パタパタ、パタパタ…。絵本の中の幅の短いページを何度も何度もくりかえしめくると、登場する動物たちが動いているように見えます。動きはもちろん、表情にも変化があり、子どもたちが夢中になってパタパタするのも分かります。この絵本「パタパタどうぶつえん」(タケウマ 絵/ブロンズ新社)の作者は、札幌在住のアートディレクター・岡田善敬さん。札幌大同印刷株式会社に勤務しながら、クライアントワークのほか、さまざまなセルフプロダクト(自主制作)にも取り組んでいる岡田さんに、これまでの活動やデザインに対する想い、これからのことなどを伺いました。
ページをパタパタするアイデアは、印刷業務の作業「あおり校正」がきっかけ
2025年12月に発表された絵本「パタパタどうぶつえん」。作者である岡田善敬さんの中にこの仕掛け絵本のアイデアが生まれたのは10年近く前だったそう。
パタパタの着想のきっかけとなったのは、「あおり校正」。印刷物の修正前と修正後の校正紙を重ね合わせ、誤字脱字やレイアウトのズレがないかなどをパラパラ漫画のように素早くめくりながら確認するという作業を言います。間違いがある箇所はまるで動いているかのように見えるという視覚効果から着想を得たというのは、印刷会社に勤務している岡田さんならではです。

「パラパラ漫画みたいな感じで、動いて見えるのが面白いかもとひらめいたのがきっかけ。実際に自分でノートを切って試作するなど、いつか形にできたらと思っていました。今回、ブロンズ新社の編集者・佐々木紅さんと共に大事に温めていたものが、イラストレーターのタケウマさんの絵と出合って形になりました」
絵本の中には、トラ、ワニ、キリンなど8種類の動物が登場。それぞれの動物たちが迷いのない筆致でのびのびと描かれ、パタパタめくることでより躍動感を楽しめます。

「イキイキした動物たちはタケウマさんの絵があってこそ。タケウマさんは、日々の創作活動の中でスケッチをとても大事にされていて、この絵本に出てくる動物たちも動物園に通って描いてくださったものもあると聞いています」
現在、全国10カ所を巡回するタケウマさんの原画展を開催中。先日、スタートした東京での展示には岡田さんも足を運び、同時開催されていたタケウマさんのスケッチのワークショップにも参加したそう。札幌では2026年6月10日~28日に東区にある「ヒシガタ文庫」で原画展を開催する予定です。(詳細は出版社のHPなどでご確認ください)

自社の周年記念のロゴやノベルティー制作で札幌ADCの賞を受賞
さて、アートディレクターとして印刷会社に勤務し、さまざまなロゴやパッケージなどのグラフィックデザインを手掛けてきた岡田さん。その作品の数々は、「あ、知ってる!」「見たことある!」というものばかり。広告デザインに関する賞もたくさん受賞しています。
現在、51歳の岡田さんは帯広出身。高校卒業までずっとサッカーに打ち込んでいて、美術やデザインとは無縁だったそう。
「絵はうまくはないけど、描くのは好きなほうでした。でも、色を塗って失敗するタイプ。キレイに色が塗れないんです(笑)。ただ、子どものころから自分でいろいろなことを考え、アイデアを出したり、工夫したりするのは好きでした。それは今の仕事にもつながっているかもしれません」

高校の先生からの勧めもあり、札幌デザイナー学院へ進学。初めてデザインを学びます。
「ちょうどMacが出始めたころで、学校にMacがあったんです。Macを使ってみたら、色はキレイに塗れるし、まっすぐ線は引けるし、これはなんていいものなんだと思い、そこから自分でも少しずつMacの使い方などを勉強するようになりました」
その後、札幌の印刷業界の中でもいち早くMacを導入していた札幌大同印刷株式会社に新卒で入社します。
「当時は手探り状態でMacを触っていました。まだまだアナログが主流でしたから。あと、当初はデザインをするというより、印刷会社なので版組(はんぐみ)などオペレーター的な仕事を中心にやっていましたね」

