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トラウマケアを身近に。Trauma Treatment Therapist Group(TTTG)

2026.3.2

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札幌市中央区にあるトラウマセラピーに特化した相談室「こころとそだちの相談室 みなみな*のんの」。この相談室の臨床心理士と公認心理師である、関根惠さんにお話を伺います。関根さんが幼いころに感じたある思いや、相談室を開業するまでの道のり、「Trauma Treatment Therapist Group(TTTG)」という、トラウマケアを届けるためにスタートさせた心理支援の専門職によるグループについても。関根さんの思いをお届けします。

「人の気持ちを分かりたい」その思いから心理学の道へ

関根さんの生まれは、北海道・旭川市。小学生の頃からSF小説を読むのが好きで、超能力のようなものに興味を持っていた子どもでした。

こちらが、Trauma Treatment Therapist Group(TTTG)代表の関根惠さん。個人でも、「こころとそだちの相談室 みなみな*のんの」代表として、カウンセリングされています。

「テレパシーで、人の気持ちが分かるってすごいと思っていました。小さいころ相手の気持ちが分からず、本当のことをズバッと言って傷つけてしまったこともあって…でもそれは、意地悪ではなくて相手の気持ちがあまりわからなかったからなんですが、そのため困ったり、緊張や不安を覚えることがたくさんありました。こうすればうまくいくという方法を、最初に教えてくれればいいのに、と幼心に思っていたんです」

人の気持ちを知りたい。その思いから、大学は心理学系の学部に進学しました。大学で学んで人の気持ちが分かるようになったかといえばそんなことはなかった、と笑って関根さんは話しますが、ひとつわかったことがあるそうです。

「わかったことは、自分はその場の空気や相手の意図を汲み取りづらいという特性を持って生まれたんだということでした。今なら何かしらの診断名がついたかもしれません。自分に自信がなく、不安も強かったですが、でもそれは自分が悪いせいじゃない。もともとそういう特性を持って生まれてきたので、他の人に聞いたり自分で説明したりして、気をつけていけば良いんだと思えたんです」

卒業後は公務員試験に合格するものの、配属先が決まらず、しばらく無職の状態が続きました。

「児童相談所などで働く心理職を希望していたんですが、空きが出なくて。困っていた頃に、友人から、女子少年院で法務教官として働かないかと声をかけられたんです」

法務教官とは、非行に走った少年少女が社会復帰できるように教育や指導を行う仕事です。実際に働き始めてみると、関根さんはやりがいを感じながらも、徐々に「自分が学んだ心理学を活かせる仕事をしてみたい」という思いを抱くようになったそう。そこで、3年ほど勤めた後、札幌市内にある精神科の病院に転職。心理士としての道を歩み始めます。

「病院では、心理検査やセラピーなどを担当していました。当時はただがむしゃらで、患者さんの役に立てていると実感する余裕はなかったですね。でも、好きなことをやらせてもらえたし、心理士の仕事にしては珍しくチームで働けたので、良い経験ができたと思います」

その後、結婚・出産をきっかけに仕事を離れ、育児に専念。二人目の子どもが小学生になった頃、再び心理士の仕事に戻ろうと考えますが、そこには新たな壁がありました。

「長いブランクの間に、心理士の仕事をするには臨床心理士の資格が必要になっていたんです」

資格試験を受けるには、大学院を卒業して受験資格を得るか、5年間の実務経験が必要です。そこで関根さんは、子育てをしながら大学院に進学。臨床心理士の資格を取得し、博士課程に在籍しながら、スクールカウンセラーとして働き始めました。

「スクールカウンセラーの仕事は、子どもたちの話を聞くだけではありません。保護者や先生からの相談も多く、不登校の子の自宅を訪問することもありました。体力的にも大変な仕事でしたが、19年間続けました」

大きな出来事だけがトラウマになるわけじゃない

「こころとそだちの相談室 みなみな*のんの」の相談スペースの壁にはアイヌ文様が。

関根さんが相談室を開くことになったのは、大学院時代の友人からの誘いがきっかけでした。

「友人が札幌市西区の琴似で相談室をやっていて、一緒にやらない?って声をかけられたんです。いいの?と思いながら、勢いで参加しました」

その後、当時借りていた建物が取り壊されることになり、現在の場所であらためて関根さんが立ち上げたのが、「こころとそだちの相談室 みなみな*のんの」です。「そだち」という言葉を入れたのは、人は一生成長するものという考えから。「みなみな」「のんの」はそれぞれ、「ニコニコ笑う」「花」という意味を持つアイヌ語です。しかし、開業して間もなくコロナ禍が始まり、相談室の運営はピンチを迎えます。

