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明日をつくる未来へのアクション

クラフトアイスクリームを結び目に。合同会社ノットメント

2026.2.24

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合同会社ノットメントは、札幌市北区の新琴似に工房を置き、飲食店やカフェなど向けにオリジナルの業務用クラフトアイスクリームを製造販売しています。ノットメントが提供するアイスクリームが、クラフトアイスクリームと呼ばれる理由は、代表の宮脇崇文さんのある思いからです。さらに社名に込めた意味や、起業までの道のり、これから目指す未来について、お話を伺いました。

大手生命保険会社から、北大マルシェの立ち上げへ

宮脇さんは札幌市北区の出身です。子どもの頃に夢中になっていたのは、勉強よりもスポーツ。小学生の頃はサッカー、中学・高校ではバスケットボール、大学ではラクロスと、さまざまな競技を経験しました。

「勉強も嫌いではなかったんですが、とにかくスポーツばかりやってましたね」

高校卒業後は、長くスポーツに打ち込んできた経験から、体育の教員を目指して北海道大学(以下、北大)の教育学部へ進学。しかし、教職課程の大変さを実感する中で、教員を目指す気持ちは少しずつ薄くなっていったといいます。

「先輩たちが民間企業へ進んでいく姿を見て、こういう道もあるのかと思うようになって。2年生になる頃には、民間企業への就職を目指そうと切り替えていました」

大学卒業後、宮脇さんが入社したのは、大手の生命保険会社でした。総合職として、外交員の成績管理や売り方を考える内勤業務を担当していたといいます。

「事務的な仕事が多い中、人の役に立っていると感じる場面もありました。ただ、このまま続けて良いのかという疑問も、どこかにあったと思います」

こちらが宮脇崇文さんです

そんなときに出合ったのが、大学時代の後輩から声をかけられた、「北大マルシェCafe&Labo」の立ち上げの話でした。当時、大学内のカフェや乳業メーカーの原料としてしか活用されていなかった「北大牛乳」を、もっと世の中に届けたいという思いから生まれたプロジェクトです。

店舗責任者として、店舗運営や現場のマネジメントに携われる人を探しているという話に、宮脇さんは思わず手を挙げました。

「母校でそんな話が進んでいることを知って、今までとは全然違うワクワクを感じたんです。大手の企業を退職するという不安もありませんでした。当時は世の中のことをよく知らなかったので、辞めることの重大さも分かっていなかったと思います」

後輩からの「一緒にやろう」という言葉にも背中を押され、宮脇さんはCafe&Laboを運営する株式会社北海道農村研究所に転職します。カフェがオープンする直前のタイミングでの入社になり、正社員は、自分と後輩の2人だけ。店づくりもメニューもほぼ未完成の状態で、開店準備に奔走する日々が始まります。

北大農場の牛たち
北大マルシェ時代の宮脇さんです

「毎日が学園祭の準備みたいで、めちゃめちゃ楽しかったです。オープンして初めてレジを動かした瞬間は、グッときましたね。ランチのお客さん第1号は、僕の家族でしたが(笑)」

当初のカフェはランチ中心で、アイスクリームは既製品の原料を使ったソフトクリームのみ。ジェラート用の機械はあったものの開発が間に合わず、オープン初期に販売していたのは、北大牛乳と、併設していた工房で作ったチーズでした。

「店をオープンさせるために、まずチーズを作ったんです。チーズ作りの方法は、別の工房の方や職人さんに教えてもらいました。僕がレストランや物販の店舗を担当し、後輩が乳製品の加工を担当していました」

「北大牛乳ジェラート」が、宮脇さんの夢の始まりに

「カフェで提供するジェラートの開発に本格的に取り組み始めたのは、コロナ禍でまとまった時間を確保できるようになったことがきっかけだった」と宮脇さんは話します。まずは、ジェラート製造機械のメーカーが主催するセミナーに参加し、機械の基本的な使い方やレシピを学び、本を頼りに、独学で試作を重ねていきました。

「乳脂肪分や乳固形分など、ジェラートって実は数学的な要素が多いんです。美味しいジェラートを作るために、数字でジェラートを紐解く論文も読みました」

機械の使い方やレシピが分かると、次は素材選びです。その起点となったのは、北大マルシェの原点でもある「北大牛乳のブランド化」。北大牛乳を使ったおいしいミルクのジェラートを作ることから始めたといいます。

宮脇さんが北大マルシェ時代に作っていたジェラート

ミルク以外のフレーバーは、市販の素材も取り入れながら試作。やがて、北大の研究用果樹園で育てられたハスカップやブルーベリー、りんご、ぶどう、梨などを使うようになります。北海道は、ソフトクリームやアイスクリームの競争が激しい地域ですが、そこに足を踏み入れることへの不安はなかったのでしょうか。

