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明日をつくる未来へのアクション

寒地土木研究所が推し進める景観の研究と地域づくりの研究

2023.10.31

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寒地土木研究所って知ってますか?札幌市豊平区平岸にあるこちらは、もともと北海道開発局の付属機関で、名前の通り、寒地土木技術に関する研究開発や技術指導、成果の普及などを行っています。

そちらで主任研究員を務める方から当社編集部に届いた一通のメール。

「私たちは地方小都市を対象に、景観やまちづくりを通じた魅力向上に関する研究に取り組んでいます」

寒地土木研究所って土木技術に関する研究機関ですよね?そちらが、なぜ地方都市の魅力向上の研究を?そもそも寒地土木研究所って何をしているところなんだろう?疑問は大きくなるばかり。ならばお話を聞きに行こう!ということで、早速取材に伺ってきました。

地域景観チームって何をしているの?

お話を伺ったのは寒地土木研究所、地域景観チーム主任研究員の岩田圭佑さん。素敵な笑顔で我々を迎えていただきました。岩田さんは北海道大学修士課程を修了後、熊本大学博士課程を修了。北海道にUターンし、平成25年からこちらで勤務されています。

地域景観チームでは、美しい景観を創出することによる公共空間の質の向上の研究や、公共インフラの観光利活用に関する研究を行っているそうです。

地域景観チーム主任研究員の岩田圭佑さん

「寒地土木研究所はもともと、北海道開発局土木試験所という名前でした。平成18年に独立行政法人となり、現在の寒地土木研究所になりました。名前の通り、寒冷地の土木技術に関する研究開発や技術指導などを行っています」

「シーニックバイウェイ北海道という言葉はご存じだと思います。シーニックバイウェイとは、景観・シーン(Scene)の形容詞シーニック(Scenic)と、わき道・より道を意味するバイウェイ(Byway)を組み合わせた言葉。地域に暮らす人が主体となり、企業や行政と手をつなぎ、美しい景観づくり、活力ある地域づくり、魅力ある観光空間づくりを行う取り組みです。こちらが始まったのが2003年。この頃から。景観をいかして公共事業やまちづくりに取り組もうという機運が高まっていました」

その一方で、公共事業の技術を『機能・安全性・美しさ』という3本柱で比べると、『美』を高める技術は不十分。今後はデザインの部分も技術開発をすすめていかなければならない、という考えから、景観についての研究が始まったそうです。

最初に研究が始まった頃は、現地調査や実験を通じて、道路の外観を評価することに取り組んでいたとのこと。実際に道路を走行すると、電柱や道路標識が散乱していることがよくあります。道路としての機能が最適に発揮されるように、標識などを配置すること。例えば、視覚的には道路標識が少ないほうが見た目がすっきりするかもしれませんが、それによって道路の安全性や理解しやすさが低下する可能性もあります。道路として最も適切な姿は何かについて、道路標識の配置方法から研究してきました。

「景観という観点に軸を置きながら、それを良くするための様々な技術的な検討をしているのが地域景観チームなんです」と岩田さんは説明してくれました。

道路標識の立て方や看板の位置なども、技術的な面を検討しながら、コストや景観についても考えつつ施工の現場に提案。そういったものの積み重ねから徐々に、道路の更新工事の際に新しい設置方法が採用されるようになってきたとのこと。

「道路標識や看板には、材質、安全性、コスト、耐久性など、検討すべき要素が非常に多いと思うんですが、こういった研究は凄く大変じゃないですか?」と率直な質問を投げかけてみました。

「そうですね。考慮すべき要素が多岐にわたります。地域によっては、その地域の歴史や文化も考慮する必要があります」と岩田さん。ただ美しいだけではいけない。その地域やその文化に合った姿で無ければならない。その上で充分な機能を持ち合わせていなければならない。

なるほど、一口に景観といっても奥深いんですね!

その地域のシンボルになる!ラウンドアバウトって何?

続いてお話を伺ったのは研究員の増澤諭香さん。ご出身は札幌で新潟大学に進学。「もともと気象学に興味があって、雪の災害関係の研究をしたいと思っていました」とのことで、大学では吹雪について研究されていたそうです。

「こちらに入社する際、雪氷チームが第一希望であり、地域景観チームは旅行などにも少し興味があったので、何となく第二希望にしました。景観については全くの無知から始め、最初は不安が大きかったのですが、現在ではラウンドアバウトに焦点を当てて研究しています」

令和元年に新卒入社された増澤諭香さん。

ラウンドアバウト?聞きなれない単語が出てきました。

ラウンドアバウトは2022年時点で全国に140カ所、北海道では浜頓別町・上ノ国町・北広島市の3カ所に設置されているとのことですが?