「対面でのカウンセリングができなくなってしまったんです。その後、オンラインでのカウンセリングが進んでからは、少しずつ相談も増えていきました。でも、大きな転機になったのは、トラウマセラピーに特化したことですね」

関根さんは相談室を開業するようになって、幼い頃のトラウマによる様々な症状に苦しんでいるという人が多いと感じたそう。親や周囲の大人から言われた何気ない言葉が原因になることも。「遅刻してはいけない」「いつもニコニコしていなければ」という、「ねばならない」という考えに苦しんでいる人も多いといいます。関根さんが幼少期に感じた緊張や不安と似ていると感じて共感することが多かったと話します。

「トラウマは、記憶に残っていなくても体が覚えているんです。例えば、学校で怖い先生に怒られて登校できなくなった人が、会社で似たタイプの上司に怒られた瞬間に、体が固まってしまうとか。何十年も、そうしたトラウマを抱えている人も少なくありません」

関根さん自身、様々なトラウマセラピーに取り組んできましたが、最近は「体から整える」という方法を取り入れるようになったそう。それが、「思考場療法(TFT)※1」に基づくタッピングのセラピーです。不安や恐怖を感じる状況を思い浮かべながら、体のツボを軽くたたいていきます。

「20代で学んだときはまだ発見されていなかったトラウマの知識やセラピーの技法が、21世紀にどんどん研究が進みました。私も、トラウマセラピーの技法を研修で学んで実際に使ううちに、自分の幼い頃のトラウマによる緊張や不安の反応が軽くなっていることに気づきました」

体の反応が落ち着くと、気持ちも楽になると関根さんは語ります。もちろん、すべての人にタッピングが合うわけではありません。

「タッピングだけでは効かない場合は、別のセラピーを組み合わせています。その人に合った方法を合わせていくんです」

※1:日本TFT協会 | TFT(思考場療法)

トラウマに苦しむ人にケアを届けるNPO団体を設立

「うちでは、相談室に来る方のことを、患者さんではなくクライアントさんと呼んでいます」と、関根さん。

クライアントは圧倒的に女性が多く、全体の9割を占めているといいます。年齢層は30代から50代が中心です。

「男性にとっては、相談すること自体のハードルが高いのかもしれないですね。もう少し男性も気軽に相談してくれるといいんですが…」

最近のクライアントは、漠然とした悩みを抱えている人よりも、「こうなりたい」というゴールがはっきりしている人のほうが多いそう。最近では、AIに相談して考えを整理し、内容をまとめてから来る人も増えているといいます。相談内容は、職場や学校での人間関係に悩んでいる人や、子どもの頃に親から言われた言葉に今も苦しんでいる人も少なくないそうです。

「相談室で行うのは、職場や学校の環境を変えることではありません。なぜ本人がそこまで強く反応してしまうのかを、一緒に見ていくことです。過去のトラウマが関係しているのであれば、そこに向き合うことで、気持ちが軽くなる場合もあります」

しかし、クライアントからすると相談する費用でのハードルもあります。そこで、関根さんの相談室では、ハードルを下げるために20分間の無料カウンセリングを行っています。

「トラウマセラピーは、どうしても時間がかかりますし、料金も高くなりがちです。そこをどうにかしたいと思っていました」

その思いから、関根さんは2023年に、Trauma Treatment Therapist Group(TTTG)というNPO団体を設立。TTTGは、トラウマで苦しむ人たちにトラウマケアを届けることを目的とした、心理支援の専門職によるグループです。

「トラウマセラピーを必要としている人はたくさんいます。でも、カウンセリングルームは都市部に偏っていて、近くに心理の専門職がいない人も多い。できれば低料金で、もっと言えば、無料で提供したいと思ったんです」

現在、TTTGには25人の心理専門職が登録しており、全国から寄せられる相談に対して、無料で30分間トラウマセラピーを提供しています。

誰もがもっと気軽にセラピーを受けられる仕組みを

TTTGが無料でカウンセリングを提供するようになった背景には、関根さんのこんな思いもありました。

「夏休みなどの長期休暇の終わりから、学校が始まるまでの間は、子どもたちの自死が増えるといわれています。子ども食堂のような形で、誰でも気軽に、心理セラピーやカウンセリングを受けられる仕組みをつくりたいと思ったんです」

TTTGの活動を支えているのは、有償ボランティアとして登録している全国の心理士たちです。そして、クラウドファンディングをはじめ、さまざまな形で活動資金への寄付をしてくれる、多くの方の存在があってこそ。実際、クラウドファンディングでは、インフルエンサーの紹介もあり、たくさんの支援が集まったといいます。

