緑豊かで広々とした北海道大学の札幌キャンパス。1万人以上の学生が通っています。サークルや部活動、研究会、同好会など、大学の公認学生団体は100以上。非公認の団体も含めると300を超えるともいわれています。今回紹介する「北大雑誌サークル やなぎ」は昨年の秋にできたばかりの新しいサークル。非公認団体ですが、今年の6月に行われた北大祭で、自分たちが作った雑誌を販売し完売させました。サークルを立ち上げ、代表を務める島脇義人くんにお話を伺いました。
まちづくりを学ぶため、北大工学部へ。札幌は都会なのに豊かな自然が身近にある
札幌駅から歩いて10分足らずで、北海道大学の正門に到着。「北大雑誌サークルやなぎ」の代表を務める島脇くんとの待ち合わせは、キャンパス内にあるクラーク会館。「北大」とひと言で言っても、約178万平方メートルという広さを誇る札幌キャンパス、方向を間違えたら迷子になりそうです。観光客も多く訪れる北大キャンパス。朝ということもあり、観光客はまばらで学生たちが行き来しています。
芝生が広がり、サクシュコトニ川という小川が流れる中央ローンを横目に歩いていると、中央ローンにそびえる立派な柳の木が目に留まります。彼らのサークル名と関係あるのだろうかと考えながらクラーク会館へ。
「おはようございます」と待ち合わせの時間ぴったりに現れた島脇くんは、どこかあどけなさが残る青年。それもそのはず、島脇くんは工学部の2年生、まだ19歳なのです。
まずはサークルを立ち上げるまでの島脇くんのことを聞いていくことに。
「出身は東京です」と言う島脇くん。やはり北海道に憧れて北大を志したのかと思いきや、「いや、実は特に北海道に興味があったわけでもなくて…」と苦笑い。「とにかく一人暮らしをしてみたくて、まちづくりを学べる学部があるところならどこでもよかったんです」と話します。
「まちづくりに興味を持ち始めたのは、中学生くらいから。小学生のときに神奈川に住んでいたことがあって、そのあと東京へ移ったんですけど、離れてみて初めて住んでいたまちの良さを実感しました。そのときに、どこのまちも同じというわけではなく、住みやすいかどうかはまちづくりにかかっているんだと分かり、興味を持つようになりました。あとは、いろいろなまちの景色を眺めるのが好きなんです」
北海道や札幌に惹かれてきたわけではないという島脇くん。札幌のまちの第一印象を「道路が広くてビルが多くて、意外と都会なんだとびっくりしました」と話します。北大に入学し、実際に住みはじめてからは、「都市なのに自然が近くにあっていいまちだなと思いました」とニッコリ。
さらに札幌のまちの良さを尋ねると、「交通網が整理されていてどこへ行くにもアクセスがいいし、大通公園で一年通していろいろなイベントやお祭りを行っているのも新鮮な感じがしました。東京はランドマークと呼ばれるものがあちこちにありすぎて、まちに一体感を感じにくいんですけど、札幌はテレビ塔、大通公園などがこぢんまりとまとまっているのもいいなと思いました」と教えてくれました。その一方で、「中心部が碁盤の目になっていて分かりやすくて便利ですけど、曲がり道がないのはちょっと寂しい」と笑います。
初めての冬については、「雪道を歩く経験がなかったので、もちろん何度も何度も滑りました。あと、住んでいる部屋が古いのでちょっと寒いんですよね」と話し、「でも、除雪した雪が路肩に高く積み上げられるじゃないですか。2mくらいある雪のかたまりを最初見たときは驚きました」と続けます。
自転車の旅を経て、「何か新しいことに挑戦したい」と雑誌サークルを立ち上げる
さて、そんな島脇くんがサークルを立ち上げようと思ったのはなぜだったのでしょうか。
「1年生の夏休みに20日間近くかけて、自転車で本州縦断にチャレンジしました。苫小牧からフェリーで青森に渡って、そこから日本海側をずっと走って、福井から京都、大阪に進み、山口の下関まで行ったんです。その旅を終えたあと、まだ夏休みが残っていたので、次に何か新しいことをやってみたいなと思ってサークルを立ち上げることにしました」
高校時代、ずっと勉強に明け暮れていたという島脇くんは、大学に入ったらいろいろなことに挑戦し、何かを自分で立ち上げてやってみたいと考えていたそう。
「そのとき何かは決まっていなかったのですが、何かを打ち立ててみたいと思っていたんです。できれば、みんなで何かひとつのものを作るようなことをやってみたいなと」
大学の友達に、「サークルを作ろうと思うんだけど、入らない?」と声をかけ、何をやろうかと話し合っているうちに、「雑誌を作ってみよう」と決まります。
「日本縦断の旅をして、いろいろなまちを見てきて、今度は自分が住んでいる北海道の魅力を自分も知りたいし、それをまたたくさんの人にも知ってもらえたらいいなと思ったので、北海道の魅力を伝える雑誌を作ることにしました」
