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おいしいものをお腹いっぱい食べてほしい。愛が詰まったカナエビキッチン

2025.11.27

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札幌市中央区円山の裏参道沿い、マンションの1階に筆記体で書かれた「Kanaebi Kitchen」のサイン。テイクアウトののぼりが出ているので、きっと飲食店かなと思いつつ、半地下の窓から中を覗きますが、どうやら料理教室のようにも見えます。そっとドアを開けて中に入ると、「どうぞ、どうぞ!」と明るい声が…。奥のオープンキッチンの前にはおいしそうな料理がずらり。料理のセッティングをしながら、「ここ、家庭料理とテイクアウトの店なんです!」と迎えてくれたのは、オーナーの料理研究家・海老根加奈子さん。食に対して並々ならぬ熱い思いを持っている海老根さんに、お店のこと、これまでの歩みなどを伺いました。

毎日約40種類の料理がズラリと並ぶ、家庭料理とテイクアウトの店

2025年10月31日でオープン4周年を迎えた「Kanaebi Kitchen(カナエビキッチン)」。家庭料理とテイクアウトをメインにした今のスタイルになってからは、1年半になるそう。

「もともとは料理教室をやっていたので、奥にオープンキッチンを置いたレイアウトなんです。今もよく料理教室だと勘違いされるんですよ。ちなみに手前のU型のカウンターは、1人で訪れても気軽に利用してもらえたらと思って設置しています。一人飲みの女性も大歓迎です」

こちらが海老根加奈子さん。

以前は料理教室の合間に、この場所を使ってマルシェなどのイベントを開催したり、貸し切りのパーティーを行ったりしていたそうですが、予約なしでも海老根さんのご飯をいつでも食べられるようにしてほしいという声が多く、家庭料理とテイクアウトの店に切り替えたそう。

毎日、日替わりの家庭料理が約40種類並びます。これらのメニューのレシピはすべて海老根さんが考案。下ごしらえなどはパートのスタッフさんに手伝ってもらいますが、買い出し、調理、仕上げまでひと通り海老根さんが手がけます。名刺に「胃袋掴みます」と書かれていますが、並んでいる料理を見るだけで、すでに胃袋を掴まれた気分になります。野菜料理、肉料理、魚料理がまんべんなく用意され、煮る、焼く、揚げると調理法も味付けもさまざま。しかも揚げ物に関しては、注文してから揚げるため、アツアツが食べられます。

円山の裏参道沿いにある「Kanaebi Kitchen」。

「食材を見ただけで、メニューはどんどん湧いてくるんです。それをいかに効率よく作っていくかも得意。そして、私、ショートスリーパーな上にタフなんですよ。だから、どんどん作れちゃう。そして、みんながおいしそうに食べているのを見るのがうれしくて、ついつい利益度外視して大盤振る舞いしちゃって…(笑)」

そう楽しそうに話す海老根さん。店に出す料理の準備だけでも大変だと思いますが、お弁当やオードブルの予約も受け、テキパキと用意できてしまうそう。料理が大好き、人に食べてもらうのが大好きという圧倒的な熱量が伝わってきます。

お腹を空かせている人を放っておけない。料理をする原点は小学生のとき

さて、そんな海老根さんの料理の原点はどこにあるのでしょうか。

「私が料理を始めたのは小学生のとき。親が共働きで自営業だったこともあり、とにかく忙しくて、家に親がいないことのほうが多かったんです。それで、3人兄弟の一番上だったこともあり、下の2人にご飯を食べさせなきゃ!という使命感がスタートでした」

冷蔵庫にあるものを自分なりに工夫しながら、「おいしく食べさせたい」という一心で料理を作っていたそう。

「最初のころの料理はおいしくなかったと思いますよ(笑)。手探りで始めたから。当時、自分も子どもだったけど、なんだか妹と弟が不憫に思えて、完全に母親代わりでした。料理以外のことも何でもお世話していました。でもやっぱり、食べたもので私たちの体はできているわけで、食べるってすごく大事だと子どもながらに感じていたこともあり、とにかく2人がお腹を空かせているのを見たくなくて料理は一生懸命やっていましたね」

並べられているもの以外にも注文が可能な豊富なメニュー。

今でもお腹を空かせている人を見るのが辛くて嫌だと話す海老根さん。店でついつい大盤振る舞いしてしまうのは、このころの思いが根っこにあるからなのかもしれません。また、交友関係が広い海老根さんは食品会社の社長らとも繋がりがあり、「廃棄する食品があるけど」と連絡をもらうと、自ら取りに行き、それらを児童養護施設や子ども食堂、フードバンクに運ぶそう。

「前は子ども食堂の手伝いなどもしていたんですが、店をはじめてからはなかなか調理する時間が取れないので、できる範囲でやれることをやろうと思って、必要としている人たちのところへ食品を届けるようにしています。いただいた食品は、車に積めるだけ積んで各所へ運んでいます」

