工房アルティスタは、「テレビ父さん」や「ジンギスカンのジンくん」など、北海道にちなんだキャラクターの企画制作、グッズ製造・販売を行っている会社です。ユニークなキャラクターのグッズたちは、全国にファンを持つほどの人気ぶり。ジンギスカンのジンくんは、札幌市のサッポロスマイルPR大使、北海道遺産ジンギスカン応援隊隊員としても活躍しています。
なぜ、アルティスタのキャラクターはこんなに愛され、支持され続けているのでしょうか。代表の永谷久也さん、広報担当のがらさんに、会社の歴史も含めてお話を伺いました。
グッズを自社で製造、販売。キャラクターが近所をお散歩することも
さっぽろテレビ塔から歩いて5分、創成イーストエリアのビル1階に、工房アルティスタがあります。
2024年1月27日に「工房アルティスタ 購買部」が同じ場所でリニューアルオープン。Tシャツや缶バッジ、ストラップなどの魅力的なキャラクターグッズがいっぱいのショップが帰ってきました。
アルティスタのモットーはできるだけ自分たちでつくれるグッズを製造・販売すること。作家さんの世界観を大切にしながら、企画段階のグッズをすぐに試作して検討できて、ひとつの商品につき50~100個ほどの少量生産で多種類を販売できるのがメリットだといいます。
「ここに陳列されていないグッズでも、少しお待ちいただければつくることができます。まだ温かい『できたてホヤホヤ』のTシャツをお渡しすることもありますよ」と、広報担当のがらさんがにこやかに教えてくれました。
実は昨年から移転も含めて検討していたといいますが、やはり元の場所に留まってリニューアルすることにしたのだといいます。その理由を伺うと、
「製作部と販売場所が近くキャラクターも自由に遊べるスペースが必要だったんです。また、委託販売をしているさっぽろテレビ塔にもすぐに商品を届けられるように…と考えるとやはりいまの場所が良かったんですね。そのため場所を変えずにリニューアルすることに決めました」と、がらさん。
がらさんによると、キャラクターが工房の近所をお散歩することもあるのだとか。テレビ塔はもちろん、観光名所である二条市場に出没することもあり、幸運にも出会えたみなさんはうれしそうにスマホで撮影をしているそうです。
キャラクター第1号、二世代にわたって愛されるテレビ父さん
全国的な知名度を持つ「テレビ父さん」は、20年以上前に生まれたアルティスタ第1号のキャラクター。長男、長女におじいちゃん、おばあちゃんもいる6人家族で、なんと、札幌市の中央区役所から特別住民票も発行されています。テレビ父さんは、どのようにして誕生したのでしょうか。代表の永谷さんに、当時のことを話していただきました。
「起業したばかりのころに、イラストレーターと組んで、オリジナルのTシャツやポストカードなどをつくりお土産物屋さんに営業して回っていたんですよね。すると、さっぽろテレビ塔の担当の方から『テレビ塔を描いたものなら販売できる』と言われたんですよ。既に公式キャラクターがいましたが、非公式キャラクターという扱いでイラストレーターに描いてもらい、グッズを置いてもらいました。それがちょうど、ゆるキャラブームの到来と重なって、自分でも想像しなかったほどの人気者になりましたね」
テレビ塔の売店スタッフさんからは、お客さんの反応も教えてもらっています。「修学旅行のときにグッズを買いました。夫や子どもとまたテレビ父さんに会えてうれしい!」「お土産でグッズを買って以来、家族でファンです」といった数々の言葉に、会社とキャラクターが札幌に根付いてきたことの重みと喜びを感じているそうです。
クリエイターへのチャンスを提供、公募型クリスマスカード展
もうひとつ、テレビ父さんの誕生と同じころに、永谷さんが仕掛けたイベントがあります。それは、大通公園の「ミュンヘン・クリスマス市」で行われる「クリスマスカードコレクション」。プロ・アマ問わず、クリスマスをテーマにしたイラストやデザインを公募し、ポストカードにして展示・販売するもので、こちらも20年以上行われている催しです。1枚売れるごとに10円が作者に支払われるほか、売り上げトップの人には賞金もあります。
展示された数々のカードを楽しく鑑賞しながら、好きなものを購入できる。このポストカード展のイベントは、永谷さんが会社を立ち上げるきっかけにもなりました。
函館から札幌の大学に進み、アルバイト先の書店にそのまま就職。昇進して店長を務めていた永谷さんは、仕入れた本を同じ価格で販売するという仕事に物足りなさを感じるようになります。そこで、デザイナーさんのポストカード展を独自に企画し、店内で開催してみました。すると、これがかなりの売れ行きに。「自分が発掘してきた作家さんのポストカードが、お客さんに喜んでもらって、数多く売れたことがうれしかったんですよね。それで『これを仕事にしよう!』と、35歳で勤めていた書店を辞めました」
いまでは恒例となった「クリスマスカードコレクション」では、毎回、数百人もの応募があるそうです。応募条件はたったひとつ、北海道在住であること。ちなみに、テレビ父さんに続く第2号のキャラクター「ヒジカタ君」は、このときに出会った作家の「まうのすけ」さんが描いたものだそうです。
インターネットで手軽にイラストやグッズを売り買いできるようになった現在と違って、当時、イラストレーターを志望する北海道の人たちにとって、このクリスマスカード展はクリエイターへの一歩を踏み出す場所となっていました。これをきっかけに、アルティスタには作品の持ち込みが増えてきます。現在、人気ナンバーワンのキャラクター「ジンギスカンのジンくん」は、北海道出身のイラスト作家、「はしあさこ」さんが生み出したキャラクター。ジンくんは国内各地のイベントに引っ張りだこで、お友だちのギスくん、カンくん、またぎのもみじちゃんとともに、札幌市のサッポロスマイルPR大使としても活躍しています。
キャラクターたちが全国に飛び出してファンが拡大!
