札幌市民ならば、「芸術の森」=南区にあるアートパーク「札幌芸術の森」と思う方が大半でしょう。美術館のある場所、音楽イベントをやる場所とつい直結して考えてしまいますが、「芸術の森」というのは地名でもあります。1丁目から3丁目まであるのです。2022年、その芸術の森3丁目にオープンしたのが、新しいアウトドアフィールド「芸森ワーサム」です。今回はここにおじゃまし、ジェネラルマネージャーの小川浩平さんに敷地内を案内してもらいました。
木々に囲まれた中にある新しいスタイルのアウトドアプラットフォーム
札幌の市街地から芸術の森方面へ車で約30分。国道453号を走り、「札幌芸術の森」を越えて右手の山側へ折れると、東京以北最大のレコーディングスタジオとされる「芸森スタジオ」があります。その向かい側にあるのが今回の目的地「芸森ワーサム」です。

国道を右に入った時点で、「本当にここで合っている? 間違えて迷い込んだ?」と不安がよぎるほど、雑木林に囲まれた場所。スタジオの大きな建物や芸森ワーサムの看板が見えて、ホッとする…。つまり、それくらい自然豊かな森に囲まれた場所であるというわけです。
まずは大きなコンテナを彷彿とさせる雰囲気の白い壁のセンタービルディングへ。建物の中は木をふんだんに用いた造りで、大きな窓からは柔らかな日差しが差し込んで気持ちの良い空間になっています。「こんにちは」と声をかけてくれたのが、今回お話を伺うジェネラルマネージャーの小川浩平さんです。

「芸森ワーサムは、新しい形のアウトドアプラットフォームとして2022年10月に宿泊のエリアからオープンしました。そのときはまだこのセンターの建物は稼働していなくて、ここは2023年7月にオープンしました」
都心部からそう離れていない豊かな森の中で、それぞれが思うままに過ごせる新しいアウトドアの場所として誕生した芸森ワーサム。テントやコンテナハウスで宿泊もできれば、サウナもあり、レストランでは食事も楽しめ、コワーキングスペースとしての活用も可能という、これまでにあったようでなかった施設です。

アウトドア初心者から上級者まで楽しめる5つの宿泊スタイル
実際、小川さんに敷地内の宿泊施設を案内してもらうことに。宿泊は、「TINY HOTEL(タイニーホテル)」「GRAND TENT SITE(グランドテントサイト)」「CABIN(キャビン)」「FOREST TENT SITE(フォレストテントサイト)」「DOG CAMP SITE(ドッグキャンプサイト)」の5つのスタイルを選べることができます。

「TINY HOTEL(タイニーホテル)」は、コンテナを改装した小さな部屋。アウトドア初心者にもおすすめです。1~2人で利用が可能で、部屋の中を見せてもらうと、ベッドが設置され、絵画なども飾られています。「芸術の森というエリアなので、アートを取り入れるようにしています。生活に溶け込むようなアートをコンセプトに作品を選びました」と小川さん。外にはサウナとウッドデッキがあり、森を眺めながらプライベートサウナを満喫できます。冬場は雪が積もると、水風呂代わりに雪の中にダイブする人もいるとか。札幌市内でこんなサウナ体験ができるところはほかにないこともあり、サウナを目的にした日帰り利用の方も多いそう。


「GRAND TENT SITE(グランドテントサイト)」は、その名の通り、テントを張れるところなのですが、珍しいのがウッドデッキの上にテントを張るスタイル。「地面が少し湿っているとテントが汚れて後片付けが面倒という方も多く、ここは汚れないからいいねと言っていただけます」と小川さん。グランドテントサイトの中には、プライベートサウナ付きの区画もあります。

「TINY HOTEL(タイニーホテル)」「GRAND TENT SITE(グランドテントサイト)」があるところからさらに森の中に入った場所に立っているのが山小屋の「CABIN(キャビン)」。木々に囲まれた中にある小さな山小屋で、ウッドデッキも付いています。「ここは水も電気も通っていないのですが、なぜか女性に人気が高いんです」と小川さん。テントを張るのは面倒だけど、森の中でキャンプ気分を味わいたいという方に支持されているようです。

本格的に森の中で静かにキャンプがしたい。そういう方にぴったりなのが「FOREST TENT SITE(フォレストテントサイト)」です。離れて区分けされた3つのサイトにテントを持ち込む野営スタイル。あえてきれいに整地しないことで、本格キャンプの醍醐味を味わえるようになっています。

そして、愛犬とキャンプが楽しめる「DOG CAMP SITE(ドッグキャンプサイト)」は、センタービルディングから一番近い場所に設けられています。フェンスに囲まれたサイトの中で愛犬はノーリードで過ごすことができます。3つあるサイトのうち、1つは大型犬の利用も可能なゆったりした広さです。「ペット可のキャンプ場でも、多くはフェンスがないので犬同士が喧嘩するなど、結局気を使って休まらないそうなのですが、ここはフェンスで囲われたプライベートサイトとして利用できるのでゆっくりできるとリピートしてくださる方も多いです」とニッコリ。実はこのフェンス、小川さんが作ったのだそう!