そんな中、社内にデザインを主としたデザインルームができることになります。グラフィックデザイナーとして活躍していた人が中途採用で入ったこともあり、「印刷のついでのデザイン」から、「いいデザインを作ること」に岡田さんたちデザイナーの意識も変わり始めます。
「ちょうど会社の50周年記念でボールペンを作ることになったんですが、ボールペンに文字が入っているだけというもので、デザイナーがいるのにこんなありきたりなものを作るのはもったいないと思って、必ず賞を取るので50周年記念のマークとノベルティーを作らせてほしいと会社に直訴しました」
当時、岡田さんは20代半ば。勢いもあったと笑いますが、見事、札幌アートディレクターズクラブ(札幌ADC)のコンペで賞を受賞します。北海道の第一線で活躍する広告代理店や制作会社のデザイナーが多く参加する中、札幌ADCのコンペに出すことに対して最初は気後れしていた部分もあったそうですが、受賞後は、同世代のほかのデザイナーたちと知り合い、たくさんの刺激を受けたと振り返ります。

そのあと3年連続で、札幌ADCのコンペで入賞を果たしますが、その次の年は何も受賞できず、思い切ってセルフプロダクトに取り組んで応募することにします。
「印刷物などを作る予算もなかったので、フォントを作ることにしました。モアイ像をアルファベットにしたモアイフォントというのを作ったんですけど、そのときにフォントっていいなと思ったんです」
モアイフォントで札幌ADCの金賞を取ることができた岡田さんは、フォントのデザインを考えながら、伝えること・伝わることの大切さを実感。「デザインはコミュニケーションだ」と感じたと話します。

JAGDA新人賞などを受賞した「オバケ!ホント?」を機に全国区のオファーも
その翌年もフォントデザインに挑戦した岡田さんは、オバケをモチーフにしたオリジナルフォントを作成します。白い布をかぶせ、目を2つ付ければ、あらゆるものがオバケになるとし、イラストレーターの倉橋寛之さんと共にフォントのほか、ポスター、文具なども制作。このシリーズ「オバケ!ホント?」は、2008年の札幌ADC賞グランプリ、日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)の新人賞、東京ADC賞と、さまざまな賞を受賞します。

「オバケ!ホント?で賞をいただき、JAGDAの展覧会でたくさんの方に作品を見てもらえる機会に恵まれました。その際、展覧会にいらしていた福音館書店の方から絵本を出しませんかと声をかけてもらったのがきっかけで、初めての絵本を出すことになりました」
その後も全国区の仕事のオファーが増え、NHKのEテレで放送されている「ノージーのひらめき工房」のテロップのデザインも手掛けます。さらに、番組のアートディレクションを行っているtupera tuperaさんとの出会いから、彼らの絵本のブックデザインなども担当。tupera tuperaさんと詩人の谷川俊太郎さんの共著「これはすいへいせん」(金の星社)のブックデザインにも携わります。


「賞を取ったことがすべてではありませんが、賞を取ってたくさんの人に自分の作品を見てもらえたことはひとつの大きな転機だったかもしれません。ただ、JAGDAの新人賞を取ったとき、周りのほかのデザイナーの方たちが凄すぎて、本当に自分が賞にふさわしいのかどうか分からなくなって、結構悩みました」
大きな賞が逆にプレッシャーに感じたという岡田さん、賞に見合ったデザイナーとしてこれからも仕事をしていくため、自分に自信をつけるため、アイデア帳を作り、毎日必ずアイデアを書くことをそのころは自分に課していたと話します。

