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仕事や暮らし、このまちライフ

Canva公式クリエイターと会社員。多彩な才能で進むこの先

2025.3.17

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Canva公式クリエイターとして、活躍するクリエイターのヒグチヨウコさん。実は東京のベンチャー企業にフルリモートで勤務する顔も持つ、マルチな才能の持ち主です。だけど、大学卒業後に就職した先はなんと料理講師。最初からデザイナー志望ではなかったのです。ヒグチさんがデザインを始めたきっかけや、現在の活動について伺いました。

料理の世界からデザインの道へ

ヒグチさんはハスカップの産地として有名な北海道厚真町出身です。高校卒業まで地元で過ごし、その後、翻訳家を目指して札幌の大学の英文科に進学しました。卒業後は札幌で仕事を探すつもりでいましたが、時代はまさに就職氷河期の真っただ中。翻訳だけでなく、ほかの英語を生かせる仕事に就くことも難しかったと言います。

そんな時、たまたま見つけたのが料理教室の求人でした。実は、大学進学の際に英文科と調理師の道で迷ったほど料理が好きだったというヒグチさん。東京に本社がある大手料理教室の会社に就職し、札幌の料理教室の講師として働き始めました。

「料理を教えるのはすごく楽しかったんですが、正社員は営業もしなければならなくて。それがすごくストレスになってしまって…4年間勤務した後退職しました。でもその後、会社から業務委託として料理講師をやらないかと声をかけてもらったんです。大好きな料理を教えることだけをできるならと思い、戻ることにしました」

▼Canva公式クリエイターとして、活躍するクリエイターのヒグチヨウコさん。

料理講師の仕事は、朝から夜遅くまでのハードワークだったと言います。教室が終わった後も翌日の準備で終電ギリギリになることもあったそう。それでも、自分の好きな仕事ができていたので楽しかったとヒグチさんは話します。しかし、2年ほど仕事を続けた頃、結婚を機に退職。

「土日も仕事の生活だったので、家庭と両立させるのは難しいと思ったんです。人には料理を教えるのに、自分は家で料理をする時間もない生活ってなにか違う気がするなって」

結婚後、ヒグチさんはすぐに長男を妊娠し出産します。そして、運よく保育園が見つかったため、派遣会社に登録し、事務職の仕事に就きました。その後、次男を妊娠し出産した際は、産休育休を取得し、事務の仕事を続けたそうです。

「当時は、完全に子ども中心の生活だったので、無理なく働ける事務職を選びました。でも、ひたすら誰とも話さず、パソコンに入力する仕事だったので、コミュニケーションが多かった料理講師時代とのギャップが、かなりあり大変でした」

やがてコロナ禍が訪れると、それまでオフィスに出社していた生活が在宅勤務に切り替わりました。しかし、2年ほどして再びオフィス勤務に戻ることが決まると、当時小学生だった長男が、急激な環境の変化に適応できなかったそうです。

「2年間、学校から帰るとママが家にいるという生活に慣れてしまっていたんですよね。学校が終わってから学童保育に行くのを嫌がり、学校にも行きたくないと言うようになってしまったんです」

ウェブデザイン講座をきっかけに東京の企業に転職

子どもに我慢をさせてまで、続けなければならない仕事なのだろうか…。そう考えたヒグチさんは、新たな転職先を探すために、仕事を続けながらウェブデザインの勉強を始めます。

しかしなぜ、ヒグチさんはウェブデザインを学ぼうと考えたのでしょうか。

「在宅で働ける仕事を探していましたが、なかなか良い仕事が見つかりませんでした。そんな時に目に入ったのが、ウェブデザイナーやコーダーの仕事だったんです。今思えばすごく安易な考えですが、スキルさえあれば自分にもできるのではないかと感じたんですよね。そこで、1カ月間で学べるオンラインのウェブデザイン講座に申し込んだんです」

▼Canvaは、オンラインで使える無料のグラフィックデザインツールです。

もともと、ものづくりや写真の加工が好きだったというヒグチさん。講座で学ぶうちに、デザインの楽しさに引き込まれていきました。そして、このウェブデザイン講座を受けたことがきっかけで、ヒグチさんのキャリアは大きく変化していきます。

「オンライン講座が終了してしばらくたった頃、講座の運営会社から『うちで働かない?』と声をかけられたんです」

その会社は、東京にあるベンチャー企業で、フルリモート勤務。在宅で働きたかったヒグチさんは、その会社に転職を決めます。そして週5日勤務で、デザインやマーケティング業務の仕事を担当することに。