森の中で過ごすアウトドアとひと言で言っても、これだけ多彩な過ごし方ができることに驚きです。アウトドア初心者から上級者まで、それぞれが好きな形で過ごせるのが魅力になっているのかもしれません。
センターの建物はカフェ利用のほか、コワーキングスペースとしても利用できる
宿泊エリアからセンタービルディングを挟むように、大型テントの下でBBQが楽しめる「OUTDOOR DINING(アウトドアダイニング)」や少人数用の屋外バンケット「BANQET TENT(バンケットテント)」のエリアが設けられています。デイキャンプで利用する方も多いとか。希望があれば、冬も雪景色を眺めながらBBQを体験できるそう。食材は持ち込みも可能ですが、片付けなどが面倒という人は手ぶらで芸森ワーサム厳選のキャンプ飯も楽しめます。

さて、センタービルディングに戻り、芸森ワーサムがオープンしたきっかけなどを伺うことに。
「ここは30年以上空いたままの札幌市の土地だったんです。事業用に販売をしていたようなのですが、いろいろ制限などがあり、なかなか買い手がつかなかったそうです。たまたま、向かいの芸森スタジオの運営に関わっている(株)ウエスの社長と当社の代表が知り合いで、『札幌市に何か提案して事業をやってみたら?』と声をかけていただいたのが最初のきっかけですね」

芸森ワーサムを運営しているのは、有限会社プライム・オブ・ライフという会社。メイン事業は不動産業なのだそう。土地や建物の売買仲介のほか、リフォームやリノベーションなども手がけています。また、アートを融合させた住空間の提案なども行っており、「実はここの土地を購入するには芸術文化も絡めた事業、観光に関係する事業を行うことという条件があり、そういう観点からも弊社の取り組んでいるアート関連の事業をうまく合わせられるのではと考えていました」と小川さん。
この自然豊かな敷地を生かすにはアウトドアだろうという事業構想があったそうですが、アートも絡めるということで、TINY HOTEL(タイニーホテル)の部屋にアート作品を飾るなど、アウトドアの中にもさまざまな現代アートが取り入れられています。お話を伺っているセンタービルディングの中の壁にも大きなアート作品が飾られており、「これはイベントで子どもたちに自由に描いてもらった絵を、アーティストの方に作品として仕上げてもらったものです」と説明してくれました。

芸森ワーサムの計画段階から関わっているという小川さん。てっきりアウトドア好きなのかと思いきや、「ウインタースポーツは好きなので、どちらかと言えば外遊び派ですが、そんなにバリバリのアウトドアというわけではありません。でも、ここで仕事をしていると、毎日キャンプをしているような気分です」と笑います。そう話す表情を見ていると、森の中で仕事をすることもまんざらではないよう。
「ギアのことなどアウトドアに詳しいわけではないので、お客さまから教わることも多いのですが、単純に自然の中にいるというのは気持ちがいいなと日々実感しています。ここにいるとより四季をはっきりと感じられるのもいいなと思っています」

センタービルディングはカフェやレストランとしての利用も可能ですが、契約をすればコワーキンスペースとしても利用ができるそう。しかも、月額費用の中にサウナ利用も含まれているため、契約者の中には仕事終わりにサウナに入って、リフレッシュしてから帰っていく人もいるとか。サウナ好きにはたまりません。
もともと南区の藤野出身という小川さん、以前は中央区に住んでいたそうですが、今は職場の近くに引っ越し、「あらためて自然豊かな南区が好きだなと感じています。たまに中央区に行くと、建物の高さや多さに驚くことも(笑)。すっかり自然の中にいるのが当たり前になってしまいました」と話します。

子ども、大学生など地域との繋がりも大切に。ここでしかできないことを満喫してほしい
レストランではシェフが腕をふるう料理も楽しめ、平日の日中は近隣の女性たちがランチやお茶で訪れるそう。また、芸森スタジオに来ているミュージシャンが立ち寄って、利用していくこともあるとか。さらに最近では月に1度、キャンドルライトディナーもスタート。人数を限定したスペシャルディナーで、都心のレストランと違った非日常的な時間を過ごせそうです。
「宿泊も食事も、札幌市内の方たちはもちろん、道内外から観光客の方もたくさん訪れて利用してくださっています。道外や海外からの方たちは、北海道らしさを求めて冬にいらっしゃるケースも多く見られます。市内の方たちは近場で手軽に非日常を求めている方、ひと息つきたい方が多いように思われますね」

また、地域との繋がりも大事にしているという芸森ワーサム。地域の人が気軽に参加できるイベントなども実施してきました。子どもたちが絵を描くペインティングイベントもその一つだったそう。「イベントをやることで、この場所を知ってほしい、訪れてほしいという思いもあって実施してきました。今年の冬は雪が降り積もったら、子どもたちが雪遊びを楽しめるスノーパークを作る予定です」と小川さん。
このほか、近隣にある札幌市立大学や札幌大学ともやり取りや連携をしているそう。センタービルディングから宿泊エリアへ向かう途中には、市立大学の学生が作った作品が展示されています。札幌大学とは授業の一コマで、毎年2月に学生たちがイグルー造りをここで行うとのこと。

「ここだからこそできること、体験できることっていろいろあると思うんです。たくさんの人にここを知ってもらい、芸森ワーサムならではの過ごし方を楽しんでもらいたいですね。南区が好きな自分としては、南区のためにもここを盛り上げていきたいです(笑)」
芸森ワーサムのWAは「和」、そこに「最高」という意味のオーサムを合体させて、ワーサム。この場所に人の輪・和ができていくようにという願いを込めて名付けられたそう。オープンから2年、小川さんは「お客さまがリフレッシュして笑顔で帰っていく様子を見るのは嬉しいし、そこにやりがいも感じています。自分自身も自然豊かな中で働くことにとても満足しています」と最後に語ってくれました。
