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仕事や暮らし、このまちライフ

僕の目に映る輝きを映像に。「STUDIO TERRA」

2025.7.14

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「STUDIO TERRA(スタジオ テラ)」のビデオグラファー、寺谷真純さん。動画撮影と編集をメイン事業に、個人事業主として約1年前に独立し、今に至ります。元々はCGクリエイターを目指し専門学校に進学しますが、卒業後に就職した会社ではネットショップの運営を任されたそうです。しかし、さまざまなめぐり合わせを経て、寺谷さんの手には自然とカメラが。一体どんなきっかけで、ビデオグラファーや動画編集の仕事を行うようになったのか、これから挑戦したいことや映像の仕事を目指す人へのアドバイスなどを伺いました。

兄とは違う道を歩みたい、それが始まり

寺谷さんは、生まれも育ちも札幌。小学生のころから図工の授業が得意で、何かをつくることが好きでした。寺谷さんには兄がおり、高校に進学し卒業後の進路を考え始めた頃には、既にグラフィックデザイナーとして働いていたそうです。

こちらが、STUDIO TERRA(スタジオ テラ)のビデオグラファー、寺谷真純さん

「兄を見て、『そういう道を選択することもできるんだ』と思いました。でも、まったく同じ道をたどるのもちょっと悔しくて」と、笑う寺谷さん。

兄とは少し違う道を歩きたい。そんな思いから選んだのが、動画やウェブ、グラフィックなどを幅広く学べる映像系のデザイン専門学校でした。寺谷さんは、中でもCG(コンピュータグラフィックス)の分野に強く惹かれていたそうです。しかし、卒業が近づき就職活動を始めると、札幌にはCG制作の仕事を扱う会社の求人がほとんどありませんでした。しかも当時は就職氷河期。先生からも「就職は厳しい」と言われるような状況の中、何としても仕事を見つけなければと思った寺谷さんは、ウェブサイトの制作会社への就職を決めました。

「ところが、実際に入社してみたら、仕事内容はネットショップの運営だったんですよ(笑)。グラフィック制作の会社でしたが、親会社が本屋だったので、ネットショップで書籍の販売も業務にあったんです。もう入っちゃったからにはやるしかないですよね」

本の受注や発送、お客さんからの問い合わせ対応といった実務に加え、ネットショップのウェブサイト制作も担当していた寺谷さん。最初は、慣れない仕事にとまどいながらも、気づけば7〜8年ほど続けたといいます。そして、そんな日々の中、寺谷さんにとってひとつの転機が訪れます。

「親会社から、動画を作れないかと聞かれたんです。会社として、動画制作にも力を入れるようになったらしくて。そこで新たに動画制作も担当するようになりました」

ホームビデオ片手に現場へ。独学で挑んだ映像制作の第一歩

動画制作の部署に異動した寺谷さんは、初めて本格的に映像の仕事に向き合うことになります。とはいえ、最初から動画の撮影や編集をしていたわけではありません。当初の業務は、大学や専門学校の広報用に制作するモーショングラフィック。支給された写真やテキストを動かして映像をつくる仕事でした。

「専門学校時代の記憶を掘り起こしながら、手探りでやっていました。動画編集のソフトを使って、なんとか形にしていった感じです」

社内には動画編集の経験者がおらず、すべて独学。周囲に頼れる人がいないなか、試行錯誤の毎日だったといいます。やがて「動画の撮影もお願いできないか」と、新たな依頼が舞い込みました。撮影に関しては、ほんの少しだけ学校で触れた経験があったものの、実際に現場で任されるのは初めてのことでした。

「僕には師匠と呼べる存在もいませんでしたし、どんな機材を使ってよいのかも分からなかった。だから、まずは機材を調べるところから始めたんですが、本当に何の知識もなかったので、最初は市販のホームビデオカメラで撮っていたんです。今考えると、よくあれで撮ったなって思います(笑)」

初めてホームビデオで撮影した動画は「正直、全然ダメだった」と振り返る寺谷さん。それでも、撮ること自体は楽しかったと話します。

「撮影って、カメラなどの機材に触れることもできるし、いろんな人と出会える。ネットショップの仕事ではそういうことがなかったので新鮮だったし、面白いなと思ったんですよね」

独学で苦労しながらもなんとか映像を作り上げると、その後も大学や専門学校の記録映像を撮影する依頼が舞い込むようになります。

「オープンキャンパスや学校紹介の映像を作ってほしいという依頼が来るようになって。さすがにホームビデオでは限界があるなと感じました。そこで、プロのカメラマンさんを雇って動画を撮ってみようという話になったんです。機材の選び方や撮影方法を教えてもらいたいという気持ちもありました。その人は、現場の進行や空気のつくり方も上手で、本当にいろいろ教えてもらいました」

