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札幌と東京の二拠点で活動中!旅する美容家が描く未来。

2025.10.6

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「旅する美容家」として、札幌と東京の二拠点で活動する熊谷早織さん。実は、心理学の仕事から美容の道へ進んだ珍しい経歴の持ち主です。さらに、大の旅好きで40ヵ国70都市を旅行した経験もあります。そんな熊谷さんに美容家になるまでの道のりを始め、札幌ではまだ珍しいメンズメイクを始めることになったきっかけや、これからについて伺いました。

心理学から美容へ。きっかけはある出会いから。

熊谷さんの旅行好きは、子どもの頃からだったそう。父親の仕事の関係で海外旅行に連れて行ってもらう機会が多く、初めて海外に行ったのは小学生の時だったと言います。

「行き先はオーストラリアで、小学3年生くらいの時でした。コアラを抱っこしたり、カンガルーに餌をあげたりしたのを覚えています。街並みや空気なども日本とは全然違うなと小学生ながらに感じていたので、その頃から自分の価値観に『旅行で知らないことを経験するのが楽しい』ということが、根付いてきていたのかもしれません」

▲こちらが、「旅する美容家」の熊谷早織さん。

その後両親から留学を勧められたこともありましたが、その頃は海外に住むことに興味が持てず、そのまま日本の大学に進学しました。進学したのは心理学系の大学で、犯罪心理学を専攻。その中でも非行心理学を学びました。

この分野に進んだのは「幼少期に凶悪事件のニュースを見て、なぜこんなことをするんだろう?と疑問に思ったのがきっかけ」だという熊谷さん。大学卒業後は犯罪心理学を活かした仕事に就きたいと思いつつ、葛藤もあったと話します。

「非行少年と関わる仕事をするためには、警察署や少年院に勤務する公務員になる必要があります。でも、公務員になると、自由に旅行できなくなるなと思ったんです。それでも、犯罪心理学に関わる仕事はしたかったので、20歳で東京に出て、家庭裁判所がやっている非行少年たちの家庭教師のような仕事をしながらアルバイトをするという、フリーター生活を始めました」

▲「美容についての共有会は欠かしません」と語る熊谷さん。

非行少年と関わる仕事にやりがいを感じながらも、自由でいたい気持ちも強かったという熊谷さん。それから7年ほどフリーターとして働き、27歳のときに運命を変える人との出会いがあります。

「大学の友人の紹介で、とある女性美容家の方にお会いしました。国内だけでなく海外にも拠点を置いて活躍している方で、お話をしていくうちに仕事に対する考え方がガラリと変わりました。フットワークが軽い方だったので、海外を飛び回っている姿を間近で見て、『海外って意外に近いんだ』と感じ、女性でもこういう生き方をしていいんだと思わせてくれたんです。当時はまだ、女性は出産したら家庭に入るという考えが主流だった中で、自分主体で生きている姿にとても憧れて、こんな働き方してみたいなって思ったんですよね。」

この出会いが、熊谷さんの人生の方向性を決めることになります。その美容家の弟子となり、仕事を教えてもらいながら、美容スクールに通うことになったのです。

▲美容を通じてたくさんの仲間たちと出逢いました。

美容も人を前向きにする手段のひとつ。

美容の世界に足を踏み入れた熊谷さんですが、もともと美容の仕事には全く興味がなかったと言います。

「私は『人の気持ちを前向きにできるような仕事がしたい』という気持ちをずっと持っていました。犯罪心理学を学んだのも同じ理由で、ニュースの中の少年も相談できる人がいたら犯罪は起こらなかったかもしれないと考えてしまって。非行に走ってしまう子の原因が家庭にあっても、親だって育児や仕事のストレスを抱えていることが多い。そんなときに、精神科や心療内科に相談するのはハードルが高いんじゃないかな…と思い、身近に相談できて、人生を前向きに変えられる場所を作れたらいいなと思っていたんですよね」

そして、ニコリと笑い「実は美容と健康は、心理学とつながっているんですよ」とひとこと。

「例えば、肌荒れがあると人に会いたくなくなるけれど、美容室に行った後はお出かけしたくなったりしますよね。女性だったら、メイクがうまくいった日はちょっと気分が上がったり…周りから見たらささいなことですけど、本人にとっては結構大きな変化だったりするんです。ということは、美容も生活の中で気持ちを前向きにできる手段のひとつだなと気付いて。美容で心を前向きにできる『総合サロン』のようなものを作れたら最高だろうなと思いました。それに、私自身も女性なので、多分ずっと美容とは縁があるだろうし、興味がなくても学んで損はないだろうと思ったんです」

