ち焦がれている状態だったそう(笑)。優しい先輩方に迎えられ古屋さんは、桜本商店の仕事をスタートさせます。

「入社後は、お酒を覚えるために販売スタッフとして店頭に立ちました。最初は瓶を拭いたり、大量に入荷してくるお酒をバックヤードに運んだりする仕事が多かったですね。一升瓶が6本入ったケースを何往復も運ぶのですが、『新入社員だから頑張らなきゃ』と張り切りすぎて、腰がピシッと音をたてることはありました(笑)」

販売スタッフとしての仕事やお酒の名前を覚えたのをきっかけに、販売スタッフから徐々に配達スタッフへシフトしていきます。配達スタッフに切り替わって、印象に残ってることがあるそうで…。

「すすきのに配達しているときに、鮨屋さんに納品があったんですよ。まだ配達し始めたばかりで、納品時に酒瓶同士をカツンと当ててしまったんですよね。それをその店の大将が見てて『大事な商品だろ、大切に扱えよ』と叱ってもらえたんです。僕は、その一言から大将のプロ意識を感じて…。あの一言は今も心に残ってますね」

それまでも仕事に真摯に向き合ってきた古屋さんですが、このことをきっかけにより一層仕事に邁進していきます。

原動力は『人とのつながり』と『仲間がいるから』

その後、古屋さんはお酒をさらに深く知ろうと、2018年にJ.S.A.ソムリエ、2019年にJ.S.A.SAKEディプロマと、お酒に関する資格を取得します。

「J.S.A.ソムリエはワインの資格ということもあり、取得まで3年かかりました。僕にとっては、かなり難しかったですね…。J.S.A.SAKEディプロマは、日頃から接してる日本酒の資格なので、一発合格しましたよ!」

資格取得で得た知識が、普段の仕事の中で役に立つ瞬間があるのかを聞いてみると…。

取引先と情報交換をしながら、最適なお酒を提供出来ることがやりがいだそうです。

「お酒の基礎知識がわかるようになったのが大きいですね。麹や酵母についてしっかり学んだことはなかったので、酒の蔵元の人と話をするときに、製造工程や使用している材料のイメージがしやすくなりました」

古屋さんをはじめ、桜本商店の方たちは道外にある酒蔵の方が視察で北海道に来た時に、一緒に食事をしたりする機会が多いそう。来道するのは夏が多く、冬は仕込みをするため忙しいからだと言います。

「販売しているお酒を作ってくれた人に直に会えるのは、嬉しいですね。よく酒蔵さんから『俺たちは直接お客さまに販売できないから、よろしく頼むね』と言われるんです。そういわれると、販売する責任者として身が引き締まりますよね」

酒蔵さんとの交流イベントの様子。

古屋さんをそこまで突き動かす原動力には、なにがあるのでしょう。

「仕事を積み重ねていくうちに、人との交流が増えていき『この人たちのために頑張りたい』という気持ちが芽生えましたね。それが大きな原動力です。あとは個人的にも結婚し、子どもが生まれて、『親としてしっかりしていかないと』と変化があったことも大きいです」

さらに、古屋さんは話を続けます。

蔵元さんと桜本商店のスタッフが交流、お酒の勉強会をしている様子です。

「僕が働くのは、桜本商店じゃないといけないんです。桜本商店は、『お客さまに美味しいお酒を届けたい』という同じ志の元、チームで頑張れる。これは一朝一夕ではできない人間関係なので、大切にしています」

最後に、これから桜本商店でやりたいことを聞きました。

「伝えきれていない美味しいお酒を、お取引のある飲食店さまに広めていきたいですね!料理の魅力を、最大限に引き出すお酒をこれからもっと見つけていきたい。そしてそれが、誰かの美味しい幸せな瞬間につながると最高ですよね」

常に、消費者ニーズを意識して、ディスプレイを変更。スタッフ間では「銀座通り」と呼んでいます。

SNSの文面から感じた気遣いが、彼女を動かす

古屋さんは配達があるため、仕事へ戻ることに。続いて、浅川さんに取材をします。とても明るい方で「取材、緊張しませんか?」と私たちの問いかけにも「全く緊張しないです!」とはじける笑顔で答えてくれました。

「私は、販売スタッフを担当しています。お酒の販売以外に、陳列やレイアウト、ポップ作成なども行っています。入社して4ヵ月目で、やっと仕事を一通り覚えてきたところです」

浅川さんのハキハキとした受け答えは、入社4カ月目には思えないほど完璧です。桜本商店入社前に、接客の経験があったのでしょうか。

今回、取材させていただいた入社4ヶ月目の浅川 沙綾(あさかわ さや)さん。

「百貨店やダンススクールの事務受付などで接客経験はあるので、10年以上は接客に関わっていますね。人と話すことが好きなのは昔からで、今も大好きです」

納得の経歴です。桜本商店になぜ入社しようと思ったのかを聞いてみると…。

「友人がSNSで『この酒屋さん好きなんだよね』と教えてくれたのがきっかけで、桜本商店を知りました。ちょうどその時期に桜本商店の求人がSNSに載っていて、文面から求職者への気遣いを感じたんですよね。なんだかそれがすごく心に響いて、応募したんです」