「マーケティングの知識はなかったですし、数字も苦手でした。でも、デザインの仕事を知っていくと、デザインにはマーケティングの知識が必要だと感じるようになっていったんです」

さらにフルリモートとはいえ、派遣時代より人とコミュニケーションを取りながら仕事ができているとヒグチさんは話します。

「会社には、北海道のほかに、東京・関西・島根・鳥取などさまざまな地域のメンバーがいます。子育て中のママも多く、オンラインで子どもの話をしながら仕事をすることもあるんです。この前は、札幌に住んでいるメンバーとオンラインでランチしましたね(笑)。同じ市内なのに、オンラインでランチというのが面白いですよね」

Canva公式クリエイターとしてデビュー

会社員として働くことを決めたヒグチさんでしたが、独学で勉強を続けながら、副業としてデザイナーの仕事をするために準備も進めていました。

「SNSで女性起業家やフリーランスの人を探して、そういう方たちが開催しているオンラインセミナーや勉強会に参加しまくりました(笑)。勉強のためもありましたが、自分の存在を知ってもらおうと思ったんです。知らない人にもどんどん声をかけていたら、徐々にコンペや企業案件の話を紹介してもらえるようになり、少しずつ仕事の依頼が増えてきました」

その中で、Canvaが公式クリエイターを募集していることを知ります。Canvaとは、オンライン上で手軽に画像や動画を作成編集できるグラフィックデザインツールです。

▼Canvaでデザインした作品①

「その時すでにCanvaを使い始めていて、手軽にデザインできるのがいいなと思っていました。だから、クリエイターを募集していると聞いて、『私使ってます!』と応募してみたんです。公式クリエイター制度が始まったばかりの頃とはいえ、今思うと本当に怖いもの知らずですよね(笑)」

Canva公式クリエイターになるには、ポートフォリオを提出し、オーストラリアのデザイナーチームの審査に通らなければなりません。日本のコミュニティマネージャーとの面接もある中で、ヒグチさんは審査や面接を見事クリア。Canvaの公式クリエイターの称号を与えられます。

その後は、認定クリエイターとして、Canva上で提供されるさまざまなデザインのテンプレートを作るようになり、今ではCanvaが開催するオンラインセミナーの講師も務めています。

▼Canvaデザイナーとして講師を務めるヒグチさん。

「その前から、札幌の女性起業家を対象に、オフラインのセミナーでCanvaの使い方を教えていたことがありました。その経験があったので、Canvaが企業向けのオンラインセミナーの講師を募集したときに、やってみようと思ったんです。もともと教えることは好きですし、受講している方がCanvaを使えるようになるのを見ると、やりがいを感じますね」

Canvaの公式クリエイターになってから、仕事の幅が広がり、依頼も増えたと話すヒグチさん。大手リゾート会社から、仕事の依頼を受けたこともあるそうです。

「思わず、ええ!?って。テンションが上がりましたね(笑)。全国のホテルのSNS担当者やマーケターを対象にした、動画の作り方講座をご依頼いただいて…正直、ここまで仕事の幅が広がるとは思っていませんでした。最初はコツコツとテンプレートを作るだけだったのに、まさかセミナーまで担当することになるなんて。人生なにがあるかわからないですね」

子どもとの生活が優先。その軸はずっと変わらない

会社員・クリエイター・セミナー講師と、さまざまな顔を持つヒグチさん。2人の子どもを育てるワーママでもあります。土日はなるべく家族との時間を優先させるため、デザインの仕事をするのは、主に平日の朝と夜。会社の休憩時間に、パンをかじりながら作業することもあると言います。

仕事と育児の両立バランスに悩むことはないのでしょうか。

「もちろんあります。特に、デザインを始めたばかりの頃は仕事がないと不安になったので、とにかく詰め込んでいましたから。疲れると余裕がなくなり、子どもたちの小さな喧嘩にも過剰に反応するという悪循環。でも、ベテランのデザイナーさんたちから、その働き方では続かないと言われ、そこからはペースを落とすようになりました。今は少し心の余裕が生まれてきたかなと感じています」

現在、クリエイターの仕事の中で、ウェブデザインとCanva上でのデザインの割合は半々だそう。これからも、このバランスを崩さずに続けていきたいとヒグチさんは語ります。

「両方やることで相乗効果があるような気がします。Canvaをやっていると多くの人の目に留まりやすいので、仕事を依頼していただきやすくなりますし。でも、Canvaだけにしてしまうと、せっかくのウェブデザインのスキルが生かせなくなるので、両方できるのが理想ですね」