こうして、美容家の元で化粧品のプロモーションイベントやショーなどの仕事を経験しながら、学校にも通い美容の知識を身に付けていった熊谷さん。学校を卒業すると、独立し仕事を始めます。

「師匠である美容家の先生が、私が独立できるようにしっかり教えてくれていたので、半年ほどで生活できるぐらいの収入を得られるようになりました。だけど、仕事が軌道に乗ってからも、その美容家の先生に連絡をしていろいろ教えてもらっていましたね。美容に対するグローバルな考え方やトレンドの読み方など、先見の明がある方なので会って話を聞きたくなるんです。それは今も変わりません」

▲香港に旅をしていた時の一枚。

離れてみて分かった、北海道の良さ。

独立後、生活拠点は東京に置きながらも、美容家としての活動を東京と北海道の2拠点にします。一度は東京へ出たものの、再び北海道に戻ってきた理由についてこう語りました。

「独立し、自分で自由に働けるようになったのもありますが、いつかは札幌に帰りたいという気持ちがずっとあったんです。それに、東京に行ったからこそ、あらためて北海道の魅力に気付けたこともあります。例えば、梅雨がないとか、朝食に家で漬けたイクラを食べるとか(笑)。こっちにいたら当たり前のことが、東京では当たり前じゃないんだって。それに、出身地を聞かれて札幌と答えると、みんなうらやましそうに『いいね!』と言ってくれて、自分がとても特別な場所にいたんだなと気づいたんです」

北海道の良さをもっとみんなに知ってもらいたい。そう考えた熊谷さんは、美容の仕事と並行し北海道をPRする会社を立ち上げます。東京の人に北海道の魅力を伝えるためのさまざまなイベントを開催するなどし、大盛況だったそうです。

しかし、一方で美容の仕事は札幌と東京の2拠点での活動が始まってからも、仕事量の比率は東京の方が多いまま。熊谷さんは、まるで「出稼ぎ」のように東京の仕事をしながら、少しずつ札幌での仕事を増やすために奔走しました。

「売上を増やしたいサロンのブランディングや、施術メニューなどを提案するコンサルの仕事をするようになりました。自分の技術を生かして開業したものの、どうやってPRしてよいか分からない人って意外と多いんですよね。地域の特性に合わせて、データなどを参考にしながらお店を知ってもらうためのヒントやアドバイスしていました」

▲美容業界のコンサルティングもおこなう熊谷さん。

札幌での仕事も増え始めたことで、熊谷さんの心の中で次に浮かんだのは「海外への移住」でした。その時すでに40カ国70都市まわっており、海外での生活もしてみたい…と思っていたそうです。札幌と東京に活動拠点を残し、生活拠点の候補に挙がっていたのは、ヨーロッパのマルタ共和国でした。イタリアの南に浮かぶ美しい小さな島国です。

「私はヨーロッパが大好きで、中でもマルタ共和国は海がとてもきれいなんです。治安もとても良いですし、EU加盟国なので拠点を置けばヨーロッパ全体が商業圏になると考えていたんです。移住に向けて物件の下見まで済んでいたのですが、タイミング悪くコロナになってしまって…。いったん考え直すために、そのときは諦めることにしました」

海外への移住を一度白紙に戻した熊谷さん。その後、沖縄に美容をコンセプトにしたゲストハウスを作ったり、オンラインコンサルを始めたりと、コロナ禍で動きにくい中でもさまざまな仕事を続けます。そして、コロナ禍が終息に向かい始めた2022年には、ついに札幌と東京の仕事の比率が逆転。コロナによってオンラインが普及したことにも後押しされて、生活の拠点を札幌に置くことに決めました。

▲「旅は自分の価値観を変えてくれる」と語る熊谷さん。旅は自分自身と向き合い、新たな視野を広げる機会。異なる文化や人々と出会うことで、価値観が揺れ動き、新たな発見と学びが生まれます。熊谷さんの言葉には、旅の魅力と、その経験がもたらす深い影響が込められていました。

東京でメンズ向けビューティーサロンをオープン!

熊谷さんの美容家の活動として、コンサル以外で特筆すべきは男性へのメイク。実はメンズメイクを始めたのは5年前からだと言うことで、まずはなぜこのタイミングでメンズメイクを始めようと思ったのかを伺いました。

「2020年ころから『メイクに興味がある男性が多くなるんじゃないか』と感じることが多かったんですよね。メンズ向けのコスメブランドも増えてきてましたし、ニーズがあるんじゃないかと思いました。そこで、試しにメイクをしてマッチングアプリ用の写真を撮るという男性向けのサービスを作ってみたら、申し込んでくれた人がかなりいたんです」

これはメンズメイクがトレンドになると予想し、いち早く仕事として始めた熊谷さん。東京の六本木にメンズ向けのトータルビューティーサロンをオープンさせ、さまざまな男性にスキンケアやメイクを施します。

