札幌市内を走る黄色いアメリカのスクールバス。どこの学校のバスだろうと思って見ていた人も多いのでは?このカッコいいバスは、札幌市内で幼稚園と保育園を運営する「ストロベリーフィールド」の園バス。
今回は、この「ストロベリーフィールド」へおじゃまし、統括マネージャーを務める髙橋歩さんに園のことや髙橋さん自身のことを伺ってきました。苦労もいろいろあったそうですが、それを乗り越えてきたからの今だと話す髙橋さん。仕事への想いを語る姿からは、じわじわと熱いものが伝わってきました。
現在は計4園を運営。美容業界の課題解決が保育園をはじめるきっかけ
まずは「ストロベリーフィールド」について、髙橋さんにお話を伺っていくことにします。「ストロベリーフィールド」は、2010年に月寒で開園した許可外保育施設。開園時から、保育園の既成概念をくつがえす独自性のあるコンセプトやカリキュラムを打ち出していました。現在は、札幌市内に保育園を3園(月寒、白石、サッポロファクトリー)と、月寒で幼稚園を1園展開しています。
「私が入社したのは2016年なので、開園時のことはオーナーや先輩から話を聞いただけですが、開園当時は園として認知してもらい、園児を集めるのは相当苦労したと聞いています。当初は毎月100万円の赤字が続いたときもあったそうですが、オーナーは未来への投資だと言ってそこで諦めるようなことはしなかったと聞いています。当時はオーナー自らチラシ配りもしていたそうです」

「ストロベリーフィールド」のオーナーである髙嶋英憲さんは、20代で自身の美容室を立ち上げた敏腕スタイリスト。現在も飲食業を含むいくつかの法人を運営し、経営者として活躍しています。なぜ、美容師の髙嶋さんがまったく異業種の保育園、幼稚園を立ち上げようと思ったのでしょうか。
「お客さまが、産前産後に美意識を失わないよう同じ周期で通い続けられるために、お子さんが生後2カ月から無料で預けられる環境をつくりたかった、というのがありました。あと1番大きい理由は、10年前の当時、多店舗展開しているサロンが縮小している原因を分析した際、『女性スタッフの退職が大きいのでは?』と仮説を立てたことにあります」
現在も10人ほどのスタッフが子どもを「ストロベリーフィールド」に通わせながら、仕事を続けているそうです。


コンセプトは「センスを磨く」。多彩なカリキュラムを通じ、自身で選ぶ力を育む
「ストロベリーフィールド」のコンセプトは、「センスを磨く」。これをベースに年齢や発達に応じて組まれているカリキュラムの数々は、一般的な幼稚園や保育園とは大きく異なります。美的感覚を伸ばすためのフラワーアレンジメント、自分たちの持参した洋服で友達のコーディネートをするファッション、色や柄の種類などを学ぶデザイン、体幹を鍛えるためのウォーキング、ほかにもリトミックやダンス、音楽、英語など、本当に多彩です。
今回、髙橋さんを訪ねたのは月寒にある幼稚舎。取材時は3つのクラスの園児がそれぞれipadを使って楽しそうにレッスン中でした。

「当園は、園児の『センスを磨くこと』を目的とし、幼少期から本物に触れることを大切にしています。子ども扱いすることなく、大人と同じものを見て、聞いて、感じて、感性を育み、学びを吸収できる環境に重きを置き、個性を尊重しながら園児と接しています。幼少期から自分で選択し、たくましく生きていける力を身につけてもらうことを大事にしています」
さらに、近年は小学校でも幼稚園でも「競わせる」ことをさせないところが増えていますが、運動会などでもあえて「競う」ことをさせていると言います。勝ち負けの経験を通じて喜びや悔しさという感情を味わうことが、生徒の自己成長を促すと考えているそう。好きなことで一番になりたいと、自主的に努力をする子もたくさんいると言います。
また、年間を通してさまざまなイベントも実施。中でも毎年2月に行われる一番大きなイベントが「ストロベリーフィールドコレクション」です。これは、プロにヘアメイクしてもらった園児たちが、ステージのランウェイを歩くというヘアファッションショー。マイケル・ジャクソンのダンスを披露する時間などもあり、園児が大勢の人の前で自己表現し、自信をつける大事なイベントなのだそう。


子どもを中心に考え、プロとして助言するから「先生」ではなく「アドバイザー」
当初は、このようなコンセプトやカリキュラムが保護者に理解されにくいことも多々あったと言います。「当園はかなり特徴があるので、私たちの思いやコンセプトをきちんとご理解していただいた上で、園児を通わせてほしいと考えていますので、必ず見学説明会に参加していただき、共感、納得していただいた上で通っていただくようにしています」と話します。この点は、働くスタッフにも言えることだそうで、「面接時にかなり説明をさせてもらいます」と髙橋さん。
開園から15年を迎え、ここ数年は「ストロベリーフィールド」のことをよく理解した上で、「ぜひ通わせたい」という保護者ばかりなのだそう。中には区をまたいで通う子や石狩、北広島など市外から通っている子もいるとのこと。
「私たちは、保育や幼児教育のプロである保育士や幼稚園教諭ですが、自分たちのことを『先生』だとは捉えていません。園児や保護者の方を指導するのではなく、できるようになるためのアドバイスをする存在であるという考えから、自分たちのことを『アドバイザー』と呼んでいます」

