あしたをつくる、ひと、しごと。

  1. トップ
  2. 仕事や暮らし、このまちライフ
  3. 札幌から生まれる新たな彩り。空間コーディネーターのこれから。

仕事や暮らし、このまちライフ

札幌から生まれる新たな彩り。空間コーディネーターのこれから。

2025.2.3

share

MOCCOさんは、オフィスやホテルなどに花や緑を使い空間に彩りを添える「空間コーディネーター」という仕事をしています。この仕事、言葉の単語からなんとなく仕事のイメージはつくものの、一体どんなことをするのか…。そのことをMOCCOさんにお伝えすると「札幌では、あまり見かけない職種なので馴染みがないかもしれませんね」と、教えてくれました。「最初は獣医師を目指していた」というMOCCOさんが、空間コーディネーターという仕事にたどり着くまでの道のりや苦労、その先に見つけた夢を伺いました。

10代で接客業の楽しさを知り、東京へ

札幌市豊平区で育ったMOCCOさん。小さい頃は、ものづくりが好きな子どもでした。しかし、MOCCOさんが当時夢見ていたのはものづくりに関わる仕事ではなく、獣医師になること。ペットを飼っていたからという理由でしたが、動物に関する職業の情報も少なかったからだともいいます。

「就職するということは、漠然と公務員になるか、看護師や美容師などの資格を取得して仕事に就くかというイメージしかなかったんです。動物に関する仕事をしたいと思ったときも、トリマーや動物看護師という選択肢があることを知らなかったので、獣医師しか頭に浮かびませんでした」

▲こちらが、空間デザイナーのMOCCOさん。

獣医師になるには、獣医学科がある大学受験にまずは合格しなければなりません。しかし、小中高と進学するにつれ、ハードルの高さが現実的になり、次第にMOCCOさんはモチベーションを失っていきました。そして、友人との人間関係にも悩み、高校3年のときに退学を考えます。

「進学に関して、周りの友達との温度差を感じるようになったんです。うちは両親が厳しく、絶対国公立に行けと言われていました。でも、周りはもっと気楽に進学先を選んでいて。退学は、なぜ自分だけ選択肢が少ないんだろうという親への反発もあったかもしれません」

しかし、先生から説得されて、退学ではなく単位制の高校に編入。編入後は、アルバイトをしながら学校に通う生活が始まります。その中で出会ったのが接客業の仕事でした。

「天職かと思うくらい楽しかったです。お礼の大切さや、接客の基本的なことを徹底的に教えてもらい、それを続けるとお客さまから感謝されることも増えていき、売上につながるのが面白かったんです」

努力すれば、売上に繋がることの楽しさを知ったMOCCOさん。徐々に、獣医師になるという気持ちも薄れてしまい、学生生活を終えると札幌からも離れることに。東京に出て行き、同じように接客業で働くようになったといいます。

「それまでもアルバイトはしていましたが、それは時間に対しての報酬です。東京に出てからはインセンティブ制度がある仕事に就いたので、自分で目標設定をして頑張れば、それに対する結果が対価として返ってくる。そんな働き方があることを知って勉強になりましたし、楽しかったですね」

▲小樽運河プラザ内での季節装飾。

25歳で花屋へ転職し、ブライダルの世界へ

東京で接客業の仕事を続けていたMOCCOさんは、25歳のときに札幌へ戻り、突然花屋に転職します。

「体力的に接客の仕事を続けていくのは難しいと感じたので、そろそろ違う仕事に切り替えたいと考えていました。花屋を選んだのは、接客業で働いていたときにフラワーアレンジメントに触れる機会が多く、その花を見て嬉しい気持ちになることが多かったからです」

しかし、「花屋の求人が少なかった」とMOCCOさんは言います。そこで、電話帳で札幌市内の花屋を調べ、一軒ずつ電話をかけて募集している店を探しました。すると、一軒の花屋がブライダルシーズンの短期アルバイトとして雇ってくれることに。さらに、別の花屋での長期アルバイトも掛け持ちしながら、花の仕事を学んでいきました。

「短期の仕事はブライダル専門で、ひたすら式場の雑用やセッティングをしていましたね。その時に式場で見た新郎新婦の笑顔やスタッフの雰囲気は、今までの仕事では感じられない多幸感がありました。長期アルバイトでは、店長や社員の方から、いろいろ教えてもらい花屋の仕事を一通り学びましたね。職人さんが多い世界なので、『見て覚えろ』という感じでしたが(笑)」

1年ほどたつと、MOCCOさんは、ケーキショップ運営とレストランウエディングを手掛ける別の会社に転職します。ここでは、レストランウェディングのフラワーアレンジメントの準備や、フロアスタッフとして従事することに。