おすすめされた機材を一式そろえ、ようやくしっかり撮れる装備を手に入れた寺谷さん。動画制作の仕事が本格化し、撮影の現場も増えていく中、さまざまな学校を訪れるたびに、映像の仕事を続けたいという気持ちが次第に強くなっていったといいます。

「スポーツインストラクターや調理師、美容師など、いろいろな専門学校を見て回れるのが面白かったんです。映像って、こういう現場にも立ち入れるんだなって思えて、自分の視野も広がっていくように感じていきました」

その頃、会社は動画制作に力を入れる方向へと舵を切り、新たにプロカメラマンも入社。寺谷さんにとっても「師匠」ができて、良い方向に向かっていきます。いよいよここからだと思っていた矢先、予想もしない事態が起こることに。

「会社が解散してしまったんです」

「自分でやるしかない」突然の会社倒産を機に独立を決意

ようやくこれから、というタイミングで訪れた突然の会社の倒産。依頼されていた仕事はすべて中断され、取引先との関係も宙に浮いたままです。このまま終わらせるわけにはいかないという思いから、寺谷さんは次の一歩を踏み出します。

「カメラマンさんが入る前も一人でやっていたし、個人事業主として独立することにしたんです。ただ、経験も浅かったので、一度は別の映像制作会社に転職することも考えました。でも、お客さんから依頼された仕事も残っていたし、カメラマンさんとのつながりもできたので、そのまま一人でやってみようと思って」

独立を決めた寺谷さんは、それまで使っていた機材一式を会社から買い取り、フリーランスのビデオグラファーとしての道をスタートさせます。とはいえ、周囲に独立の話をすると、返ってきたのはやはり「大丈夫なのか」という心配の声。それでも、既にいくつかの案件が手元にあるという安心感と、勢いに背中を押される形で、個人での仕事を始めることにしました。しかし、実際に個人事業主になってみると、思った以上に大変だったといいます。

「想像の倍、大変でしたね。今までは会社という後ろ盾があったのが、なくなってしまうと全て自分で責任を負わなければなりません。それに、今は仕事があっても次にまた依頼してもらえるかどうか分からない。仕事が来なかったらどうしようという不安は常にあります」

今も案件は、ほとんどが人づてに紹介してもらっているそう。丁寧な仕事を続けてきたからこそ、「またお願いしたい」と声がかかる機会も少しずつ増えていったのかもしれません。

ここでボソッと「個人事業主になってから、映像制作以外にもやらなければならないことがたくさんあって…」と寺谷さん。経理や税務など、事業主としてこなさなければならない作業が想像以上に多く、仕事と並行しながら少しずつ覚えていったといいます。

「もともと何の準備も心構えもなく独立してしまったので、まず税とは?確定申告とは?という基本的なことから学んでいるところです」と話す寺谷さんですが、その表情からは毎日が充実していることを感じることができました。

学生たちのリアルな姿に触れながら、映像の面白さを実感

現在、寺谷さんが手がけている映像の多くは、大学や専門学校の広報用の動画です。撮影の現場は札幌市内にとどまらず、釧路まで足を運ぶことも。モーショングラフィックのみで完結する案件については、道外からの依頼にも応じています。

「撮影と編集の比率でいうと、編集作業が全体の7割ほどです。撮影の対象は映像の内容によってさまざまで、例えば施設紹介なら建物、広報用だったら学生さんが講義を受けたり実習をしたりする風景。学生さんに直接インタビューすることもあります。僕は大学に行っていなかったので、実際にキャンパスで撮影をしていると、キャンパスライフの雰囲気を感じられて楽しいですね。学生さんがイキイキしている姿を見ると、こちらまで元気をもらえます」

専門学校の撮影では、職種ごとにまったく異なる世界に触れられるのが面白いと語ります。自分が選ばなかった道を知ることができたり、学生へのインタビューで、なぜその仕事を目指そうと思ったのかを聞いたりすることも楽しいそう。ただ、インタビュー自体はあまり得意ではないともいいます。

「もともと人と接する機会が少ない仕事をしていたので、最初は本当に勢いだけでやっていました。正直、今でもちょっと苦手ですね。」

仕事の合間には、プライベートで撮影した素材を使って編集の勉強を続けているそうです。ここまで独学で頑張ってきた寺谷さんに、今の心境を聞いてみました。

「自分で撮った動画なら、使いたい場面を想像しながら撮影できます。でも、他の人から預かった素材を編集する場合は、まず全部見ないとどこを使ってよいか分からない。そこが1番大変かもしれませんね」