「TTTGを利用して元気になった方が、今度は寄付をして、別の誰かにつながっていく。そういう循環が生まれるのが理想です」

TTTGの利用者の多くは、30代から40代の女性です。これまでに通算で500件以上の相談を受けており、一人で複数回利用する人も少なくありません。相談は日本国内にとどまらず、フランスやスペインなど、海外在住の日本人からの申し込みもあるそうです。

「海外に住んでいても、日本語で相談したいという方が多いんです。TTTGの公式サイトや、登録しているカウンセラーのホームページを見て申し込まれる方、口コミで来られる方もいます」

それでも、セラピーを受けること自体にハードルを感じている人は多いのではないでしょうか。そんな人に、関根さんはこう話します。

「トラウマが発動しないように考え方を変えようとしても、堂々巡りしてしまって、変わらないことのほうが多いんです。だから、まず体の反応を変えることが大事。そのためには、何か違うことをする必要があります」

関根さんが取り組んでいるタッピングも、そのひとつ。専門家のセラピーを受けてみるのも良い方法だといいます。

関根さんによると、心と体のツボには関係があり作用し合うのだそう。ツボの場所を実際に教えてもらいました。

「一人で悩み続けても、なかなか抜け出せません。頭で考えるより、まず誰かに相談してほしいですね」

また、何かと「つながる」ことも効果があるといいます。安心できる人や物、自分の好きなこと、落ち着く場所を思い浮かべるだけでも、楽になることがあるそう。セラピーでは言葉を使うこともありますが、それは、その人自身の力を引き出すためのものだと関根さんは話します。さらに…。

「自分の考え方が悪いと思って、自分を責めるクセがついている人が、本当に多い。でも違うんです。自分の責任と、相手の責任の境界をきちんとつくることが、とても大事。『これはあなたの責任ですね』と伝えることは、相手を尊重することにもなるんです」

体が楽しいと感じることを見つけてほしい

仕事のやりがいについて尋ねると、関根さんはこう答えてくれました。

「やっぱり、自分が役に立っていると感じられたときですね。クライアントさんに喜んでいただけたら、それが一番です。何年も経ってから『元気にしています』って聞いたりすると、ものすごくうれしい。やった!っていう気持ちになりますね」

とはいえ、今でも力不足を感じることはあるといいます。

「お役に立てていないと感じるときが、一番つらいですね。もう少しうまくできたらと考えてしまうこともあります。少しでも、クライアントさんが満足できるようなサービスを提供できるように、これからも修行していかないと」

ただ、そうした思いをいだきつつ、クライアントの境界を守ることを大切にしていきたいと話します。

「そのためには、クライアントさんがご自身の気持ちや考えを安心して話していただけるように、その方のこれまでの人生を尊重する姿勢を大切にしたいと思っています」

今後も、「心に自由をお届けする」という言葉をコンセプトに、TTTGの活動に力を入れていきたいと語る関根さん。必要な人にカウンセリングを届けるため、無料で提供する活動も変わらず続けていく考えです。ただ、そのためには、持続可能な仕組みづくりが必要だと話します。

「私も、年齢的にあと何年できるか分かりません。だから、今のうちに仕組みをつくって、次の世代に引き継いでいきたいと思っています。まずは、今年中にTTTGを法人化したいですね」

「みなみな*のんの」については、心理士同士で場所を共有し、助け合いながら維持していきたいとのこと。オンラインも活用し、地域に縛られず相談できる環境も広げていきたいと考えています。

「20分の無料相談も、続けていくつもりです。将来的には事業規模をもう少し大きくして、人を雇えるくらいにしたいという目標もあります」

最後に、若者へのメッセージを尋ねると、関根さんは笑いながら、こんな言葉を返してくれました。

「もちろん、クライアントさんには毎回真摯に向き合っていますが、社会貢献したいとか、立派なことを考えているわけじゃない。ただ、体が楽しいと思うことをやっているだけ。頭ではなくて、体が楽しいと感じていること。それが一番、自分に向いていることじゃないでしょうか。頭で考えすぎると、『ねばならない』に縛られて、体が固まってしまう。だから、体に聞いてみてほしいんです。想像すると、体がちゃんと教えてくれますよ。『こうしたいな』と楽しく感じることを思い描きつつ、一人ではできないことも色々な人の助けを借りながら、自分だけの人生を大切に歩んでいってほしいです」

今回のインタビューでは、「自分と相手の責任の範囲に境界をつくる」という関根さんの言葉にハッとさせられました。それが相手を尊重することにもつながるという考え方は、人間関係に悩む人のヒントにもなったのではないでしょうか。

関根惠さん

Trauma Treatment Therapist Group(TTTG)代表

関根惠さん

こころとそだちの相談室 みなみな*のんの
札幌市中央区北3条西7丁目1-1
SAKURA-N3 M室

TTTGのホームページ

こころとそだちの相談室 みなみな*のんの のホームページ

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