「短期アルバイトで初めてブライダルの仕事に触れたときの印象が忘れられなくて。ハッピーな人に囲まれる空間で働くのがすごく楽しかったんです。お客さまに『ありがとう』と言われるのもうれしかったですね」

▲誕生日からプロポーズまで、花束で心に残る演出を…。特別な瞬間を彩るお手伝いをしています。

レストランウエディングの仕事を3年ほど続けたMOCCOさん。ある日、ブライダル会社で働いていた友人から、「うちの会社にブライダルコーディネーターの空きが出た」という連絡をもらいました。MOCCOさんは、「以前から興味があったブライダル会社だったので、絶対に入りたかったんです」とその時を思い出し、目を輝かせます。

面接を受け、念願通りブライダル会社に入社したMOCCOさん。いよいよ、本格的にブライダルの仕事に取り組んでいくことになります。新郎新婦の打ち合わせにフローリストとして同席し、ブーケのデッサンや制作、式場の装飾がMOCCOさんの仕事でした。

「みなさんキラキラした表情で会場を見てくれるので、その顔を見ると『頑張ってよかったな』と、努力が報われました。挙式後にお手紙をくださる方もいて、『MOCCOさんのブーケのデッサン取ってあるんですよ』と書いてくださることもあり、うれしかったですね」

在職中は横浜にも転勤して、ブライダル以外のイベントやディスプレイの仕事も経験します。そんな中、自身も結婚し、バリ島で挙式。現地のフローリストに頼み、バリ島の花を使ったブーケを作ってもらったそうです。たくさんの結婚式を作り上げてきたMOCCOさんなら、自身の結婚式もこだわりを持って作り上げたのではないでしょうか。

「夫と2人だけで行ったので、挙式とフォトだけのシンプルなウエディングでした。日本に戻ってきてからも、披露宴のパーティーはしていませんでしたね。その当時本当に忙しかったので、お客さまの結婚式を作ることに全力を注いでいて、自分たちのことはあまり手が回らなかったのが正直なところです(笑)」

花の制作から、人のマネジメントへ

結婚後もブライダル会社での勤務を続けていたMOCCOさんですが、3年ほどたった頃、妊活を理由に会社を退職します。しかし、退職後、昔の同僚から誘われて札幌にある会社に入社し、結婚式場の空間コーディネーターとして働き始めました。その会社では式場の装飾やブーケを考えるコーディネーターと、制作するフローリストの仕事が分業になっており、空間コーディネーターのMOCCOさんの仕事はお客さまとの打ち合わせがメインです。

長年、制作にも携わってきたMOCCOさんは、この「分業制」に苦労したといいます。

「前の会社では、新郎新婦へのヒアリングも自分で行えて、制作も自分ですることができた。でも、分業制だとそれができない。私は、新郎新婦と打ち合わせした通りのものを作りたいという気持ちが強かったので、出来上がったものに対して『もう少しクオリティを上げてほしい』とフローリストにリクエストすることもありました。これがきっかけで、フローリストとぶつかることも多かったので、今までで一番大変な仕事だったかもしれません」

お客さんに満足してもらえるものを届けられないばかりでなく、スタッフ同士にとってもつらい状況。MOCCOさんは、この状況を改善しようと動き始めます。研修制度を導入し、他のスタッフのお客さまとの打ち合わせにも同席して、課題点を洗い出しました。

「中には、『なんでこんなことをやるんだ』と社内の人から怒られることもありました。でも、社長は、『やりたいようにやってみたらいい』と背中を押してくれたんです」

昔から何事も自分一人で決めてきたから、周りから何を言われても続けられたと話すMOCCOさん。とはいえ、制作から人のマネジメントという仕事内容の変化に対し、葛藤はなかったのでしょうか。

「最初はありました。やっぱり装飾やブーケを作りたかったですし。でも、ずっと同じ目線で物事を見ていても、きっと自分自身にも変化はないし、在籍している会社のクオリティも上がらないと思ったんです。何より、式を楽しみにしている新郎新婦にとって一生の思い出になることですから、妥協はしたくなかったです」

少しずつ会社の環境が変わり始めた頃、MOCCOさんは第一子を出産します。産休育休を取得し、復帰後は、コロナ禍の影響もあって結婚式の件数が激減する中でも、MOCCOさんはオンラインでスタッフの教育担当を続けます。

ワーママとしての悩みがきっかけの会社設立

コロナ禍も徐々に落ち着きが見え始め、人の往来も増えたころ、MOCCOさんは新たな問題に直面します。子どもが体調を崩したりすることが多くなり、仕事を休まざる得ない状況が増えてきました。

この時にMOCCOさんは、現場の仕事から退くことを考え始めます。

「打ち合わせをした私が当日会場に行かないと、細かいやりとりが分からずフローリストさんたちが不安になるんですよね。だから、業務委託として教育担当に専念した方がいいのではないかと思い、人事に相談したんです」