「競合と戦う、という意識はほとんどなかったですね。北大の牛乳を使ったジェラートは、ほかになかったので、原料的な意味では自分しか作っていないという自負もありました」

そんな中、オープンから半年ほどがたち、カフェの運営が起動に乗り始めた頃、思いも寄らない出来事が起こります。乳製品加工を担当していた後輩が、退職することになったのです。

「最初は、かなり絶望的でした。ただでさえ人手が足りない中で、乳製品の加工を担当していた彼が抜けてしまうと、出すものがなくなってしまう。びっくりしたのと同時に、これからどうしよう、という思いでした」

突然のピンチをどう乗り切ったのか尋ねると、宮脇さんは「気合いです」と笑顔で即答。店舗に立ちながら、乳製品の製造も担当する覚悟を決めたといいます。

「当時は、僕がいなくなったらカフェは終わりという状態でした。使命感もありましたし、『やってやるぞ』という気持ちもありました」

コロナ禍を乗り越えると、少しずつスタッフも増え、店は安定していきます。「自分がいなくなっても店は回る」と感じた宮脇さんは、当時副社長業務執行役員という立場に昇進しながら、株式会社北海道農村研究所を退職。

「その頃にはもう、店での提供のために始めたアイスクリーム作りにハマっていて、いつか自分でアイスクリームを作る仕事をやろうと思っていたんです」

退職後は縁あって、中小企業向けのコンサルティング会社に、一度身を置きます。しかし、業務や環境とのミスマッチを感じ、半年ほどで退職。その後、1年ほどのブランクの中で、起業への決意を少しずつ固めていきました。

クラフトアイスクリームで結び目をつくりたい

コンサルティング会社を退職し、アイスクリームを作る仕事での起業を本格的に考え始めた宮脇さん。とはいえ、起業するには設備投資が必要です。さらに、当時は第1子が誕生するなど、プライベートでもライフスタイルが変わるタイミングでした。それでも、これまでのキャリアを冷静に振り返ったとき、「起業以外に選択肢はない」と感じたといいます。

しかし、起業にあたって大きな壁となったのが、資金調達。アイスクリームの製造機械を正規で導入するには、1,000万円から2,000万円ほどの費用がかかります。自己資金だけでは足りず、融資を受けるために、まず事業計画書の作成から取り組みました。

起業に関する書籍を読み、地元の経営者の話を聞く一方で、札幌商工会議所の創業支援や中小企業診断士への相談も活用し、準備を進めていきます。そして2025年3月に、合同会社ノットメントを設立しました。

会社名の「ノットメント」は、結び目を意味する「ノット」とムーブメントの「メント」を組み合わせて作った言葉です。牛乳や果物など、これまで知らなかった産地の人たちとつながりたい。そんな思いが込められています。

「地域や人をつなぐ『結び目』を生み出すことに、価値があると思っています。僕にとっては、それがアイスクリームだった。アイスクリーム1カップの中に、いろいろな地域の素材や、作っている人たちの思いを凝縮できるんです。だから、単にアイスクリームを作るのではなく、結び目(ノット)をつくり広めていくことを忘れないために、ノットメントと名付けました」

さらにノットメントが提供するアイスクリームは、「クラフトアイスクリーム」と呼ばれています。そこにも宮脇さんのある思いが。

「クラフトアイスクリームは、作り手の個性が表れているアイスクリームという感覚です。お客さまと一緒に作り、思いを反映させることができる。僕はアメリカのクラフトビール文化がすごく好きで、それをアイスクリームでも実現できたらと思っています」

ノットメントでは現在、飲食店向けの業務用クラフトアイスクリームの製造や卸売、および店舗ごとの要望に合わせたオーダーメイドのアイス開発をメインに行っています。企業向けの販売が多いため、一般消費者にもクラフトアイスクリームを届けたいとオンラインショップでの販売にも力を入れています。今は道内のお客さんが中心ですが、将来的には全国から注文を受けられるようになることを目指しているそうです。

ノットメントでしか出せない味を

ノットメントのクラフトアイスクリームには、いわゆる「定番フレーバー」はありません。カフェや飲食店から「こういうアイスクリームを作ってほしい」という相談を受け、一緒に形にしていく、オーダーメイドが基本です。

得意とするのは、素材そのものの味を生かしたミルク系の味。最近はコーヒーやチョコレートのようなコクのあるフレーバーに加え、さつまいもやかぼちゃといった野菜系のアイスクリームも手がけています。

営業を担当するのも、宮脇さん自身。SNSを使いカフェや飲食店に直接声をかけることもあるといいます。最近では、ホームページ経由の問い合わせも少しずつ増えてきました。

