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併設のおむすび店でファンが増加中!老舗「鮭乃丸亀」のこれから

2024.10.24

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「鮭乃丸亀(さけのまるかめ)」は、厳選した北海道産の鮭を丁寧に下処理して、鮭本来の旨みをしっかりと引き出した「極薄塩仕立て」や、名物の「さしみ鮭」で知られる札幌の老舗鮭加工・販売店です。昭和初期に創業、北海道神宮に近い円山(まるやま)エリアに本店を構えており、「鮭といえば丸亀さん」というファンがいる一方で、高級鮭ブランドで敷居が高いと思われることもありました。

そんな丸亀が、このところ変わりつつあります。2022年に始めたおむすびキッチンカーが話題となり、同年秋には店舗敷地内に「おむすびLAB 亀太郎」がオープン。これを機に、本店を訪れる人も増えました。「切り身が皮まで美味しくて感動!」「思ったよりいろんな商品がある」「お酒の種類が豊富」といった口コミで、さらに新たなファンが広がっています。

北海道には多くの鮭の加工・販売会社がありますが、そのなかでも札幌の丸亀はブランドとしての風格を持ち、主に本州で人気を集めてきました。しかし、これからは地元の札幌や北海道でも、さらに親しまれるお店を目指しているといいます。そこで、約90年の丸亀のたどった歩みと、新たな取り組みについて、3代目社長の若月裕之さん、そして店舗スタッフの伊藤朱里(あかり)さんにお話を伺いました。

新しいチャレンジでファンが増加中

株式会社丸亀は来年に創業90年を迎える老舗で、円山本店をはじめ、新千歳空港や札幌のデパートで自家製の鮭製品や海産物の加工品を販売しています。秋鮭(銀毛)やトキシラズなど、北海道沿岸で揚がる脂ののった上質な鮭を買い付け、その旨さを引き出すために独自の塩分バランスで仕上げた『薄塩仕立て』が特徴。贈り物としても人気があり、全国的に評価を受けています。

加工場を併設した円山本店は、北海道神宮や円山公園にほど近い閑静なエリアに位置しています。

話題の「おむすびLAB 亀太郎」は、店舗に向かって左奥にあります。以前から新千歳空港店で販売を行っていた鮭を使ったおむすびを、札幌の人たちにも気軽に楽しんでもらえるよう本店の敷地内にオープンしました。メニューには、秋鮭、ときしらず、筋子、いくら醤油漬け、たらこやわさび昆布など、鮭や季節の海産物を使ったおむすびが並びます。丸亀の鮭のほぐし身をまぶしたごはんで具材を包むスタイルなので、どこを食べても美味しい!注文を受けてから握ってくれるので、おむすびがホカホカなのもうれしいところ。テイクアウト専門店ですが、取材時は小さなテーブルといすがあり、出来たてのおむすびをその場で楽しんでいる方もいました。

豊富な鮭と海産物製品、銘酒のラインアップも

円山本店の店舗を正面から眺めてみると、伝統を感じさせる「丸亀」の看板、そして遠くからでも目を引く「鮭」と大きく書かれた垂れ幕が目に入ります。その隣には「秋鮭生筋子」というのぼり旗があり、鮭と筋子が躍動感のあるデザインで描かれていました。こののぼりを描いたのは、店舗スタッフの伊藤さんです。

「秋のお店のイベントとして、今日は『ほぐし生いくら』を販売しています。北海道では生の筋子を丸ごと1本で売っていることが多いのですが、この日はタレに漬けるだけのほぐしたいくらを100gからお売りして、お客さまから好評をいただいています」と伊藤さん。少量でも手軽に好みの味付けで、旬のいくらを楽しめるのはうれしいポイント。さらに、別売りのタレや、タレに漬け込んで食べ頃に店頭で渡してくれるサービスもあります。

店内には、鮭だけでなく、海産物を中心に多彩な商品が並んでいることに驚かされます。定番の人気商品「さしみ鮭」「スモークサーモンチップス」などの手づくり鮭製品はもちろん、タコ足やホタテの貝柱、いかめし、スルメ、各種魚の一夜干しなど、魚介の加工品がほぼ全てが揃うのではと思うほどのラインアップ。さらには、蔵元から取り寄せた地酒や焼酎なども数多く並んでいました。

売り場には、鮭の種類や料理方法、製品の魅力を紹介するPOPが添えられており、これも主に伊藤さんが手掛けているとのこと。ちなみに、伊藤さんは札幌大谷大学の芸術学部で日本画を専攻していたそうです。丸亀に入社した理由は、仕事内容にPOPやディスプレイ製作があったことのほかにも、大きな理由があるのだとか。そのあたりを詳しく伺ってみましょう。

丸亀で働く一員としての誇りを持って

昨年3月に入社した伊藤さんは、丸亀に転職してきてから毎日が充実していると話します。

店舗スタッフの伊藤朱里(あかり)さん

「肩書は店舗スタッフですが、小さな会社なので、いろいろな仕事を少しずつやらせてもらっています。会長や社長から直接指示を受けることもありますし、こちらから現場目線で提案や意見を伝えることもあります」

