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明日をつくる未来へのアクション

LGBTQ当事者を支援するパレードを担う。さっぽろレインボープライド

2025.8.29

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LGBTQなどの性的マイノリティの方々と支援者の方々が街中に集い、思い思いの服装で練り歩くプライドパレード。国内外各地で開催されていて、札幌では例年9月に「さっぽろレインボープライド」という名称で大通公園周辺で行われています。主催団体「さっぽろレインボープライド実行委員会」で陣頭指揮を執るのが、実行委員長の柳谷由美さん。どのような想いで携わるようになったのか、どのような人たちが関わり参加をしているのかなど、柳谷さんの想いと札幌でのプライドパレードについてなど、じっくりと伺いました。

不登校、退学、退職、思い悩んだ日々

柳谷さんは、道南のとある町の出身の30代。2025年現在は札幌市に住み、さっぽろレインボープライド実行委員会を執り仕切る実行委員長を務めていますが、10代から20代にかけては思い悩む日々を過ごしてきたそうです。思い悩んだ大きな理由は、自分自身の性のあり方、セクシュアリティに関係します。

「今現在、自分自身のセクシュアリティは正直言うと分からないっていうのが一番率直な気持ちです。何かの言葉に当てはめるとするなら、ノンバイナリーでパンセクシャルというのが、自分が今しっくりくるセクシュアリティかなと思っています。少し前まではずっとレズビアンだと思って生活をしてきました」

ノンバイナリーとは、自分自身のことを男か女かどちらか一方の性別であると認識しているわけではない人のこと。パンセクシャルとは、性別を問わず恋愛感情や性的感情を抱く人のことを言います。柳谷さんが長い間自分自身のことだと捉えていたレズビアンは、自分自身を女性と認識していて恋愛や性的感情を抱く相手が女性という人のことです。柳谷さんが自分のセクシュアリティについて「あれっ⁉︎」と思ったのは高校生の時でした。

「女の子から告白されて、同性同士でも好きになっていいんだ、お付き合いしてもいいんだっていうことを初めてその時に知って、私も女の子が好きなのかなみたいな、そういった気持ちがずっとありました」

ただ、自分が同性愛者であるということを同級生たちに知られてしまい、いじめを受けるようになりました。いじめを受けていることを先生や親に話すことはできたものの、いじめの原因が自身のセクシュアリティであるとは打ち明けられず、不登校になり、精神的にも追い詰められる高校生活でした。

その後大学に進学しましたが、はじめに出会った同級生たちから「もっと女の子っぽい格好したら」「スカートはくとか、髪をピンでとめるとかしたら」と言われたそうです。ボーイッシュな服装を好む柳谷さん、自分の見た目や自分らしさを全否定されたように感じ、親にも言わずに入学早々1カ月で退学してしまいました。一年浪人をしてから道外の大学に進学し、ここではありのままの自分を受け入れてくれる友人たちと出会い、無事に卒業することができました。

大学卒業後はすぐに就職しますが、ここでもまた壁にぶつかります。同性愛者であることを周囲に打ち明けられず、同性への恋愛や失恋の悩みを話せる人もおらず、精神的に不安定になり半年ほどで会社を辞めてしまうなど、仕事を続けていくことも困難な状態だったそうです。

「その頃がかなり精神的に落ちこんでいて、メンタルクリニックに通う生活が続きました」

柳谷さんが25歳の頃の話です。

LGBTQのコミュニティに出会いパレードへ

精神的に不安定な状態の中、現実から逃げるような気持ちで道外から札幌に引っ越してきました。ここで転機が訪れます。その当時人気があったSNSで、札幌にLGBTQの仲間が集まるコミュニティを見つけたのです。

「仕事や人間関係、そして自分自身のセクシュアリティと向き合う機会になりました。ここで出会った仲間たちに救われたことが、人生の大きな転機になりました」と語る柳谷さん。当時、札幌市内にレズビアンカップルが経営していたドックカフェがあり、柳谷さんは毎日のようにこのカフェへ入り浸るようになったそうです。ドッグカフェで開催されていたセクシャルマイノリティの人が対象の交流会に参加する中で、自分と似たような人たちがたくさんいること、セクシャルマイノリティ当事者が集うコミュニティが数多くあることを知るようになりました。

2010年のある日、ドッグカフェで知り合った人から「手伝わない?」と声をかけられプライドパレードに関わるようになりました。2010年に当日のボランティアスタッフとして、イベント自体が開催されなかった2012年を挟み2013年は実行委員のメンバーとして、受付やフロート(パレードの先頭を走るトラック)の装飾、さらにパレードの先頭を走る車でのアナウンスも担当しました。

