あしたをつくる、ひと、しごと。

  1. トップ
  2. 地元のわくわくカンパニー
  3. こだわりの平飼い卵とスイーツで永光農園のブランドを確立したい

地元のわくわくカンパニー

こだわりの平飼い卵とスイーツで永光農園のブランドを確立したい

2024.8.5

share

明治に札幌農学校が開校し、北海道札幌市は北海道の農業の技術的発展を支えてきました。もちろん農地も多く、かつては農業を営む人たちもたくさんいました。急激な都市化に伴い、農地の宅地化が進み、農地面積は縮小していますが、新鮮なものを市民に供給できる都市型農業を強みに頑張っている法人や生産者さんたちもまだたくさんいます。

今回取材させていただいたのは、そんな法人のひとつ、北海道札幌市清田区有明にある「永光農園」。平飼い卵を生産している養鶏農家です。これまでの農園の歩みやこれからのことについて、代表を務める永光洋明さんに伺いました。

田園風景が広がる清田区有明にある平飼い卵の「永光農園」

羊ケ丘通りから国営滝野すずらん丘陵公園へ向かう通り沿い、豊かな自然がまだまだ残る有明エリアに「永光農園」があります。「COCCO」と描かれた黄色い看板が目印です。

鶏舎の手前に、同農園が運営する卵とスイーツの店「コッコテラス」があり、10時のオープンと同時に車で訪れるお客さんたちが次々とやってきます。隣には、先代が切り盛りする週末だけのそば屋「農園の四季」の建物もあります。

「最初は300羽からはじめて、今は3000羽ほどいるかな」と、鶏たちの世話の合間を縫って取材に応じてくれた永光洋明さん。同農園の鶏はすべて平飼いで、鶏舎内を鶏たちが自由に動き回っています。ケージ飼いに対して、手間も飼育コストもかかりますが、鶏本来の習性に合った飼育により、鶏たちはストレスも少なく健康的。

同農園ではエサにもこだわり、「北海道産のトウモロコシや米ぬか、魚粉、ホタテの貝殻など、自家配合した安全なエサを与えています。うちの鶏は、薬に頼らずとも丈夫なんですよ」と教えてくれました。

卵本来のおいしさを味わうのにおすすめな食べ方は「卵かけごはん」。割れば分かりますが、同農園の卵は殻がかため。黄身も白身もプルプルと弾力性があり、この時点で生命力の強さを感じます。健康な鶏たちがうんだ卵は、生臭さもなく、うまみやコクが強め。醤油はほんの少しで十分、むしろなくてもいいかもと思うくらいのおいしさです。

もともとは西岡で畑作を営んでいた農園。養鶏に転換した理由とは…

さて、永光さんで5代目という「永光農園」。この場所で養鶏業をはじめたのは1998年からなのだそう。

「先祖が開拓農民として北海道に入り、西岡のほうで畑をやっていました。私も育ったのは西岡です。昔はリンゴの果樹をやったり、牛や馬を飼ったりしていたときもありましたね。私の両親は、ホウレンソウなどいろいろな野菜を栽培していました」

学生時代は建築家になることを夢見ていたという永光さん。札幌の高校を卒業後、室蘭工業大学で建築を学びます。「ちょうど大学生のときに、阪神・淡路大震災があったり、オウム真理教の事件があったりして、現代社会に対して自分なりに疑問を持つようになっていました。会社に属して働くことに抵抗も感じていて、さらに自給自足の生活に憧れを抱くようになり、実家に戻ることにしました」と振り返ります。

当時の「永光農園」は、先代でもある父親が慣行栽培から減農薬や有機栽培に切り替え、消費者に直接野菜を販売する直売を行っていました。除草剤を使わずに40品目以上、多い時で80品目近い野菜を栽培し続けるのはなかなか難しく、しかも冬場はほとんど仕事がない状態だったそう。

「養鶏をやったらどうだと勧めてきたのは父親でした。野菜はいろいろな種類を皆さん食べたいじゃないですか。毎回レタスばかり、ホウレンソウばかりだと飽きてしまいますよね。そうなると栽培する野菜の種類を増やさなければならない。でも、卵って皆さん飽きないし、毎日食べる方もいますよね。野菜と違って冬も関係なく卵は出荷ができますしね」

大学4年のころ、父親から渡された「自然卵養鶏法」(著/中島正)という本も養鶏を始める後押しとなりました。

「自分たちの労力の範囲で飼育するとか、自然に沿った飼育方法などが書かれていたんですが、そのころ、自給自足に憧れていたのもあって、自分が生きていけるだけの糧があり、お金のかからない暮らしができるならそれもいいかなと。建築をやっていたので、鶏舎や物置くらいなら自分で作ることはできましたしね」

大学を卒業後、札幌に戻って養鶏をスタート。もともと所有していた有明の農地に鶏舎を建てて、鶏を飼い始めます。また、「自然卵養鶏法」の本に共感した全国の養鶏農家による「全国自然養鶏会」という団体にも参加。「今も毎年みんなで集まるんですが、同じような感覚や意識を持った仲間たちがたくさんいて、居心地がいいんですよね」と話します。ちなみに、道内だけで40近くの養鶏業者が参加しているそうです。