▲フォトウェディングの際の移動中の一コマ。

それまで、ブライダル業界の第一線で活躍していたMOCCOさん。思うように仕事ができないことへのフラストレーションはなかったのでしょうか。

「全くないわけではなかったですが、40歳くらいまでに独立したいという気持ちがあったので、業務委託に切り替えた方がいいのかもしれないと前向きにとらえていましたね」

そんなMOCCOさんの独立を後押しすることになったのは、会社の人事担当とのやりとりでした。さまざまな働き方を提案してくれる中で、独立も一つの方法だとアドバイスしてくれたそうです。

「独立するといっても、法人化するつもりはありませんでした。でも、起業している同級生に相談したら『取引先に法人が多いなら、MOCCOも法人の方がいいんじゃない?』とサラッと言われたので、よく分からずにじゃあそうしようかって(笑)。そこから、会社の設立に必要な手続きを全て一人でやりました。その頃はまだなにもわかっていなかったので、大変という感覚がなかったのが逆によかったのかもしれません」

こうして、自分の会社を作り、新しい道をスタートさせたMOCCOさん。事業内容は、今までの知識と経験を活かし、オフィス玄関やホテルなどを装飾する空間のコーディネートがメインです。前職の空間コーディネーターとは違い、コーディネートも制作もMOCCOさんが一貫して行うようにしたため「より自分が表現したいことができるようになった」といいます。

起業初年度から異業種交流会の事務局も担当し、人脈を広げながら営業活動を行いました。努力の甲斐があり、取引先の会社が少しずつ増えていきましたが、全てが順風満帆だったわけではありません。

▲パーテーションや壁面緑化を取り入れた立体的なデザインが、オフィス空間を明るく一新。バックヤードとの仕切りとしても機能しています。クロスには企業様のコンセプトカラーを採用し、ロゴをカルプ文字でアクセントに加えました。

「子どもが熱性けいれんを起こすことがあり、そばを離れるのが怖い時期があったり、幼稚園の夏休みなどで思うように仕事で動けなかった時期もありました。子どもの成長と共に、目を離すことができないということがなくなってきたので、今は少し動きやすくなりましたね」

そんなMOCCOさんの会社は今年で4期目。現在は、オフィスのコーディネートや民泊の内装を手掛けることが多いそうです。

「花材の手配や搬入から施工まで、全部自分でやっているので、体力的にきついこともあります。施工時にはアシスタントにも入ってもらっているんですが、それでも、翌日は体が動かないほど疲れてしまうので、必ず休みを入れるようにしています(笑)。だけど、自分で考えたものが完成して、それを使っている人たちを見るのがうれしくて。北海道に自分が作ったものが残ると思うと、とてもやりがいを感じます」

▲Plant MOCCOが開催したワークショップの様子。

道外にも活躍の場を広げていきたい

MOCCOさんは、今後、道外へも活動範囲を広げたいと考えています。ブライダルコーディネーター時代に道外での仕事を経験してきたことから、北海道ならではの素材やデザインの価値を全国に届けたいという思いが強いそうです。

「北海道の白樺などを使うコーディネートができるといいなと思うのですが…北海道から植物を運ぶのは難しいんですよね。あと、どうしても東京発信のトレンドが、数年後に札幌にくるというのがあるので、北海道からコーディネートのトレンドを発信するには、今はどういうアクションを取ればいいのか考えているところです」

さらに、現在、新しいビジネスも構想中だと話します。それは、ペットの散歩代行サービス。それは、「動物に関わる仕事をしたい」という学生時代の夢にもつながる事業です。

「子どもがいる人や高齢者の方が、犬の散歩に行けなくて困っているという話をよく聞くんです。私自身犬を飼っていて、妊婦のときに散歩が大変だと感じたことがありました。特に冬場は雪で滑って転ぶ可能性もあって、『これは本当に危ないな』と思ったんです。ペットに関する仕事は以前からやってみたかったことなので、準備が整ったら始めようと思っています」

プライベートでは、将来的に道外で暮らしてみたいという気持ちもあると話します。

「以前転勤で行っていた横浜は住みやすかったし、海が近いのも魅力的でした。でも、夫は北海道が好きなので、多分道外に出たくないと思います。しかもなぜか都会は危ないと思っているようなので…(笑)、そこはこれからの夫婦の話し合い次第ですね」

何度かのキャリアチェンジを経て、自分がやりたい仕事をにたどり着いたMOCCOさん。目標のために、努力を惜しまない姿が印象的で、ブレない信念のもと、ここまでやってきたということが伝わる取材でした。北海道から空間コーディネートのトレンドを発信し、それが形になる日を私たちも楽しみにしています!

MOCCOさん

合同会社310/空間デザイナー

MOCCOさん

北海道札幌市豊平区

TEL. 080-5598-9561

ホームページ

Instagram

キャラクター