店舗で扱っている商品は数百種類になるそうですが、伊藤さんはこれらすべてを自分で食べてみることを目標としています。

「お客さまから、商品について『これはどうなの?』『どっちがいいの?』と質問されることが多いんです。だから、自分の言葉で商品の良さをしっかりとお伝えできるようになりたいと思っています」

ちなみに、新しく出す商品は社内で試食、お酒は試飲を行っているそうです。

伊藤さんは「鮭といえば丸亀さん」といわれるほど、根強いファンに支えられた丸亀の一員であることに誇りを持っています。その一方で、感じている悩みもあるとか。

「初めて来られたお客さまのなかには、『スーパーの鮭より高い』と敬遠される方もいらっしゃいます。そういった方々に、鮭乃丸亀の商品が価格に見合う価値を持っていることをどう伝えるのかが課題です。POPを含めた売り場づくりや接客でも意識していますし、丸亀のブランド力をいっそうアピールしていく必要性も感じています」

意見やアイデアをどんどん言える会社

丸亀の鮭が、もっと多くの人に愛されるようになってほしいと日々考えている伊藤さん。丸亀に来るまでは水産業や魚介類の仕事に携わった経験はなかったそうですが、以前のお仕事や転職した理由について伺ってみました。

伊藤さんの前職は大手の事務用販売店で、専門品コーナーを担当していたそうです。大学時代に学んだ知識を生かせる場面もありましたが、売り場で得た商品の要望やクレームなど、お客様の声をメーカーに伝えることしかできず、自分の意見が出せないことにジレンマを感じていました。「小売だけを扱う会社なので、仕方ない部分もあったと思いますが…」と伊藤さん。転職を考えたときに、お客さまの声や自分のアイデアをしっかりと取り入れてくれる会社を探しました。その結果、たどり着いたのが丸亀だったと話します。

「丸亀では仕入れから製造、販売までのすべてを一貫して行っているので、お客さまからの意見や要望、私の出したアイデアを社内で検討し、フィードバックを得られるところが大きな魅力だと思います」

お客さまと直接触れ合う最前線にいるからこそ、伊藤さんはその声をいち早くくみ取り、社内に届ける役割を果たしています。また、丸亀では最近、若手社員の採用にも力を入れるようになり、昨年からは新卒採用をスタート。今年の新入社員は、研修で丸亀の業務をひと通り経験した後、新千歳空港店に配属されました。製造部門でも若手人材の受け入れを積極的に考えているそうです。

「製造部門では、たとえ経験が浅くても、アイデアが採用されれば丸亀のブランドとして商品化されることもあり得ます。大きな会社よりも、ずっとスピーディーに商品として実現化できる。自分の考えがカタチになる可能性があるのは、丸亀の大きな強みだと思いますね」と、伊藤さんは楽しそうに話してくれました。

丸亀の歴史;薄塩仕立てが名シェフのお墨付きに

伊藤さんをはじめ、長年にわたり丸亀ブランドの誇りを大切にしている社員たち。北海道には多くの鮭を扱う企業がありますが、なぜ鮭乃丸亀はこれほどまでにブランドとして認められ、本州でも支持されているのでしょうか。若月社長に、まずは丸亀の歴史についてお話を伺いました。

株式会社丸亀、代表取締役社長の若月裕之さん

創業者は大正元年生まれ、秋田県出身の鵜沼亀太郎さん。若月社長の祖父に当たります。ちなみに、社名の丸亀は亀太郎さんの名前にちなんだもの。亀太郎さんが生まれ育った秋田では、北海道と同じように、川で取れる鮭は貴重な食料であり、自然からの大切な恵みとされていました。

農家の次男として生まれ育った亀太郎さんは、16歳で働き始め、その後北海道に渡り、函館や札幌で仕事に就きます。札幌では親戚が営む円山の青果店で働いていましたが、店をたたむことになり、独立を勧められました。そこで、塩や酒、たばこなど当時の専売品や、鮭などの魚の干物を扱うお店を構えたのが丸亀の始まりです。「現在の店舗は創業当時と同じ場所で変わっていません。私が生まれたのは1972年ですが、当時は店の2階が自宅で、子どものころは円山公園でよく遊んでいましたね」と、若月社長は懐かしそうに振り返ります。

戦時中の徴用を経た後、亀太郎さんは本格的に北海道産の鮭の加工・販売を手掛けるようになりました。当時、鮭といえば、塩を大量に使って長期保存を目的とした「しょっぱい」新巻鮭が一般的でしたが、丸亀では身の旨みを引き出すため、薄塩仕立ての鮭を開発します。あるとき、この丸亀の鮭がNHKの番組で紹介され、帝国ホテルの著名なシェフに絶賛されたことをきっかけに、「鮭乃丸亀」の名前は全国的に知られるようになりました。