そば屋、シフォンケーキ、そして法人化。経営の難しさも経験

実際に自給自足に挑戦したものの、「思っていた以上に大変で断念しました…」と永光さん。当時は鶏の世話から卵の配達まで、養鶏のすべてを1人でやっていたため、休みのない状態が何年も続いていたそう。畑などほかのことを行う余裕はなかなかありませんでした。

「鶏は生き物なので、どうしても1人でやっていると休めなくて。休むためには人を雇わなければならないし、雇うためには規模を大きくしなければならない。それで、従業員を雇うようになりました。会社経営をするつもりは毛頭なかったのですが、どんどん人が増えていって、従業員のほうから会社にしたほうがいいんじゃないですかと言われ、2010年に法人化しました」

「永光農園」の看板商品の一つでもある農園の新鮮な卵を使ったシフォンケーキ、これは法人化する数年前から販売をはじめていたそう。

「2006年に父がそばの栽培をはじめ、十割そばを提供する農家のそば屋を有明の敷地内にオープンさせました。その際、レジの横に私が焼いたシフォンケーキを置いたのが始まりです」

当時は20㎝のホールでのみ販売をしていましたが、これが人気となります。たまたまそば屋のお客さんの中に商業施設のバイヤーがいて、催事で出店しないかと声をかけられ、初めて外で販売をすることに。これを機に菓子製造の免許も取得。評判が評判を呼び、次々と百貨店や施設の催事に呼ばれるようになります。

「最初は催事だけだったのですが、そのうちテナントを出しませんかという声もいただき、そのときはチャンスだと思って市内に5店舗のシフォンケーキ専門店を出しました。テレビなどでも取り上げてもらい、一時的に店にお客さんがどっと増え、それを実力と勘違いしてしまったんですね。テナント料も高く、だんだん運営が厳しくなり、本業の養鶏に集中できなくなりはじめてしまったため、思い切って撤退を決めました。経営の難しさを実感しました」

札幌と言えばコッコテラス。そう言われるように長く続けることが目標

こうした苦い経験を経て、あらためて「新鮮な卵で作ったものをその場で味わってもらえる場所を作ろう」と、2014年に農林水産省の6次産業化の補助金で「コッコテラス」をオープンします。自慢のシフォンケーキのほか、とれたて卵を使ったシュークリームやソフトクリームなどを製造販売し、卵の直売も行うように。カフェも併設し、パンケーキやパフェを提供しています。

「常に新しい動きを見せていかないとリピートしてくれるお客さまが飽きてしまうので、常に新メニューや季節を感じさせる限定メニューなどを用意し、話題性を打ち出すようにしています」

カタラーナやエッグタルト、パイなど、スイーツの種類も増えているほか、自社の特製マヨネーズも販売。そのマヨネーズと新鮮卵を使ったサンドイッチも店頭には並びます。これらの情報は永光さんが自らSNSで発信。マメに更新するようにしているそうです。

「平飼い卵もシフォンケーキも、父親のそば屋も、はじめた当初は参入障壁が低かったんですよね。でも、最近はどれも競合が増えているので、いかに差別化を図っていくかが課題。経営を安定させるためにも、うちならではのブランドを確立していかなければと思っています」

現在、養鶏場のJGAP認証を取りたいと考えている永光さん。GAPとは「良い農業の取り組み」の英語の頭文字を取ったもので、生産者が守るべき管理基準とその取り組みのことを指し、持続可能な農業のために生産者が取り組むことをまとめているとも言われます。JGAPは日本で作成された基準で、JGAP認証を取得すると、農場が決められた基準を満たしているという証になります。

永光さんいわく、「養鶏場で取得しているところはまだ少ないので、安全な卵を流通させたい販売業者やそんな卵を使いたい製造業者との取引がしやすくなると考えています」とのこと。

永光農園の強みの一つは、平飼い卵の養鶏と洋菓子の製造販売の両方を自社でやっているという点。そしてもう一つ、札幌という大きな商圏に生産拠点があることが挙げられます。「札幌でやれるのはメリットの一つだと感じています。札幌で農業をはじめたご先祖さまに感謝ですね」とニッコリ。

最近は「コッコテラス」にインバウンドの観光客も増えているそうで、「エンタメ的な要素をここに作れればと考えています」と永光さん。たとえば、農場の空いているところに写真映えするような花畑を作るなど構想はあるそう。

「あとは体験ものですかね。ここに来てスイーツを味わい、卵を買うだけでなく、何か体験できれば、わざわざここに来る楽しさや価値を感じてもらえるのではないかと考えています」と続けます。

従業員が増えても忙しさは変わらない様子の永光さん。鶏の世話をし、スイーツメニューを考えるほか、経営者としてもやらなければならないことや考えなければならないことは盛りだくさんです。

「とにかくコツコツ長く続けることが大事だと思うので、安全でおいしい卵やスイーツをこれからも真面目に提供し続けていきます。函館と言えばラッキーピエロと言われるように、札幌と言えばコッコテラスと言ってもらえるくらいになりたいですね」と最後に話してくれました。

永光 洋明さん

平飼い卵とスイーツ/株式会社永光農園

永光 洋明さん

北海道札幌市清田区有明216番地

TEL. 011-886-7204

ホームページ

facebook

X

Instagram

YouTube

キャラクター