高校生の頃から10年近く自身のセクシュアリティと向き合えず、隠し続けることに苦しんできた柳谷さん。ドッグカフェでの出会いやパレードへの関わりから、「自分一人ではない」「相談できる場所や人がいる」と思えたことが何よりも大きかったと言います。

転機が到来、札幌のプライドパレードの第二章へ

2018年にさっぽろレインボープライド実行委員会を立ち上げ、札幌のレインボーパレードは新たなステージへ進みます

日本で初めてプライドパレードが開催されたのは、東京で1994年のこと。その2年後、1996年に国内2番目の開催都市となったのが札幌です。国内での歴史が古い札幌でのプライドパレードは、年により開催名称は変わりつつも1996年から年一回のペースで開催されてきました。ただ、当時の主催者の意向により2012年は休止をして2013年に開催をしたのち運営主体が解散することになりました。以後数年間、札幌ではプライドパレードが開催されない期間が続きます。その間、柳谷さんはレズビアンやバイセクシャルの女性向けの交流会やクラブ音楽イベントの企画、道外のプライドパレードへの参加などを通して、「パレードをしたい」という思いを抱き続けていたそうです。

「同じセクシャルマイノリティの人たちに元気になってもらえるような、何かしたい、何か発信したいという気持ちでした。昔の私のように思い悩んでいる人の助けになればって。いつかパレードをしたいと思いつつ実現できない日々でしたが、自分で交流会や音楽イベントを主催していく中で少しずつ仲間が増えていきました」

大きな転機が訪れたのは2017年。札幌の大学生が中心となって企画をした「札幌レインボーマーチ+」というプライドパレードがこの年限りで開催されました。「長年心の中にあった『やりたいけど怖い』『自分にできるのだろうか』という心の中の重しが取れました」と柳谷さん。若い世代の行動力と熱意に背中を押され、2017年の運営メンバーの一部と今まで数年間築いてきた信頼のおける仲間とともに、2018年にさっぽろレインボープライド実行委員会を立ち上げました。一年限りではなく、毎年続けていくことができるプライドパレードをやろうと誓い。札幌でのプライドパレードの歴史、第二章の始まりです。

「どうやったらできるのか」を考えて行動する

2019年から、札幌PARCOと札幌三越の間、南一条通りを歩行者天国にして開催

2018年から現在まで、柳谷さんはさっぽろレインボープライド実行委員会で実行委員長を務めています。2018年から休むことなく開催するなか、毎年さまざまな課題に直面してきました。かつて札幌でのプライドパレードは大通公園をメイン会場として実施されることが多かったのですが、近年は秋に「オータムフェスト」が開催されるため大通公園を使用できなくなりました。そこで、2019年に札幌PARCOと札幌三越の間の南一条通を歩行者天国にして会場とすることに。ただ、初回は交通規制の時間が5時間しか認めてもらえず、テントの設営と片付けのために大半の時間を費やしたそうです。

札幌中心部を交通規制しての設営。時間との戦いです
協賛企業などさまざまな出展で、市民が楽しめるイベントに

「2019年は実質1〜2時間しかイベントを開催できなくて、パレードのイベントってよりも、テントを組み立てて片付けるイベントって感じでしたね」と苦笑いしながら柳谷さんは語りました。その後粘り強く関係機関と交渉を重ねることで、翌年以降は少しずつ交通規制の時間が考慮されるようになり、イベントの開催時間を確保できるようになりました。

さらに大きな課題は、コロナ禍の襲来でした。人が集うことも外出をすることも避けることが求められたこの頃。2020年は事前申し込み制や人数制限を行いつつも一般参加者を募って開催することができましたが、2021年はコロナ禍がより悪化していたため、実行委員会の内部で開催すること自体の賛否が分かれる状況になりました。

「休止期間はあれど1996年から中止することなく続いてきた札幌でのプライドパレードの歴史を途絶えさせたくない」

コロナ禍でも諦めず、パレードのオンライン配信を実施。スタジオトークとパレードのライブ中継を織り交ぜました

こう考えていた柳谷さん。9月の開催まであと1カ月弱しかない時に計画を変更。関係者のみ約30人で街中でのパレードを行い、その様子のライブ中継と屋内スタジオでのトーク企画を織り交ぜてオンライン配信することにしました。「歩く」ことを途切れさせない強い思いがあったからです。

「困難なことが多い中で、『どうやったらできるのか』を考えて行動することが重要」と語る柳谷さん。さまざまな人との交渉をはじめ、未知の出来事への対処や突発的なトラブルへの臨機応変な対応が求められるイベントの取り仕切りに大事なマインドです。だからこそ、札幌でのプライドパレードの歴史が途絶えず続いているのでしょう。