編集作業は地道な仕事。表からは見えない苦労があります。たとえ10分の映像を作る場合でも、素材となる動画が2時間あれば、それを全てチェックしなければならないそうです。それでも寺谷さんは、「撮影や編集はやりがいのある仕事」と話します。

「学校ごとにカラーが違っていて、学生さんの話す内容も毎回違う。いろいろな現場を見ると視野が広がりますし、単純に面白いです。学園祭の映像などは、どうやったら楽しい雰囲気が伝わるかを考えながら撮っていて、学生さんの笑顔を引き出せたときはうれしくなります」

会社の倒産という予期せぬ出来事がきっかけで、フリーランスとして独立することになった寺谷さん。1年が過ぎ、今の働き方についてどう感じているのか聞いてみました。

「良くも悪くも自由になりました。良い点は、出社も退社もなく、自分のペースで仕事ができるところ。僕には合っていると思います。ただ、サボったら全て自分に返ってくるので自己管理は必要ですね。それに、納品した映像が本当に満足してもらえているのか、次も依頼してもらえるのかという不安も常にあります。でも、それを乗り越えるには、これからもいろいろな作品を作っていって自信をつけていくしかないと思っています」

札幌を拠点に、映像以外の表現にも挑戦したい

大学や専門学校の撮影をメインとしている寺谷さんですが、今後は今まで撮影したことのない場所にも行ってみたいと話します。どのようなものを撮ってみたいのか聞いてみました。

「料理に関する写真を撮ってみたいですね。料理の写真ってみんな撮ってるし、一番身近なものだと思うんです。そういう誰でも撮れそうなものを、めちゃめちゃかっこよく撮ってみたいですね。どんな人がどんな思いで料理を作っているのかというところも撮影して、個人のPVみたいな映像を作れたら面白いと思います。あとは、やっぱりCGですね。今の映像編集にCGを使えたら強みになるんじゃないかなと思います」

もともとやっていたWeb系の仕事にも、あらためて取り組んでみたいと話します。

「ネットショップの運営をしていたときにも、ウェブサイトの制作に少しだけ関わっていましたが、今度は制作の全てを自分でやってみたいです。サイトに載せる画像や動画も全部自分で撮影して。今使っている動画のカメラはスチール撮影もできるので、写真の勉強もしてみたいと思っています」

今でも師匠がほしいと語っていた寺谷さん。逆にこの先、自分で弟子を取ることは考えていないのでしょうか。

「今はまだ人を雇うことはあまり考えていません。ただ、大学のオープンキャンパスなどの撮影は土日に集中することが多く、複数の案件がかぶると一人では難しいこともあるんです。将来的には誰かを雇うこともあるかもしれません。やる気のある人だったら弟子を取るのも面白いかなと思います」

映像の仕事をするなら、映像編集会社の多い東京に出た方がいいと考える人も多い中、寺谷さんは今後も札幌を拠点にしていきたいと話します。

「専門学校を卒業するときも、札幌にはCGの仕事はないから東京に行ったらと言われたことがありました。でも僕は、東京で働くことは全く考えていなかったんです。札幌は都会すぎず、空気も落ち着いていて大好きなんです。一度東京に行ったこともありますが、人の多さに圧倒されてしまって…。もし今後、事業が大きくなって東京に拠点を置くようなことがあったとしても、自分は札幌にいたいですね」

これから映像の仕事を目指す人へのアドバイスをお願いすると、独学で仕事の道を切り開いてきた寺谷さんならではの答えが返ってきました。

「今の時代、動画の編集だけであれば学校に行かなくても十分学べると思います。本当にやる気がある人なら、独学でも本気で1年ほど取り組めば編集技術は身に付きます。YouTubeにも動画編集の講座はたくさんありますし、今は学べる場所が多いですから。性別も年齢も関係ないので、何歳から始めても遅いということはないと思います」

技術面以外にはどのようなことが必要なのかも聞いてみると…。

「素材の長さによってはかなり長丁場の作業になるので、体力や忍耐力は必要ですね。几帳面な人の方が向いているかもしれない。それに、いろいろなことに興味を持てること。編集の仕事は毎回扱うテーマが違うので、興味を持てないとつらくなると思います。あとは、起承転結のある構成を作らなければならないので、そういうセンスもあるといいかもしれませんね」

札幌という街を愛し、好奇心を原動力に次々と道を切り開いてきた寺谷さん。その姿は、これから新しいことに挑戦しようとする人に、きっと勇気を与えてくれるはずです。かつて自身が師匠を求めていたように、いつか誰かの背中を押す存在になっていくのかもしれません。寺谷さんがこの先、どんな映像を届けてくれるのかとても楽しみです。

寺谷真純さん

STUDIO TERRA ビデオグラファー

寺谷真純さん

北海道札幌市東区北43条東1丁目1-16-403

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