WEBの時代にあえて紙媒体である雑誌を作ることに関しては、「手に取ることができ、形に残るものを作ったほうが、読んだ人の思い出になりやすいと思ったのと、紙で作ることで販売したときに達成感があるかなと思ったので」と理由を教えてくれました。
道外出身の学生目線で第1号の雑誌「willow」を制作。用意した250部は完売
サークルのメンバーが4人になったとき、サークル名が「北大雑誌サークル やなぎ」に決まりました。
「語呂の良さや覚えやすいという理由で、『やなぎ』にしたんですが、あとで柳の花言葉を調べたら、『自由』という意味だったんです。自分自身も自由でありたいと思っていたので、ちょうどぴったりだったなと思っています」
雑誌を作ると聞いて、「おもしろそうだね」とサークルに入る人が増えていきます。「頑張って何かをやろうとしている人がいる」という理由で参加してくれた人もいたそう。
「柳は英語でwillow。雑誌のタイトルはwillowにし、6月の北大祭で販売しようと決めました。雑誌の内容は、メンバーに旅行好きな人が多かったのと、ほとんどが僕と同じ道外出身者だったので、道外出身者から見た北海道を紹介する旅行雑誌ができたらいいかなと思いました」
それぞれのメンバーが実際に旅をしながら、取材をして写真も撮影。一般的な旅行のガイドブックとは異なり、メンバーそれぞれが行き先を決め、現地で見て、聞いて、体験したことを自分たちの視点と言葉で綴っています。マニア受けしそうなスポットから王道の観光地まで幅広く紹介。北大周辺の飲食店などのページも設けました。
原稿、写真のほか、デザインやレイアウトも自分たちで行いました。「雑誌サークルと名乗っているので、そこはちゃんとしたもので作ろうと思って」と、InDesignというプロも使うエディトリアルデザインのソフトを使って制作。教えてくれる人がいたわけでもなかったので、自分たちでいろいろな雑誌を見て勉強しながら組み上げていったそう。
完成した記念すべき第1号は予定通り北大祭で販売。印刷費用は賄いたいと1部300円に金額を設定し、250部を完売しました。
「200部売れたらいいかなと思っていたら、結局用意していた250部全部を売り切ることができました。同じ北大生向けに作ったつもりだったんですが、『おもしろいことやっているね』と北大祭に来ていた大人の方たちがたくさん手に取ってくれました」
札幌のまちについて取り上げる2号目は、フリーマガジンとして発行予定
無事に第1号を発行し、企画会議などを経て今は次の号の取材制作を進めている真っ最中。今回は無料配布のフリーマガジンとして11月15日に発行を予定しています。
「1号目は、道内各地の気になる場所をたくさん取り上げ、その結果、広く浅くなってしまった感じがあり、それぞれが伝えたかったことをだいぶ削ってしまったので、今回はひとつのまちに絞って紹介をしようとなりました」
今回取り上げるまちは、自分たちが暮らす札幌。6つのグループに分かれて、地域情報を発信するため、取材撮影に動き、すでにデザインに入っているグループもあるそうです。
「掘り下げた内容にしようということで、コンテンツもさまざま。たとえば、札幌で活動しているご当地アイドルについてや北大周辺にある古着屋についてなど、大学生ならではの切り口で紹介できればと考えています」
雑誌名はwillowにするかは未定。変わる可能性もあるとか。北大周辺の飲食店などに置く予定だそう。
サークルの地盤を作ったら、来年はバックパッカーになって世界を旅したい
創設者であり、現代表の島脇さんですが、「来年の北大祭が終わったら、大学を休学してバックパッカーになって世界中を旅したいと考えている」と話します。自転車の旅以来、すっかり旅の魅力にはまってしまったよう。
「僕がいなくなっても、残っているメンバーで雑誌作りを続けてやれるよう、その地盤はしっかり作っていきたいと考えています。せっかく作ったサークルですし、これからも続いていってほしいと思います。こんな雑誌を作ったらいいとかそういうことを口出すつもりはまったくありませんし、むしろ自由な発想でやりたいように作ってもらいたいと思っています。ただ、一つだけ、みんなで雑誌を作って世に出すという達成感をいつも感じられるサークルであってほしいとは思います」
最後に、バックパッカーから戻ってきたあとの島脇くんはどのような自分の未来を描いているのかを尋ねると、「やっぱりまちづくりに携わりたいですね。大学に戻ってまちづくりの勉強をして、将来的には北海道のまちづくりに携わってみたいという気持ちもあります。そのためにも学生のうちに世界中のいろいろなまちを見ておきたいし、外に出たからこそ見えるものもあると思っています」と語ってくれました。
最後に中央ローンに移動し、大きな柳の木と一緒に島脇くんの姿を撮影。ゆらゆらと風に揺れる柳の枝のようにしなやかにたくましく、そして花言葉の通り「自由」に、これからまだまだ成長を続けていくであろう若者の笑顔が眩しく見えました。