アイデア、ユーモア、展開力。これを大事にデザインに取り組む
これまで岡田さんが手掛けてきたさまざまなクライアントワークをいくつか見せてもらいましたが、どれもデザインの中にしっかりとメッセージが盛り込まれています。そこには人の想いからくる体温のようなものも感じられます。
「デザインをするときにいつも意識しているのは、アイデアとユーモア。そして、コミュニケーションを生み出せるような展開ができるかも大事にしています。クライアントワークに関しては、とにかく丁寧にヒアリングし、経営者の方や会社の方の想いをしっかり受け止めて、それをデザインで形にすることを心がけています」
たとえば…と見せてくれたのが、札幌弁護士会のクリアファイル。弁護士会というとどこか堅苦しい印象があるため、あえて「札弁」という略称の漢字をパステルカラーを用いて親しみやすいロゴタイプに。そのロゴが中央に大きく入ったクリアファイルに書類を挟むと、ロゴは姿を消し、クリアファイルの表面には「味方」という文字が現れます。「札幌弁護士会はみんなの味方だよ」というメッセージを分かりやすく表現しているのが分かります。

「デザインを考えているときも好きですけど、それ以上にクライアントワークの場合は、クライアントの前でデザインのプレゼンをするときが何よりもワクワクします。自分たちの仕事は、クライアントの想いを社会に届けるためにデザインで翻訳するもの。デザインのここの部分にこのメッセージを込めていますと説明して、クライアント側の皆さんが喜んでくれたり、いい反応をしてもらえたりしたときに大きなやりがいを感じますね」
岡田さんの話に出てくるさまざまな「人」、それはクライアントだったり、同僚や先輩だったり、仕事関係者だったり、それらの「人」に対して、必ず「いい人なんですよ」「熱い想いがある人なんですよ」と話す岡田さん。とにかく「人」が好きで、その「人」の想いを自身の中から湧き上がるアイデアでデザインすることが岡田さんの喜びなのだろうと伝わってきます。そして、話を聞けば聞くほど岡田さん自身も十分熱い人だと分かります。

子どもたちは未来の希望。子どもたちに喜んでもらえる作品を作りたい
クライアントワークとは異なる絵本のようなセルフプロダクトに関しては、「対象者が違うだけで、デザインするにあたっての基本的な姿勢は変わりませんね。自分が伝えたいこと、思っていることをユーモアとアイデアでデザインに落とし込むだけ。絵本は読んでくれる子どもたちがお客さまですから、子どもたちに喜んでもらえたらうれしいです」と話します。
今回てがけた絵本「パタパタどうぶつえん」は、「子どもたちに工夫する面白さや楽しさを伝えられたらと思っています。この絵本は子どもたちもノートなどを使って真似をしようと思えばできるもの。そういう楽しさを味わってもらえたらと思います」と岡田さん。絵本のデジタル化なども進んでいますが、この「パタパタどうぶつえん」は、紙の絵本ならではの面白さが詰まっているともいえます。

岡田さんがアイデアの人だとあらためて感じたのは、「パタパタどうぶつえん」の発売を記念して制作した「がはくスケッチ」を見せてくださったとき。周りが額縁仕様になっていて、描いた絵がそのまま「画伯」の絵として飾れるというスケッチブックです。「子どもの描いた絵ってのびのびしていて、面白いものが多い。だから、スケッチブックの中で眠ったままなのはもったいないと考えて作ってみました」とニッコリ。ちなみにスケッチブックの表紙にタケウマさんのイラストが用いられている特別コラボバージョンは、全国巡回の原画展で販売するそうです。

「会社の向かい側に認定こども園があって、よく子どもたちが前の通りを歩いているんですけど、子どもたちの姿を見ると未来と希望を感じるんです。これからもライフワーク的に子どもたちに喜んでもらえるような絵本やグッズをチャンスがあれば作ってみたいですね。頭の中にアイデアはいろいろあるので」
絵本はもちろん、クライアントワークも含め、これからも札幌からアイデアとデザインを発信し、「想い」をカタチにした岡田さんの作品が楽しみです。