▲東京ではメンズメイクを日常的におこなう人も多いそう。

「デートやパーティーの前のお客さまもいますが、日常的にやってみたいというお客さまも多いです。『ずっと興味はあったんだけど、どうしたらいいかわからなくて』という男性が多いので、興味はあるけれどやり方が分からない人が結構いるんだなと感じますね。しっかりメイクよりも、ちょっと血色感を良くしたり眉毛を整えたりするだけのナチュラルメイクを希望されるお客さまが多いですね」

メンズメイクのコツも合わせて聞くと、BBクリームなどで肌を整えてあげるだけでも十分だそうで、もしアイメイクする場合は、ラメやパール感のないものや、色味を抑えたものを使い、やり過ぎないのも大切なポイントだと教えてくれました。

さらに熊谷さんは、男性にスキンケアやメイクをする楽しさをこう語ります。

「メイクした人から、おかげで彼女ができましたとか、結婚しましたという報告をもらうこともあるんです。それがまず嬉しいですよね。あと女性は自分で情報をキャッチしながら、いろいろなメイクを試してみる人が多いですが、男性は自分に合う施術の方法を教えてもらうと、そのメイクをずっと続けるという違いも、面白いなと思います」

メンズメイクを体験したお客さんの中には、自分で化粧品を買ってメイクを続ける人も多いそう。そうやって自分でメイクするようになると「変わるのは見た目だけではない」とも熊谷さんは話します。

「女性と同じように、男性もメイクによって気持ちが前向きになります。自己肯定感が上がって自分に自信が持てるようになるので、仕事や恋愛にも良い影響を与えるんです。ちゃんとやると自分に返ってくるので、美容ってやっぱりすごいなと思います」

基本は札幌拠点。それが私のベストなバランス。

札幌では、まだ東京ほど美容に関心を持つ男性の数は多くありません。でも、いずれは、札幌でもメンズメイクが流行ると熊谷さんは確信しています。

「例えば、最近東京では黒やシルバーなどの派手なネイルを楽しむ男性が増えていますが、札幌ではあまり見かけません。でも、東京で流行ったことが2年ぐらい経つと札幌でも流行り始めるので、確実に『来る』と思っています。そうなったら、六本木にあるサロンのようなものを札幌にも作りたいです。札幌で『メンズ美容といえば熊谷早織!』という感じになれたらいいなと(笑)」

そのために、「今は、札幌の男性たちがどうしたら美容に意識を向けてくれるかをリサーチ中」と語る熊谷さん。

「ほかにも、インバウンドと美容を結びつけて、セラピストさんたちが稼げるプラットフォームも今年スタートしました。実力のあるエステシャンやセラピストがなかなか思うように売上をあげられていない状況を変えて、今後もっとたくさんの人たちのサポートをしていきたいと思っています」

一時は海外への移住も考えていた熊谷さんに、今後は、どこを拠点に仕事をしていこうと思っているのか聞いてみました。

「札幌から完全に離れるつもりはありません。今のバランスが自分にはちょうどいいんです。札幌だけだと、居心地が良すぎて甘えてしまうので、ときどき東京に行って刺激をもらい、帰ってくるのがいいんじゃないかと思っています。それに、海外に行きたいという気持ちも、まだ捨て切れていません。移住になるのか、短期留学のような感じになるのか分かりませんが、いつかは行きたいと思っています」

グローバルな視野を持つ熊谷さんにとって、札幌はどんな場所なのでしょうか。札幌の魅力を尋ねると、熊谷さんはこう答えてくれました。

「札幌って、観光地としてはそんなに見どころが多いわけではないかもしれません。でも、食べ物がすごく美味しいですし、四季がはっきりしているのが魅力ですね。昔はスノーボードをやっていたので、雪が降ると嬉しかったんですけど、大人になるとちょっと面倒に感じることもあります(笑)。それでも、雪がしっかり降り積もるのに、200万人も住んでいる都市って世界中探してもなかなかないですし、少し足を延ばせば山や海があるという『ほどよい都会感』もいいと思います。強いて言えば、空港がもうちょっと札幌の近くにあったら嬉しいかな(笑)」

心理学から美容の世界へという異色の経歴だけでなく、一人の人物との出会いによって大きく人生が変わったお話に驚かされることの多いインタビューでした。「美容と健康は一番利回りの良い自分への投資のようなもの」と話していた熊谷さん。世界を視野に入れながら、今後も札幌を拠点に活躍してくれることを期待しています。

熊谷 早織さん

旅する美容家
IBA国際美容事業協会認定 ソーシャルエイジングエキスパート

熊谷 早織さん

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