札幌には自由闊達な社風の地場企業が多いような気がします。歴史がある会社でも、代表の考え方などが柔軟な印象です。それがゆえに、新しいアイデアや発想による札幌発の商品やサービスも多数誕生しています。
今回おじゃました「株式会社レアックス」も、1988年に世界初の技術である円錐鏡方式のボアホールカメラシステム・BIPSを発表。改良を続け、BIPSは今もなお国内外から高い評価を得ています。
地質調査機器の製造販売も行いながら、地質調査を中心に時代のニーズに合わせて環境調査も行い、成長を続けている同社。会社について執行役員と現場で仕事にあたる女性技師にお話を伺いました。
地質技術者が開発した世界初のボアホールカメラシステム
東区の住宅街にあるレアックスの本社。エントランスには昔の地質調査で使われていた機器などが展示されています。案内された2階の部屋には、博物館のように鉱物が壁側に飾られていました。
「弊社の事業は地質調査がメイン。トンネルやダム建設といった社会インフラの整備のほか、地すべりなど自然災害への対策にも地質調査は重要となります。また、ビルや橋といった構造物の維持管理、建築物の解体や改修時のアスベスト調査、土壌や地下水の汚染調査も行っています。皆さんの暮らしを見えない部分で支えているわけです」
そう会社について説明をしてくれたのは、営業企画部・技術開発部担当の執行役員・石井啓滋さん。大阪出身の石井さんは、北海道大学大学院で岩盤力学を専攻し、卒業後同社に入社しました。
また、レアックスにはボアホールカメラシステム・BIPSの開発メーカーという側面もあります。
ボアホールカメラは、掘削した穴の中にカメラを下ろし、穴の壁面(孔壁)を360度、ゆがみの少ない鮮明な画像で撮影することができるもの。創業者である先代の社長が開発した世界初のシステムです。
「地質技術者だった創業者は、もともと別の会社で地質調査の仕事に携わる中、より正確に調査を行うためにも客観的に診断ができるツールが必要だと感じ『見えない世界を見てみたい』と、ボアホールカメラを作ったと聞いています」
ボアホールカメラを開発し、地質調査の新たな可能性を信じる仲間と一緒にレアックスを創業。地質調査会社が調査のための機器を開発製造したのは画期的だったようです。
「札幌から世界へ」という創業者の想い
レアックスという社名は、Razor(剃刀)とAxe(斧)を合成した言葉。創業者の恩師である地質学者の湊正雄北海道大学名誉教授(故人)の「ミクロを分析する剃刀(緻密な分析力)とマクロを判断する斧(総合的な判断力)の両方の刃を持ちあわせなさい」という教えが由来です。経営理念の中にも「最新テクノロジー(剃刀)と地球科学(斧)の融合」という文言が入っています。
「レアックスは『札幌から世界へ情報を発信する』というスローガンのもとスタートさせた会社だったので、開発したボアホールカメラを海外へも展開。欧米各国でデモや学会発表を行い、最初は国内より海外での評価が高く、そこから一気に普及していったと聞いています。また、同時に海外企業との技術提携も行うようになりました」
ちなみに、今もなお本社を札幌に置いているのは、その当時の想いが根底にあるからだそう。創業者は現在レアックスを卒業し、レアックスのテストフィールドがある南区の八剣山でワイナリーを経営しています。
進化を続けるBIPSの計測依頼は全国から!
現在も、より良いシステムや機器をクライアントに提供すべく技術開発部のスタッフがBIPSの性能向上にあたっています。さらに、これらを用いて現場で計測を行い、画像解析を行う計測技術部の専門スタッフが全国3拠点で活躍しています。
「実は全国各地から計測依頼が殺到しており、この計測・画像解析のスタッフが足りない状況で…」と石井さん。実は計測技術部の方にお話を伺う予定でしたが、予定していた技術者は、急遽青森の現場に行かなければならなくなり、残念ながら取材は叶いませんでした。
代わりに石井さんに、計測技術部の仕事におけるやりがいや面白さを伺うと、「常に新しい技術を自社で開発しているので、その新しいものを現場に適用できるのは計測技術部のスタッフのやりがいのひとつ。また、全国各地から声がかかるので、フィールドワークが好きなタイプの人には面白い仕事だと思います。各現場で、お客さまに求められることに応えていくこと、そして直接お客さまから感謝の言葉をいただけるのもこの部署の特徴かなと思います」と教えてくれました。
環境調査も実施。アスベスト調査を担当する女性技師
レアックスは、2000年代に入る辺りから土壌汚染調査業務に参入。環境にまつわる調査業務を行う流れで、当時問題になっていたアスベストに関する調査分析の業務もスタートしました。そのアスベスト調査を担当しているチームの一人が、地質部 環境分析担当技師の伊賀ゆいさんです。
生まれは札幌ですが、親が転勤族だったため10代は愛知や静岡で過ごしたという伊賀さん。祖父母がいる札幌へはよく遊びに来ていたため、いつかは札幌に暮らしたいと考えていたそう。高校卒業後、専門学校を経てパティスリーやカフェに勤務。出産を機に退職し、土日が休める仕事を探し始めます。
「そんなときにたまたま見つけたのが、レアックスのアスベスト検査技師の補助のアルバイトでした」
フルタイムのアルバイトとして採用が決まり、働き始めた伊賀さん。初日から「この仕事、楽しい!」と思ったそうです。