▼Canvaでデザインした作品②

仕事の楽しさや、やりがいについても聞いてみました。

「Canvaクリエイターの仕事は、自分のインスピレーションをそのまま形にできるところが魅力です。SNSや街中に貼られているポスターなどで自分がデザインしたものを見かけると、とても嬉しくなります。ウェブデザインの楽しさは、ゼロから作り上げるところ。デザインしていると、息をするのを忘れてしまうほど集中してしまうんです。その分、完成した瞬間は達成感があります」

反対に、大変なことは時間をつくることだそう。

▼「子どもたちとの時間が一番大切です」と語るヒグチさん。

「仕事だけでなく、スキルを磨く時間もつくらなければならないことです。グラフィックソフトはアップデートされて使い方がどんどん変わりますし、デザインにもトレンドがあります。勉強するのは楽しいんですが、時間を捻出するのが大変です」

会社員の仕事も続けていくつもりだと話すヒグチさん。その理由を聞くと、「純粋に仕事が楽しいから」と答えました。

「責任が出てきたということもありますし、今辞めてしまうと、仕事のスキルを何も得られないまま終わってしまう気がするんです。ただ、次男が小学校に入学したら少しずつ働く形を変えていこうかなとは思っています。そもそも今の仕事にシフトした理由は、子どもたちとの生活を優先させるため。もしここで無理をしすぎて、子どもたちに我慢させるようになってしまったら、本末転倒ですよね」

楽しいと思う直感に従うことも大事

今後、クリエイターとしてどのようなことに挑戦してみたいのか聞くと、北海道の小さな町の魅力を伝える手伝いをしてみたいと答えてくれました。

「例えば、地方の小さな町で『Canvaで一緒になにかを作ってみませんか?』と呼びかけてみるのもいいですよね。私自身も厚真出身ですが、地方には情報誌を作って地域の魅力を外に伝えたり、地元を盛り上げようと頑張ったりしている人がたくさんいるんです。私にできることは小さなことかもしれませんが、そんな人たちの力になりたいと思っています」

力になりたいと思うようになったのは、道外の人とコミュニケーションを取る機会が増えたことも理由のひとつかもしれないとヒグチさんは語ります。他の地域の人と話したことで、あらためて北海道内に目を向けてみようという気持ちになれたそう。

ただ、北海道の寒さだけは苦手だそうで、「沖縄に移住してみたい…」とポツリ。

「暖かいところが好きなんです。毎年家族で旅行に行っていて、夫も子どもたちも沖縄が大好きですし。でも、札幌は子育てしやすくて住みやすい街なので、すぐに移住はないですね。それに、今の働き方になってから、住む場所にこだわる必要はないと思うようになりました。今も、札幌に住みながら東京の仕事をしていますし、沖縄のカフェからデザインを依頼されることもあるので、好きな土地にいて好きなことができているなら十分かもしれません」

クリエイターを目指している人に対しては、「自分がやっていることに満足しないこと」「自分が楽しいと思う気持ちに従ってみること」とアドバイスします。

「デザインの仕事には終わりがありません。一人前というゴールも決まっていない。だからこそ、何十年たっても『この程度でいい』と満足せず、自分に足りないものを知るためにアンテナを張り続けることが大切だと思っています。私の場合は、ただ楽しいという気持ちだけでここまで続けてこられました。若い頃は、仕事を探すときでも安定を重視してしまいがちでしたが、『楽しそう!面白そう!』という直感に従ってみることも、大事なんだなと実感しています」

とはいえ、楽しいことが見つからないという人も多いはず。そんな人に、ヒグチさんはこう伝えます。

「楽しいことって、実は身の回りにたくさんあると思うんです。『自分には向いていない』『興味がない』と決めつけてしまって、見逃してしまっているかもしれないですよね。今は、ウェブが発達しすぎて、自分の好きなものだけを選べる時代。興味があるものばかりを見ていると、世界がどんどん狭まってしまうこともあると思います。あえて、自分とは違う考えを持つ人と話したり、興味がなかったものに少しでも関わってみたりすることで、面白い発見があるかもしれません」

料理講師からデザインの世界、そしてマーケティングまで、未経験の分野にも果敢に挑戦し、道を切り開いてきたヒグチさん。その行動力こそが、今のマルチな活躍につながっていると感じました。これからも好きなことを大切にしながら、多くの人とつながり、新たな可能性を広げていくヒグチさんの姿が楽しみです!

ヒグチヨウコさん

Canva公式クリエイター

ヒグチヨウコさん

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