保護者と信頼関係も築きながら、「保護者の方に言いにくいことも時にはあります。でも、子どものことを第一に考えた場合、プロとして言うべきことはきちんと保護者に伝えるべきだと考えています」と髙橋さん。自分本位ではなく、あくまで子どもを中心に考えようという姿勢を貫いています。また、「当園のオーナーは、保育も幼児教育もサービス業だと考えており、私たちも保護者の方と向き合うときは常に誠意をもって接するように心がけています」と話します。
「今でこそ企業主導型保育園の数は増えていますが、企業主導型がはじまって割と早い段階で企業主導型になりました。それまでは保育園と幼稚園が一緒だったのですが、0~2歳の保育園と3~5歳の幼稚園にセパレートしたことが功を奏したと感じています。保育園は保育を行い、特に3~5歳の幼稚園のほうは教育重視のカリキュラムに徹しています」
2018年に幼稚園、保育園と分けた際、統括マネージャーになったばかりの髙橋さんともう1人のスタッフを中心に、カリキュラムそのものを大幅に見直したそう。たくさんあったカリキュラムを「これは何を目的としているのか」「本当にこれは園児に必要なのか」とひとつずつチェックし、意図が見えないものは整理していったと言います。普段から活動する際はこの「意図」をしっかり考え、大切にしているそうです。

失敗を恐れずに挑戦できる環境。前職の経験を買われ、統括マネージャーに
さて続いて、「ストロベリーフィールド」全体の統括を任されている髙橋さんのことについて伺っていきましょう。
髙橋さんは北海道北広島市出身。保育の3年制の専門学校を卒業後、地元の養護施設で産休代替教員や認可保育園で保育士として勤務。「学生時代はずっと居酒屋でアルバイトをしていました。接客業がすごく楽しくて、学校もあまり行ってなくて(笑)。学科の成績はイマイチでしたが、実習の成績はすごくよかったんです。じっと勉強しているより、体を動かしていたいタイプなんですよね」と笑います。
「保育士や幼稚園教諭の資格を取ったものの、保育の世界にいたのは2年くらい。一旦離れてしまい、飲食業など違う仕事をしていました。あるとき、早く親孝行するには、やはり学費を出して学校に通わせてくれた保育業界に戻ったほうがいいかもしれないと思って、自分に合う保育園や幼稚園がないかなと探し始めました」

そんなとき、後輩から髙橋さんにぴったりの園があると教えてもらったのが「ストロベリーフィールド」でした。1度話を聞いてみたいと考え、オーナーと面談。一般的な保育園や幼稚園とは異なるカリキュラムやコンセプト、オーナーの考え方に共感し、まずはパートタイムで働きはじめます。
しばらくするとオーナーに呼ばれ、「次の年から統括を任せたい。やる、やらないは自分で決めていいよ」と言われます。保育士としての経験も社歴も浅く、最初は驚いたそうですが、飲食店で店全体をまとめる仕事に就いていた経験を買っての抜擢だったそう。
「うちのオーナーは失敗を恐れず挑戦することを大事にしているタイプ。スタッフに対しても、失敗したことで怒ることはなく、むしろ失敗を恐れて行動しないことに対して厳しい。せっかく与えてもらったチャンス、私自身もチャレンジしてみようと引き受けることにしました」


ちょうど保育園と幼稚部門をセパレートにする時で、もう1人チーフスタッフとカリキュラムの見直しをしながら、自身も担任を持ち、園全体も見るという、かなりハードな日々が続きます。
「当時は、私ともう1人統括がいたため、2人で必死に働いていました(笑)今考えるとあの時があったからこそ、今もやりがいを持ち、どんな仕事が来ようと楽しく働けていると思います。友人からは忙しそうだけど、充実しているよねと言われています」
頭ごなしに否定をしないこと。幼児教育もスタッフへの人材育成も基本姿勢は同じ
現在は、現場をしっかり見てくれる強力なチーフ陣が揃ったこともあり。髙橋さんが担任を持つことはなく、管理に従事しています。「でも、じっとしているのが苦手なので、パソコンにずっと向かっているより、園児と体動かしたりしているほうが楽しいかも」と話します。運動が好きという髙橋さん、園の運動会で行われるグループ企業のスタッフによる短距離走で、「1位を守っています」と笑います。
髙橋さんは統括マネージャーとして、現場スタッフの育成や教育にも携わっていますが、「子育てと人材育成は同じだなと感じています」と話します。
「この会社に入って本当に良かったなと感じているのが、オーナーや上の人たちが頭ごなしに否定をしないというところでした。きちんと話を聞き、挑戦させてくれる。そういう社風が人を育てるのにとても大事だなと感じています」と続けます。

「ときどき、スタッフと接していて、あ、私、今否定していなかったかな…とハッとするときがあります。だから、都度初心にかえるように気を付けています」とニッコリ。
それは、園児へ接するときも同じだと言います。
「一人ひとりの個性、感性を大事に伸ばし、センスを磨いていくのが当園のコンセプト。こうするべきという大人のものさしやエゴで型にはめてはならないと考えています。その子がどう考えて、その行動をしたのか、その子はどうしたいと思っているのか、きちんとくみ取っていくことが大事ですね」

とにかく明るく、終始笑顔でハキハキと話してくれる髙橋さん。撮影時のちょっとした気配りや、レッスン中の園児やスタッフへの配慮など、瞬時に判断して対応する様子は、サービス業を経験し、園でも長く統括を任されているだけあるなと感心してしまいます。
「最近は、会社がほかの保育園や幼稚園のコンサルに入ることもあり、私自身も園の運営に関してもっと勉強をして、アップデートしていかなければと考えています。また、ストロベリーフィールド自体も常にアップデートし、選ばれ続ける園でいなければと考えています。卒園生も増えているので、卒園後の生徒と関われるようなものもできたらいいですね」
最後にそう語ってくれた髙橋さん。近くに寄って来た子どもに接している笑顔がとても素敵でした。