浅川さんのおすすめは、新潟県佐渡市に醸造所を置く、天領盃酒造の新ブランド日本酒「雅楽代(うたしろ)」

その時、浅川さんは前職に在職中だったものの、「桜本商店で働きたい」という気持ちがおさえられなかったと言います。元々料理が趣味だったため、料理と相性の良いお酒を探すのも好きだったそう。応募からほどなくして書類選考通過の知らせがあり、社長との面接を迎えます。

「社長からの第一声も『緊張しない?』だったような気がします(笑)。緊張していないことを伝えると、『俺が緊張しているのか』と場を和ませてくれていましたね。話した内容は、お酒についてはもちろん。雑談に近いことも話して和やかな面接でした」

ちょうどこの話をしているときに、桜本商店の社長、櫻本武士(さくらもと たけし)さんが取材の様子を見に来てくれました。当時のお話を聞いてみると…

「浅川さんは『接客を通して、いいお酒をお客さまに届けたい』という信念と、周囲に気遣いできる方だと感じましたね。うちはチームで働く職場なので、相手を思いやる気持ちがあるかも面接では見ています。なので、入社するメンバーの人となりを全スタッフに見てもらい、全員の意見を聞いて決めるようにしています」

櫻本社長に「古屋さんも『桜本商店は、チームで働く』という話をしてました」と伝えると、ニコッと嬉しそうに笑い「それはよかった」と、取材場所を後にしました。一連の流れを聞いていた浅川さんは…。

「初めて社長の採用基準を聞きました(笑)。びっくりです。でも入社から少し時間が経った今の方が、社長と話す時に緊張するかもしれません。今の話のように仕事や人に対する考え方がかっこよくて…お酒に対する真摯な姿勢や、スタッフのことを第一に考えてくれていることを尊敬しています。なので緊張より、憧れという言葉が近いかもしれませんね。」

他に選択肢があっても、札幌の桜本商店を選ぶ

浅川さんが桜本商店で働く理由は『櫻本社長の人柄』かなと思い、本人に確認してみると、目をキラキラに輝かせて『もうひとりの櫻本さんの存在』を教えてくれました。

「『女将』の存在も大きいです!先代の奥様で、約50年間店頭に立ち続けている名物女将なんですよ。女将目当てにお酒を買いに来るお客さまも多いくらい、みんなに愛されています。私は入社してから女将の存在を知りましたが、豊富な知識と温かい接客、なにより人柄に惚れこんでいます」

女将さんの優しい人柄が、長く続く桜本商店の源と話す浅川さん。スタッフ全員がやりがいを持ち、楽しそうに働く姿が印象的でした。

浅川さんにとって、櫻本社長たちの存在はかなり大きいように感じます。改めて、桜本商店で働く理由を聞いてみると…

「櫻本社長たちやスタッフのみなさんが、人のありのままを認めて、いいところを探してくれるんですよね。そこに居心地の良さを感じているからかな。社長も女将も創業一族だけど、『たまたまリーダーだっただけ』と言って同じ目線で話をしてくれるんです。そういう懐の深さにも安心感がありますね」

お互いを認めて尊敬し合える人間関係の中で働くと、こんな相乗効果もあるそうで…

「今までの仕事は、マニュアル化されていて、答えのある仕事をすることが多かったんです。でも、桜本商店には、最低限のルールがあるだけ。最初はとまどいましたが、今は自分で考えて行動できる『仕事の余白』があることで、自分が桜本商店に貢献できているかを考えて仕事するようになりました」

この余白があることが、チームで行動するのにも大事な部分だとか。マニュアル化しないことで、自然と声掛けやコミュニケーションがうまれ、チームの士気も高まります。

「東京や他の地域にも、もしかしたら桜本商店のような酒屋はあるのかもしれないけど…私はきっと札幌の桜本商店を選びますね。今いるメンバーと一緒に働けている幸せもあるし、ご来店いただくお客さまも優しい方が多く、ここで接客できることに喜びを感じています」

浅川さんにもこれからやりたいことを聞いてみました。

「自分らしくお客さまに寄り添った接客をしていきたいです。あとは、古屋さんも取得しているJ.S.A.SAKEディプロマの資格を取って、もっとお酒の知識をつけていきたいですね」

取材中、何度も「桜本商店の人たちは、みんな家族みたいだな」と思ってお話を聞いていました。配達へ向かう古屋さんに優しく声掛けする姿や、浅川さんと女将の会話を見ていても、なんだか親戚が集まるお正月の実家にいるような感覚で、すごく心地よかったです。この和やかな雰囲気はお客さまにも伝わるようで、取材中に来店したお客さまも「女将!」と嬉しそうに話しかけています。

『チームで働く』ということは、意思疎通がうまくいかないことでマイナスになることもあると思います。ただ、そこに『相手を思いやる気持ち』があるだけで、その摩擦さえもうまくいき、こんなにもチームで働くことへの幸福度が上がるんだということに気づかされました。

114年前の創業当時からきっとこの場所の居心地の良さは変わらず、そしてこれからもこのままでいてほしいと、願わずにはいられない取材でした。

たくさんのお酒が並びます。桜本商店にしかないお酒もあるので、ぜひ足を運んでみてください。
古屋 秀斗さん

有限会社 丸市桜本商店

古屋 秀斗さん

浅川 沙綾さん

有限会社 丸市桜本商店

浅川 沙綾さん

本店/札幌市中央区南10条西7丁目4-3
円山店/札幌市中央区北5条西27丁目3-5 1F

TEL. 011-521-2078(本店)

011-699-5027(円山店)

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