「ラウンドアバウトとは円形交差点のことです。時計回りの車道(環道)と、中央の車両が通行しない部分(中央島)で構成されています。通常、円形の交差点と聞くと、ロータリーを想像することが一般的かもしれませんが、環道に入る車が優先されるものをロータリー、一方で環道内を走る車の通行が優先されるものをラウンドアバウトと明確に区別されています」

(※一部地域には独自の交通ルールがある場合もあります)

「ラウンドアバウトは一方通行なので、車同士の衝突事故の可能性が減少します。また信号が必要ないので停電時も使用することができるんです」と増澤さんは説明します。

ラウンドアバウトはコスト削減と安全性の確保の観点からも、注目されているとのこと。ただし、安全な運用を確保するためには、視覚的な景観の向上や、運転者の視線挙動や交通の円滑さに関する研究と実験も不可欠です。増澤さんは、これらの問題に取り組む一環として、中央島にマウンドや植栽などの要素を導入し、運転者の視界や道路の利便性についても調査しているそうです。

増澤さんは更に、「ラウンドアバウトは、作り方によって地域のシンボルやランドマークになる可能性があるんです」と語ります。

確かに円形の交差点はインパクトありますね。低木を植えたり石畳を配置したり、景観に配慮することで地域に馴染み、他の観光施設などと一緒になって地域に賑わいをもたらす。ラウンドアバウトには、そういった可能性があるようです。

「しかし、現在ラウンドアバウトには、中央島の設計についてまだ詳細な規定が無いんです。更に研究を進めていきながら、研究成果をもとにあるべき形を提案していきたいですね」

この先安全性と景観が両立した、その地域の象徴となるようなラウンドアバウトが生まれるかも知れませんね。増澤さんの今後の研究に期待です!

研究しやすい職場づくりのために

「景観には、狭い意味と広い意味の二つあります。狭い意味は道路や標識などの景色、広い意味では観光等の地域づくりの視点です」

上席研究員で管理職でもある福島宏文さんにも、お話を伺いました。福島さんは平成14年から寒地土木研究所で勤務。一時は研究分野から離れ、組織や研究の評価をするような部署で勤務されたこともありましたが、昨年4月からまた景観チームの研究職に戻られました。

地域景観チーム上席研究員の福島宏文さん

「道の駅などの観光拠点が点だとしたら、道路は線。点と線が繋がると面になり、観光への効果が期待できます。地域景観チームは、見た目の景観だけでなく地域振興も考えています。バブル期はどんどんお金をかけて、景観を向上させてきましたが、現在ではそういう時代でもない。私たちみんなが普段から景観のことを考え、ちょっと工夫することで良くなっていくんです。これをもっと伝えたいですね」

道路を綺麗にするだけじゃなく、観光施設を整えるだけじゃなく、それらを効果的に繋いで、広い視点で魅力を作り上げていくこと。そういった考え方が必要なんですね。

「バブル期は、どんどんお金をかけて良いものを作っていくべき、という感覚がありました。でも今はそういう時代でもないですよね。コストをかけることが良い景観を作ることではないということを、今後も伝えていきたいです」

研究や実験をスムーズに進めていくには、全体の合意形成が必要。福島さんは現在、その合意形成のあり方を数値化する研究に取り組んでいるそうです。研究しやすい環境づくりも、大切な仕事なんですね。

景観を整え地域を活性すること

土木事業の中での景観分野の歴史は、1960年代からの高速道路や河川の護岸整備事業から始まりました。バブル期には過剰な装飾や景観への誤解も生まれてきたそうですが、一方で、地域の文化や歴史を守り伝えなければならないという意識も少しずつ生まれてきました。まちづくりも見据えた景観づくりという観点です。

「私たちの仕事は、道路や橋や港など、暮らしを支える土木施設の整備や運営、維持管理をサポートをすること。特に北海道では観光や景観という重要なテーマを見据えながらも、細かな基準やルールに目を配ることが大切なんです」と岩田さんは語ります。

見た目を良くするだけでなく、その地域の文化や歴史に沿ったまちづくりを考えていくこと。地域景観チームはこの大きな課題に、日々取り組んでいます。普段何気なく見ている看板や道路標識、車窓からの景色には、いろんな思いや意味が含まれているということを知ったような気がしました。

札幌市内の電線地中化マップ。電線地中化は、景観向上と災害時のリスク軽減も期待できます。
道の駅の研究も。建設から運営に関する事まで全体的にバックアップを行っているとのこと。
この他にも、景観に関する様々な研究が行われておりました。

寒地土木研究所では、道路標識や看板などの研究の他、電線の地中化や道の駅のデザインなどの研究・提言なども行っているそうです。災害時のリスク軽減やコストの問題、ちょっとした創意工夫でまちに活気が生まれること。景観研究という言葉の中には、私たちの想像を遙かに超える世界が広がっています。

寒地土木研究所では毎年7月に一般公開を行っていますので、興味のある方はぜひHPをチェックしてみてください。景観の世界は幅広い!

岩田圭佑さん

国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所

岩田圭佑さん

増澤諭香さん

国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所

増澤諭香さん

福島宏文さん

国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所

福島宏文さん

北海道札幌市豊平区平岸1条3丁目1番34号

TEL. 011-841-1111

https://www.ceri.go.jp/

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