さらに、若月社長の父親である2代目社長(現会長)は、刺身で食べられる「さしみ鮭」を開発します。極薄の塩で身を程よく引き締めたさしみ鮭は大ヒット、丸亀の看板商品になりました。このように初代、二代と続く代々の努力が実を結び、丸亀の鮭は、大手企業の贈答品としても多く使われるようになったのです。

伝統を守りながらも、時代のニーズを見極める

3代目である若月社長は、先代から受け継いだ伝統を大切にしながらも、時代に合わせて変えていったことがあります。例えば、これまで丸亀で扱っていたのは北海道産の秋鮭(白鮭)が、ほぼ100%を占めていましたが、現社長のもとで徐々に紅鮭の比率を高めています。これは、主に関西のお客さまのニーズにこたえた取り組みだとか。

「関西では、鮭といえば紅鮭が主流なんです。かつての北洋船団は、ロシア海域で紅鮭を取ってきて、昔の北前船のようなルートで関西に運んでいたという歴史があります。そうした背景を考慮し、関西のお客さまにご提案する際には、紅鮭は外せないと考えています」

さらに、紅鮭を扱うようになった理由として、世界的に紅鮭の価値が高まっていることや、近年の白鮭の不漁が続く中で、相対的に紅鮭の漁獲量が安定していることなど、さまざまな市場の動向があるといいます。消費者の好みも変化し、紅鮭の需要が高まっていることも追い風となっています。ただし、丸亀の主力商品はあくまで北海道産の秋鮭であり、その伝統はこれからも守り続けていく方針とか。その一方で、時代や消費者の嗜好に柔軟に対応し、より幅広いニーズに応えることも重要だと若月社長は考えています。

ほかにも、変化したことがあります。以前の組織運営は、品質やブランドを確かなものにするために、仕入れから販売に至るまで社長がすべてを決定するトップダウン形式でした。しかし、若月社長が会社の将来を考えたとき、ひとりに依存しない組織づくりの重要性を意識するようになり、少しずつ現場の社員に判断を任せるようにしているそうです。店舗スタッフの伊藤さんが話してくれたように、いまでは社員が意見を出しやすい風通しの良い職場となり、新卒社員の採用を積極的に行うなど、若い世代への期待も高まっています。

「私は50代になりますが、デジタルネイティブ世代の柔軟な発想は非常に価値があると考えています。たとえば、これまで新千歳空港店だけで販売していたおむすびを、円山本店を拠点としたキッチンカーで移動販売するという新たな試みは、若手社員の提案をきっかけに社内で検討、実現したものです」

また、丸亀は老舗ブランドとして知られていますが、それに甘んじることなく、よりいっそうの地域に愛されるお店づくりをしたいと話します。

「札幌でも『鮭乃丸亀』という名前は知られていますが、商品や私たちのこだわりを知っていただく機会は、実際のところ少なかったのが事実です。これからは、地元のみなさまにも『丸亀(まるかめ)』というブランドの中身を積極的に発信していきたいと考えています」

札幌に「あらためまして、こんにちは」

本州方面にお得意先を持つ丸亀ですが、一方で、若月社長は初代から長く会社や自分を育ててくれた、札幌というまちや人への感謝の思いがあるといいます。

「これからは、私や会社を育ててくれた地元である『札幌』のみなさまに、さらに親しみを持ってもらえるような存在になりたいと思っています。『あらためまして、こんにちは』という気持ちですね。おむすび店もその一環ですし、初代から受け継いできた伝統を守りながらも、変えられる部分は柔軟に変えていく。特に情報発信の面では、これまで弱かった点を強化するためにも、若い世代の力を積極的に借りていきたいと考えています」

子どものころから後継者としての自覚を持ち続けてきたという若月社長は、経営者としての視点を広げるべく、東京の立教大学で法学を学んだ後、京都にあるトップシェアの繊維系企業に就職しました。それから30代半ばで札幌に戻り丸亀に入社、その10年後に3代目社長に就任しています。道外で培った経験と視点を持ちながら、北海道というブランドに助けられているという実感とともに、いまは北海道ブランドの強みをさらに引き出していくことを若月社長は目指しています。

「うちは小さな会社ではありますが、商品のクオリティと北海道を愛する気持ちは常にトップを目指して、北海道というブランドをさらに向上させていきたい。それが、北海道に対しての私たちができる恩返しだと思っています」

経営者としての使命と責任を持ちながら、より多くの人に愛されるブランドを目指して進んでいく若月社長。その姿勢は、伊藤さんをはじめとした社員たちにも確実に共有されていると感じました。

若月裕之さん

株式会社 丸亀 代表取締役社長

若月裕之さん

伊藤朱里さん

株式会社 丸亀

伊藤朱里さん

北海道札幌市中央区北1条西27丁目3-16

TEL. 011-611-8331

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