アルティスタでは、お土産グッズの製作から事業が始まったこともあって、「お客さんが北海道に来て、手に取ってグッズを買ってもらう」ことが基本的な考えでした。しかし、観光客の数は季節によって変わるため、キャラクターが国内のイベントなどに「出張」する活動を始めます。
皮切りは、SNSで人気が急上昇した「ジンギスカンのジンくん」が、全国のロフトを回るというツアーでした。過去にバンド活動をしていた永谷さんが、「音楽バンドが曲を持って全国ツアーを行うように」、キャラクターがグッズを持って国内を巡ることを思いついたそうです。
この企画は大成功!ジンくんが登場すると会場はごった返し、全国からファンが北海道まで会いに来てくれるようになったといいます。やがて、ほかのキャラクターたちも道内・道外のイベントに出掛けて活躍するように。それぞれのキャラ推しや、アルティスタのファンがどんどん増えていきました。
そんななか、2020年にコロナ渦が起こります。観光やイベントが次々と中止になり、キャラクターのお出かけも難しくなりました。危機を感じたアルティスタは、キャラクターやグッズのSNS発信やライブ配信に注力します。「作家さんもいるし、生産を止めるわけにもいかない。とにかく、いま、自分たちがやっていることを伝えようと、ネットによる発信を始めたんです」
毎日、SNS発信やライブ配信を続けるうちに、キャラクターやアルティスタのファン層が拡大します。少し前からオンラインストア「電脳購買部」を立ち上げていたことも功を奏しました。観光客が戻ってきた現在では、「観光に来て、初めてキャラクターやグッズを知り、手に取るお客さん」と「SNSやマンガ、アニメ、ライブ配信を楽しみながら、オンラインストアで推しのキャラグッズを購入する全国のファン」と、2通りの客層ができたそうです。
「このところは、毎週のようにジンくんはイベントに出掛けているんですよ」と、キャラクターのアテンドも務めるがらさんはうれしい悲鳴を上げます。「ジンくんたちと日本中を回っていますが、それでも行っていない場所はまだまだあります。台湾のイベントでも『ジンくんは遊びに来ないの?』と言われているようですし…。ぜひジンくんへのお声掛けをお待ちしています!」と話してくれました。
札幌で生まれ育った会社として、魅力をアピールし続けたい
明るくてフレンドリーながらさんは、札幌出身のUターン組。アルティスタに来る前は、関東でキャラクター関係や接客の仕事をしていたそうです。札幌に戻ったときに「ジンギスカンのジンくんが好きで」バイトとして入社したそう。いつの間にか「考えてもいなかった」広報担当として、大勢のお客さんやファンを相手にPRに努めています。
北海道外に常設店舗を置いたり委託販売するなどの展開はしないのですか?と聞いたところ、このように答えてくれました。「うちの商品は単なるお土産やキャラクターグッズではなくて、作家さんの想いを形にしたものだと思っています。だから大量生産をするのではなく、基本的に『自分たちでつくって、手の届くところで売る』という考えなんですよ。お店を製造と同じスペースに併設しているのもそうです。店頭でリクエストがあれば、無いものはすぐつくれますし、『この商品にはこんなこだわりがあるんですよ』とか『この商品が好きだったら、こんなキャラクターもいますよ』といったふうに、ただ売るのではなく、お客さんとコミュニケーションを取ることを大切にしています」
さらに、がらさんは、これからも札幌を拠点にしていきたいと語ります。
「私は札幌の生まれ育ちですが、アルティスタも札幌で生まれて、この土地で成長させてもらった会社です。ジンくんやその友だちが、札幌市からサッポロスマイルPR大使に任命していただいたのも、ずっと札幌で続けてきたからこそと思っています。そして、もうひとつ大切にしているのは、うちが、札幌や北海道ゆかりの作家さんたちと出会って、タッグを組むことで育ってきた会社ということ。いまは北海道在住ではない作家さんもいますけれど、何かの折にこちらまで来てもらって楽しく打ち合わせをしています。実は、札幌で一緒に話すということが大切で、お互いに理解できたり、共有できたりするものがあるんですね。これは、ものづくりの上で、とても影響が大きいと思っています」
キャラクター作家さん、お客さん、そして札幌、北海道という土地を大切にしながら、愛されるキャラクターやグッズをつくり出していく工房アルティスタ。がらさんに今後の目標を聞いてみました。「国内各地にキャラクターを連れて行って、いっそうみなさんに親しまれるようになってほしいですね。そして、ぜひ北海道に、キャラクターに会いに来てほしいと思っています。将来は、ジンくんが大きくプリントされたジャンボジェット機が大空を飛ぶようになることが夢ですね!」
イベントやオンラインストアでグッズを購入したお客さんが「次は北海道に行くね!」と言ってくれるのがとてもうれしいと語るがらさん。札幌の小さな工房から次々と生まれるキャラクターやグッズたちが、今日も札幌、北海道の魅力アピールに出掛けていきます!