北海道の大事な産業のひとつである農業。その農業を支える仕事とひと言で言っても、実際のところさまざまなものがあります。株式会社エース・システムは農業機械の部分で北海道の農業を支える企業。トラクターなどの農業機械を油圧機器や電気電子機器などを用い農作業の効率化を向上させるための機械の製造を主に行っているほか、国内外の優れた価値のある製品を提案するという商社的な役割も担っています。今回は、同社のメインとなる機械部品の製造を実際に行っている東苗穂工場へおじゃましました。
北海道の農業を支える機械部品を製造。全国的に見ても希少なメーカー
札幌市にある豊平川と環状通が交差するそばにエース・システムの東苗穂工場があります。ここでは、白石区米里にある本社のほうで受注した製品の設計や製造を行っています。製品というのは、トラクターや農機に取り付けてバランスを保つための制御装置や油圧シリンダーなど。各農家で使うトラクターにこれらを取り付け、傾き調整などを行うことで作業時の姿勢を保ち、安定的な作業を可能にします。この安定性が農業の生産効率にも大きく影響を与えるため、農業機械のバランスを整えるのはとても重要なことなのだそう。
同社が扱っている製品のほとんどが特注なので、機械工のスタッフが一つひとつ丁寧に作業を行います。実はこのように小ロットや特注で農機のシリンダーなどを手がけているところは全国的に見ても少なく、北海道はもちろんですが、全国からオーダーがあるそうです。また、技術力のあるスタッフによる納期の早さも同社の特徴です。
この工場ができたのは2022年12月。高性能工作機械、溶接機など、さまざまな加工機械が並び、工場長を含め20~60代のスタッフ5人がここで作業にあたっています。撮影で工場内に入れてもらうと、溶接担当、機械加工担当とそれぞれ役割を分担しながら、黙々と作業を進めていました。
この東苗穂工場を取り仕切っているのが、機械加工を担当している工場長の越前匡基さん。工場長と言うと、もっと年配の方を想像していましたが、目の前に現れた越前さんはどう見ても若者。落ち着いた雰囲気ではありますが、年齢を伺うと今年で24歳! 適性や能力を見て若い人にもチャンスをという会社の懐の深さを感じます。
24歳の工場長は常に自然体。より良い製品作りのためにルールを整備
「最初は正直、工場長をやるのがイヤでした」と笑う越前さん。今年(2024年)の3月、工場長に就任しました。「前の工場長が退職することになり、面談のときに社長から次の工場長にと言われたのですが、現場でモノづくりをしているのが好きだったので、役職が付くのはちょっと…」と思ったそうですが、工場長になって約半年、以前とほとんど変わらずに現場の仕事をこなしています。
「実際、工場長になってからもやっていることはこれまでと変わりがなくて、納期をきちんと把握して、間に合うように納める配慮をする仕事が増えたくらいかなぁという感じです。そもそも自分は工場の中では歳下なので、肩書きに捉われたり、気負ったりすることなく、これまで通り自然体でみんなと一緒に、お客さまのニーズに応えられるものを作っていければと思っています」
何も変わらないと話しますが、これまでなあなあになっていてルール化されていなかったものをきちんと整え、全体の作業を効率よく進めていけるようにするなど、今後、人が増えたときにも対応しやすいよう越前さんなりに考え、体制を整えるなど、必要がある部分は改善を進めています。
「工場はもちろん、会社全体の風通しはいいと思います」と話す越前さん。顧客から受注してくる営業との連携はもちろん、センサー付きのシリンダー製造の場合は制御システムを担当する部署との連携も大事になってきますが、どの部署の人たちとも世代に関係なくコミュニケーションは取りやすいそうで、「やり取りがスムーズにいかないというストレスは一切ないですね」と続けます。年に数回は社員全員が集まり飲食を共にする機会もあり、社内全体で話しやすい雰囲気ができ上がっているようです。
「現場にある程度の権限を与えてもらっていて、比較的自由に仕事をさせてもらうことができるので、自分的にはとても働きやすい環境です。もちろん責任は伴いますが、自分で工夫してスケジュールなども組み立てられるのは楽しいし、自分の性に合っていると思います」
何もなかった自分に寄り添ってくれた恩師のおかげで機械加工の面白さを知る
札幌出身の越前さんは、高校卒業後に北海道立札幌高等技術専門学院(MONOテク札幌)へ進みます。モノづくりを支える人材育成を目的とした学校で、実践的な授業を通じて技術を身に着けていくことができます。