手軽で簡単、喜ばれる家庭料理のレシピの数々。それらはすべてオープンに

高校を卒業後、会社勤めをはじめた海老根さんは、上司などに連れていってもらった店で高級と呼ばれる料理や食材の味を知るようになります。

「食に関する視野が一気に広がりましたね。おいしいものっていろいろあるんだと知りました。ちなみに私、一度食べたものを再現できる舌なんです。絶対味覚というのかな。だから、食べさせてもらったものも自分でレシピを再現できちゃうんですよ」

社会人になってからも料理好きで、食への好奇心も旺盛だった海老根さん。29歳のとき、自身の店「家庭料理おかげさん」を東札幌にオープンします。

お客さまとコミュニケーションを取りながら料理を楽しんでいただくのも海老根さんスタイル。

「私はずっと自己流で料理をやってきたので、師匠もいないし、料理の学校も出ていないんですけど、とにかく目の前にいる人を食べることで喜ばせたいという気持ちは強くて、そんな思いで料理を作ってきました。東札幌の店はありがたいことに大人気で、大忙しの毎日でした。でも、5年ほど経ったとき、このまま忙しいと『お母さんになれない』って思ったんです」

「母親になりたい」と思っていたという海老根さんは、繁盛店だったにも関わらずスパッと店を閉め、36歳で結婚。翌年、息子を出産し、念願の「お母さん」になります。

「そこからは、子育てに夢中でしたね。子ども中心の生活を送っていました。夫の仕事の都合で、7年半、香川県にいたんですけど、札幌に戻ってからはPTA活動と子育てに情熱を注いでいました(笑)。息子のマネージャーのように動いていましたね。あと、料理を人に振る舞うのも好きなので、息子の友達やママ友を家に呼んで、ホームパーティーもよく開いていました」

オードブルも豊富なメニューがたっぷり!

その多忙な合間を縫って、北ガスの料理教室の講師を務め、自宅でも料理を教えていたそう。

「私の作る料理は野菜たっぷりの家庭料理なので、高級食材を使ったり、特別な調理器具を使ったりしないのがポイント。主婦の方たちから料理を教えてほしいというリクエストもあって、料理教室も開いていました。4年ほど続けていたブログにはすべてのレシピを載せていましたね」

いかに効率よく、おいしく料理を作るかというコツや、便利グッズや時短になる調理方法なども惜しみなく紹介。

「よく、そんなに何でも教えちゃっていいの?と聞かれるのですが、一人でも多くの人に食べることを楽しんでほしいと思うので、すべてオープンにしています。それは今も変わりません。共働きの家庭も増えていて、ママも大変な時代。メニューを考えるのが面倒なときや、時間がない中で料理しなければならないときってたくさんあると思うんです。だから、手軽で簡単だけど、おいしい料理の作り方があれば助かると思うんですよね。手間をかけなくても褒められる料理、喜ばれる料理のレシピはたくさんあるので、全部教えちゃいます」

その日のメニューを毎日手書きするというメニュー表。

おいしいものが食べたいときは「カナエビキッチン」と言ってもらうことが目標

子育て中心の生活を送っていた海老根さんですが、「宝物だよ」と言い続けて育てた大事な息子さんが大学進学を機に家を出てしまい、「息子ロスです。でも、だからこそ店をはじめて忙しくしているのがちょうどいいのかも」と笑います。その息子さん、今は大阪の大学に通いながら、イタリアンレストランでアルバイトをしているそう。

「うちにいたときはそれほど料理に興味もなかったようでしたけど、アルバイトをしているうちに少し興味を持ち始めたみたいです。最近、お酒も飲めるようになったので、帰省した際に一緒にお酒を飲むのが楽しみ」

息子さんの話をするときの海老根さんの顔はとてもうれしそう。この日のメニューの中には、息子さんの好物だったというスンドゥブスープも並んでいて、「これにうどんを入れるのもおいしいんですよ。うちの息子もいつもそうやって食べていて」とニッコリ。

店では、季節ごとにいろいろなイベントも企画。それを楽しみにしている人も多くいるそう。お客さんの大半は地域の人たち。会社帰りに夕飯として食べていく人もいれば、軽く1杯と立ち寄る人も。家でゆっくり食べたいからとテイクアウト利用する人も増えているそう。

「地域のお母さんたちにも気軽にテイクアウトを利用してもらえたらと思います。夜ごはんに1品追加したいときにもぜひ。イートインの子連れも歓迎です。やっぱり私はみんなに囲まれながら料理するのが好きだし、みんながおいしいねって言いながら食べているのを見るのもすごく好き。おいしいものが食べたいときは『カナエビキッチン』と言ってもらえるよう、もっとたくさんの人にここのことを知ってもらいたいです」

テイクアウトはその場でこのように取り分けてくれます。

きょうだいのためにご飯を作っていた小学生時代の話にはじまり、東札幌の店の話、愛息の話に、料理教室やレシピの話、そして養護施設やフードバンクなどへの寄付の話など、海老根さんの話を伺っていると、海老根さんの人に対する愛情の深さを強く感じます。海老根さんは、「母性が強めなのかしら。でも、私、こう見えて車やバイクが好きで、男前なんですよ」と最後に笑いながら話してくれました。

海老根加奈子さん

カナエビキッチン/料理研究家

海老根加奈子さん

北海道札幌市中央区南2条西23丁目1-27 チサンマンション円山裏参道1F

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