「分析の仕方を先輩に順番に教えてもらったのですが、調査依頼の建材を砕いて、黙々と作業するのが楽しかったんです。これまで、常にお客さまと接しているサービス業だったので、やることの予定を立ててもなかなか計画通りにはいかないのが常でした。でも、検査技師の仕事は自分のペースで作業できるので、私にとっては新鮮で楽しかったんです」
2020年には契約社員となり、2023年からは正社員に。契約社員になった際、産休育休も取得しました。
「レアックスで働きはじめて6年目になりますが、この仕事がイヤだと思ったことは一度もないんです。最近はさらに楽しいと思えるようになって」
どんなところに面白さを感じるのかを尋ねると、「1つの調査にだいたい数日かかるんですが、いくつかの調査を並行してやっていくので、毎日のように納期があります。その納期に合わせて、自分でスケジュールを計画し、それをクリアしていくのが面白いんですよね。きっと自分に向いてるのだと思います」とニッコリ。
子育て中でも働きやすい環境。できることで会社に貢献したい
また、会社の社風や働きやすさも伊賀さんがここで働き続けている理由のひとつなのだそう。男性が多い職場だったこともあり、実は産休・育休取得の第一号は伊賀さんだったそうです。
「子育てとの両立がしやすい環境なんです。定時で上がれるし、子どもが熱を出して早退しなければならないときも、誰一人イヤな顔をせず、お大事にねって言ってくれるんです。休みも取りやすくて、ありがたいです。シフト制のサービス業のときは、なかなかそうはいかなかったので…。それから、無理に『頑張れ』を押し付けられるようなこともないです」
伊賀さんのように子育てと両立した働き方へのケアをはじめ、それぞれの立場や状況を、お互いに理解し合える環境がレアックスの社風としてあるようです。
仕事以外でも、伊賀さんは、2022年のミセスコンテスト(Mrs of the Year)にエントリーし、北海道でグランプリを獲得。東京で行われた日本大会へも進出したそう。今年は、娘さんと一緒に、EPQF Enjoy Princess & Queen Fes2024にエントリーをしているそう。
「こういう活動にも会社は寛大で、大会当日はお休みをいただきました。プライベートも充実させることで生活にメリハリができ、仕事にもより楽しく取り組めるようになりました」
昨年の6月から、会社のX(旧Twitter)を任されている伊賀さん。会社のことや仕事のことはもちろん、日々の出来事などを週1ペースで発信しています。
「社長からは自由にやっていいよと言われているのですが、今後は会社の人たちを自分の視点で紹介していったりしたいですね。業界以外の方たちにも会社の名前を知っていただきたいと思って投稿しています。フォローしてくださっているママさんから、会社の雰囲気が良くて働きやすそうな環境でいいですねって言われたときはうれしかったです」
これからの目標を尋ねると、「アスベストの分析技術力を高めて、よりよいサービスをお客さまに提供していきたいと思います。また、私にしかできない形で会社に貢献できたらと考えています」と伊賀さん。ミセスコンテストに出場したことをきっかけに、健康についてもさまざまなことを学んだそうで、「社員みなさんの健康管理(ウェルビーイング)でも役に立ちたいと考えています」と話してくれました。
自由な社風を生かし、社会に必要とされる事業を展開
ここで再び石井さんに登場していただき、会社のこれからについて伺いました。
「毎年のように大きな地震や洪水など自然災害が起きています。地質調査の仕事、BIPSの活用は防災や減災にも欠かせません。安全な暮らしを支えるわれわれの役割は大きいと感じています。また、SDGsにも力を入れており、環境保全への取り組み、途上国の水不足問題の支援などを行うほか、次世代に地質や地球科学へ興味関心を持ってもらえるよう体験型プログラムも行っています」
時代のニーズに応じ、新しいことにも柔軟な姿勢でチャレンジし、事業を通じて社会貢献を続ける同社。お話を伺っていると会社全体が自由で軽やかな印象を受けます。
「根性論を振りかざす人がいなかったのが、今の雰囲気を作っているのかもしれないですね」と石井さん。もともと研究者肌の社員が多く、新しいものを生み出すのに必要な自由な発想や柔軟な考え方を受け入れる土壌が会社にはあったそう。
社屋の最上階には、ソファや冷蔵庫などが設置されたちょっとしたラウンジスペースがあり、コロナ禍前はここで飲み会などを頻繁に行い、社員間の交流を深めていたそうです。技術やアイデアについてお酒を飲みながら語り合う様子が想像できます。
また、夏には駐車場で「レアックス祭り」を行い、社員の家族や取引先、近隣の方たちを招待。コロナ禍の間はお休みしていましたが、今年は実施する予定だそう。「こういった催しも風通しの良い会社作りには必要なのだと思います」と石井さん。
「伊賀さんのように仕事だけじゃなく、子育てなどプライベートも充実させて活躍している社員がいることは、会社の『元気』にも繋がっています。これからは女性の技術職も増えていくと思いますし、『札幌から世界へ』をもっと広げていくために、計測技術部の仲間も増やして、より成長していきたいですね」と締めくくってくれました。