「うちのクラフトアイスクリームは、お店ならではのこだわりがあるカフェと相性がいいかもしれません。ニセコにある素敵なカフェからご依頼されて、オリジナルアイスクリームを作ったこともあります」

ニセコにあるカフェ「The POW BAR cafe」さんから依頼されたのは、「エスプレッソに合うバニラアイスクリーム」。市販品や取り寄せでは理想の味に出合えず、宮脇さんのもとに連絡が来たといいます。相談を受けた宮脇さんは、「それなら自分が作ります」と、依頼を引き受けることに。そこから、試作品作りや、カフェ側との打ち合わせが始まりました。

「The POW BAR cafe」さんのInstagramより

「試作品を作り、コクや後味についてのフィードバックを細かく聞き、お客さんがイメージする味を再現するんです。必要があれば、素材探しから始めます」

現在、ノットメントがクラフトアイスクリームの素材として使っている牛乳は、足寄町にある「ありがとう牧場」さんの放牧牛乳と中標津町の「なかしべつ牛乳」です。生クリームや卵についても、さまざまな産地のものを試した結果、北海道産を選んでいることが多いそう。ただ、その他の材料については、必ずしも北海道産にこだわっているわけではありません。

「目指すクラフトアイスクリームに合う素材を使うのが一番ですね。材料全てを北海道産にするのは、現実的に難しいですし。その代わり、使っている材料は全てオープンにしていますし、余計なものを使わないということは大切にしています」

牛乳を仕入れている足寄町の「ありがとう牧場」さんの風景

一つのことを極めた先に、見える景色がある

「『おいしかった』『使いやすい』と言っていただけるのが、すごくうれしいですね」

仕事のやりがいについて、宮脇さんはそう語ります。業務用のアイスクリームは、固くなりすぎてしまうことも多く、忙しい飲食店では扱いにくさを感じるケースも少なくありません。その点、ノットメントのアイスクリームは、材料を配合する割合を調整し、アイスをすくうディッシャーなどが入りやすいように作られています。

一方で、起業したこの1年間は販路拡大には苦労を感じる場面もあったといいます。

「これからも地道な営業を続けるだけです。ちゃんと自分の顔を見せて、自分の足で営業していく。それが大事だと思っています。将来的には海外展開も視野に入れているので、周りにアドバイスをしてもらいながら、チャレンジしていきたいですね」

北大マルシェをきっかけにアイスクリーム作りにのめり込み、ついには会社を立ち上げてしまった宮脇さん。一つのことを極める楽しさとは、何なのでしょうか。

「底なし沼に入っていけることです。そういう感覚って、他の仕事にはないと思います。職人ならではの楽しさ。ハマった先におもしろい景色がありますし、新しいフレーバーを考えるのは、やっぱり楽しいです」

そんな宮脇さんが、大切にしている言葉が「テロワール」です。テロワールとは、ワインの世界で使われる言葉で、テリトリーや地域性などを表します。同じ品種のぶどうを使っていても、産地や生産者が変われば味わいが異なることを指し、「このワインのテロワールは…」と語られます。

「アイスクリームも同じです。使う材料や機械が同じでも、作り手の考え方でレシピは変わります。その違いをきちんと表現し、お客さんに伝わるアイスクリームを作りたい。迷ったときにはいつも、「ちゃんとテロワールが表現できているか」というところに立ち戻ります」

5年後の姿を想像してもらうと、「牧場をやっていたらおもしろいですね」という意外な答えが。

「牛乳にこだわるなら、最終的には自分で牛を育てるところから関わりたいんです。チーズも作れるので、牧場をやりながら、小さな乳業メーカーみたいになっていたらおもしろいですよね」

「その姿にどこまで近づけるか挑戦を続けていきたい」と語る宮脇さん。札幌で起業を迷っている若い世代には、こんなメッセージを送ります。

「北海道で起業するのって、意外におもしろいですよ。起業家のコミュニティが割と狭くて顔を知っている人も多いので、お手本になりますし、刺激も受けやすい。東京に比べて固定費も抑えられるので、小さく始めやすい環境だと思います」

アイスクリーム作りを通して、地域や人との結び目を増やしていきたいと語る宮脇さん。底なし沼にハマる楽しさや、その先に広がる景色は、一つのことを極めた人だけが知る世界なのだと感じました。これからも、こだわりのクラフトアイスクリームを次々と生み出してくれることを期待しています。

主力商品の業務用ミルクアイスクリーム
宮脇 崇文さん

合同会社ノットメント 代表

宮脇 崇文さん

北海道札幌市北区新琴似7条9丁目5-15 七番街ビル1階

公式HP

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