街中でイベントを催す意義

柳谷さんが実行委員長を務めた当初は1日のみの開催でしたが、2022年からは2日間の開催となり、2024年は来場者が3万人にもなる大きなイベントへと成長。携わる人や組織も数多く、実行委員会のメンバーのほかに当日の運営を手伝うボランティアスタッフは1日100名以になりました。街中を練り歩くパレードのみならず、アーティストやパフォーマーが出演するステージショーや、さまざまな団体や企業などによる展示や販売などのブース出展、キッチンカーの出店など、プライドパレードを盛り上げるイベントが数多く催されるようになりました。

プライドパレードは、LGBTQの法的権利を求める社会運動の場であり、LGBTQの存在を証して祝福するパレード(マーチ)として世界各地で開催されています。パレードとともに、さまざまなイベントを街中で催すことについて、柳谷さんはこのように意義を語ります。

「仮に札幌ドームなどで開催するなら、このイベントを目的に訪れる人しか参加しないでしょう。でも、南一条通や大通公園など不特定多数の人が行き交う街中でイベントを開催することで、プライドパレードのこともLGBTQのこともよくわからないという方も気軽に立ち寄るきっかけになります。その結果、理解者や支援者が増えることにつながっています」

社会運動の場であるとともに、セクシャルマイノリティの当事者にとっては仲間と知り合ったり再会したりする場でもあり、行政や企業、学校など多種多様な立場の人たちにとっては理解増進や応援をする場でもあります。

参加者からは「ありのままの自分でいられる場所を見つけられた」「勇気をもらえた」といった声が寄せられ、企業などからは「従業員の多様性を尊重する意識が高まった」といった連絡も届くようです。これらの声が、柳谷さんの活動の大きな原動力となっています。

多種多様な人たちが支え、参加をする

2025年に札幌で開催されるプライドパレードは、「さっぽろレインボープライド2025」と称して9月13日(土)と14日(日)に南一条通で開催。パレードは14日の午後に大通公園周辺や札幌駅前通などを通ります。

パレードへの参加は、LGBTQの方に限らずどなたでも可能。一年に一度のこの日のこの時を目指して、国内外からセクシャルマイノリティの当事者が集うとともに、友達同士や家族連れなどで参加をする一般市民、企業の方々や学校の先生や生徒のみなさん、各種LGBTQ支援団体の方々など、多種多様な人たちが集まります。

パレードは例年約1,000人で街中を練り歩きますが、沿道で見学をしたり応援をしたりする人の数は倍以上。ステージやブースがある会場にはそれ以上の人たちが訪れます。また、パレードはオータムフェストで賑わう大通公園沿いの道路を通るため、プライドパレードに参加をしていないより多くの人たちにも声を届けることができます。

柳谷さんをはじめ実行委員会のメンバーとともに運営を支えているボランティアスタッフも、LGBTQとは限らず16歳以上ならどなたでも携われます。毎年参加をしてリーダーとしてスタッフをまとめるベテランの方もいれば、高校生や大学生のグループで参加をする方、遠方から北海道旅行を兼ねて参加をする方など、さまざまな方がプライドパレードを支えています。

関わり方も関わる方も多種多様ですが、目的はLGBTQの法的権利を求めるとともに祝福をするため。その結果、世代や国籍、セクシュアリティの違いを超えた交流も生まれています。

セクシャルマイノリティの当事者の中には、自分のセクシュアリティを周囲の人たちに明かしていない人も多いです。多種多様な人がいると身バレしそう(自分がセクシャルマイノリティであることがバレること)で怖いという声があるいっぽう、当事者以外の理解者や支援者が多数いる環境だから安心、当事者ということを隠して理解者のフリをして参加しやすいという声もあります。

悩む人が自分らしく前向きになれる場を増やしたい

柳谷さんは、さっぽろレインボープライド実行委員会をより安定的な運営体制にしていくとともに、パレードだけでなくLGBTQの啓発や情報発信など、より多岐にわたる活動を強化していきたいと考えています。

その根底の想いは、自分自身がかつていじめに遭うなど辛い境遇からLGBTQのコミュニティに救われた経験があるからこそ、同じように悩む人たちが少しでも自分らしく前向きになれる居場所や機会を提供したいという気持ちです。セクシャルマイノリティの当事者のために、理解や支援をする人たちを増やしていくために、これからもさっぽろレインボープライドを開催し続けます。

今回の記事を取材・執筆したライターの川島さん(右)と。
川島さんもトランスジェンダーとしてレインボープライドに関わる仲間です
柳谷 由美

札幌レインボープライド実行委員会

柳谷 由美

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