「高校を卒業するとき、機械加工がやりたいとか、モノづくりがしたいとか、そういうのは何もなくて、特にやりたいことも夢もなかったんです。とりあえずここに行きなさいって勧められたので入学したというのがスタートでした」
そのような感じで通い始めたため、実は入学から1週間で辞めようと思ったそう。ところが、担当だった先生が「2年間自分についてきてくれたら何とかなるよ。だから続けてみないか」と親身に声をかけてくれたのがきっかけで、気を取り直して通うことにしたそう。
実践的な授業は難しい内容もあれば、機械の操作が怖いと思うこともありました。それでも、自動工作機で加工するためのプログラミングを行うなど、自分で考えて作り上げていく機械加工の面白さや、思った通りにできたときの達成感などを知り、2年間通い続けることができました。
卒業後は、学校からの紹介で神奈川県にある鉄道の部品を作る機械加工の会社へ就職。「あのとき先生がいてくれたから、学校を辞めることなく、何とか社会人になれたという感じですね」と振り返って笑います。神奈川の企業を選択したのは、「一度札幌も、親元も離れてみたかったから」と話します。
神奈川での暮らしもそれなりに楽しく、職場の人間関係も良好だったそうですが、1年働いて札幌へ戻ることに。「羽を伸ばしすぎてしまって、これはダメだなと思って、札幌へ戻ることにしました」と笑います。
戻って2週間、機械加工の仕事を探しているときにハローワークでエース・システムの求人を見つけます。「給与や待遇面も良くて、とりあえず面接に行こうと思って連絡をしました」。社長と前の工場長と面接をし、このとき東苗穂に新しい工場ができるという話も教えてもらったそう。
「社長はとても話しやすい人で、工場や会社の雰囲気も良かったので、すぐにここで働こうと決めました」
入社してすぐは、本社にあった工場で作業に従事し、その年の12月から東苗穂の工場へ。「神奈川の会社は割と大きいところだったので、誰でも加工機のボタンを押せばできてしまうようなものが多かったんです。でもうちは、規模は小さくても特注製品が多いこともあり、基盤作りから携われるので、モノづくりをするという意味ではやりがいも面白みもたくさんあります」と越前さん。
「さっきも話しましたが、ある程度自由に任せてもらえるというのがいいですね。指示されて言われた通りに動くよりも、いかに効率よく、精度の高いものを作っていくか自分で工程を考え、実行していくほうが自分には合っているので、札幌に戻ってきてここに転職して良かったなと思います。あと、札幌はやっぱり涼しくて暮らしやすいですし、ごはんも美味しいし(笑)」
産学プロジェクトにも参加。風通しの良い環境で、自分も仕事の面白さを伝えたい
越前さんがこの会社の良さの一つと挙げるのが、「風通しが良く、会社や社員にとってプラスになることであれば、上の人たちも柔軟に現場の意見やアイデアにきちんと耳を傾けてくれる」ということ。
実際、越前さんが必要と考えていた新しい4軸加工機の導入も、「時短にもなるし、高付加価値のある製品作りができ、これまで外注に振っていたものが社内でもできるようになる」というプレゼンをしたところ、導入許可が下りました。「今ある2軸、3軸の加工機だと、工程ごとに手作業で面を変えなければならないなど工程が増えるのですが、4軸だと同時に4面の加工ができ、加工精度もより高いものになります」と話します。年明けには導入される予定です。
「日々、価値ある製品を提供し続ける」という理念も掲げている同社は、メーカーとして積極的に新しい製品開発にも取り組んでおり、大学との共同研究なども行っています。越前さんも先日、産学プロジェクトで茨城にある筑波大学へ行ってきたばかり。こうしたプロジェクトの試作を工場で作ることもあり、こうしたチャレンジに関われるのも面白いと感じているそうです。
機械加工の仕事の面白さを知るきっかけは、学生時代の恩師のおかげと改めて話す越前さん。今もその先生とはよく会って仕事の話などをするそう。「先生は自分にとって憧れの人。先生のようにこの仕事の魅力を伝えていけるようもっと力をつけ、実績を積んで、指導員の資格もいつか取れればと思っていますし、人としても成長したい」と話します。
「工場長と言っても、今はまだ現場の経験も少ないし、できないこともあります。まずはもっと現場での経験を積みたいですね。そして、これから会社に入ってくる新しい人たちに機械加工の面白さややりがいも伝えていければと思います。中には、未経験で入ってくる人もいるだろうし、専門学校などで学んだとしても、学校と実際の現場では違いもあるので、そういったことも含めて丁寧に、安全に配慮しながら仕事の面白さを伝えたいですね」と最後に話してくれました。