札幌で「開拓使麦酒醸造所」として創業し、2026年には創業150周年を迎える「サッポロビール」。大きな節目の前年となる今年は、道民に長く支持されている北海道限定「サッポロ クラシック」が発売から40年を迎え、リニューアル版が登場し、話題になっています。そして、食欲の秋、スポーツの秋には道内各地で大型のイベントが催されていますが、そこでも「サッポロビール」の名前をたくさん見かけます。今回は、こうしたイベント事業や広報などにも関わっている北海道本部 北海道戦略営業部を訪ね、部長代理の林佑介さんに仕事内容や今後の展望、これまでの歩みなどを伺いました。
道内の各自治体をはじめ、北海道の活性化に前向きな企業や団体を担当
林さんの取材に伺ったのは10月16日。前日に、毎年恒例となっている数量限定の「サッポロ クラシック富良野VINTAGE」が発売されたばかり。富良野で収穫した生のホップを使用した富良野VINTAGEは、今だけの味として毎年楽しみにしているファンがたくさんいるそう。

「富良野VINTAGEは2008年からはじまって、今年で18年目になります。摘みたての生ホップだから味わえる爽やかな味わいや香りが特徴なのですが、根強いファンの方たちがたくさんいらっしゃって、いつの年のものが好きだったとか、その年ごとに味が違うのを楽しんでくださっていますね」
富良野VINTAGEで用いているホップは、富良野産の生ホップを使用。サッポロビールは上富良野町に研究所を設け、長年ホップの品種改良や研究を続け、そこで開発されたホップを使用しています。

「ビールメーカーでホップや大麦の品種改良などの研究を行っているのは、国内では当社だけです。世界的にも稀だと思いますね。この上富良野で開発されたホップのひとつが『ソラチエース』です。今でこそ原材料の個性が引き立つクラフトビールが人気ですが、特徴的な香りのソラチエースが誕生したころはまだそこまで個性的なものが受け入れらなかったんです。国内でそれほど注目されていなかったのですが、アメリカではそのソラチエースを使ったビールが2010年頃にすごく評判になっていました。この時期、僕の同期がドイツ行ったとき、世界中の醸造家から「サッポロビールのソラチエースにすごく興味がある」と言われ、初めてソラチエースの存在を知り、「これは日本でも」となって、2019年に『SORACHI 1984』として全国発売することになりました」
上富良野で生まれたホップが、アメリカやヨーロッパで人気を博し、日本へ凱旋したなんてエピソードは道民にとっては興味深い話です。
さて、北海道戦略営業部の部長代理を務める林さん。この上富良野町や道内の各自治体へ足を運び、関わりを深めているそうです。

「僕の仕事は、道内の各自治体をはじめ、ぎょれんやJA中央会など一次産業に関わる団体、道内の経済を支える地元の銀行、地域の活性化に大きな役割を果たしているファイターズやコンサドーレといったプロスポーツ団体、あとはマスメディア各社などと連携し、北海道を盛り上げていく取り組みを行っています」
函館・帯広・旭川など、自治体が絡む大型の食フェスや北海道を代表するロックイベント・ライジングサンロックフェスティバル、国際雪合戦といったあらゆる催しの協賛に関することなどを担当しているそう。自治体や企業だけでなく、北海道大学なども担当し、多様な業界・業種と関わりながら、自社製品との最適な連携方法を模索。また、広報やSNSの発信も担当しています。
生物を学ぶために北海道大学へ。しかし、夢中になったのは飲食の仕事!
林さんが北海道戦略営業部に配属になったのは約1年前。自ら希望してこの部署に異動したそうですが、林さんがサッポロビールに入社するきっかけなど、これまでの歩みについて伺っていきましょう。
兵庫県出身の林さんは、一浪して北海道大学へ進学。生物を学びたいと考え、理学部へ進みます。

「家にあった母親の『動物のお医者さん』の漫画(作/佐々木倫子)を読んで、北大(北海道大学)って面白そうって思って、中学3年のときには両親に北大に行きたいって話していたんです。両親も北海道が好きだったので、行けばいいって(笑)」
そして、念願叶って北海道大学へ入学しますが、飲食に関わるアルバイトをしたことがきっかけで林さんの人生は違う方向へ舵を切り始めます。
「食べるのも好きで、作るのも好きで、飲食店でアルバイトを始めたら夢中になってしまいまして、飲食に関わる仕事がしたいと考えるようになり、大学1年生の秋に一度大学を辞めようかと真剣に考えたんです。母親にそれを伝えたら、父親から慌てて電話がかかってきて、せっかく大学に入ったんだからせめて卒業はしてくれと(笑)」
大学で生物を学ぶことは楽しかったそうですが、「卒業後、自分が研究者になって、白衣を着て60歳まで仕事をしているイメージがどうしても湧かなかったというのもあって、将来は飲食系で働きたいと考えていました」と振り返ります。

オムライスの店や海鮮居酒屋、小料理店などで、調理補助やホールのアルバイトをしたほか、大学のサークルでスープカレー店を運営していたこともあったそう。もともと国際交流が目的ではじまった店で、いろいろな国の留学生たちと一緒にスープカレーを作り、大学2年生のときには代表も務めたそうです。
飲食店のコンサル的なことを行う部署で働きたいとサッポロビールに入社
「大学卒業後は飲食店に勤務という選択肢もあったのですが、サッポロビールにフードビジネスサポート部という部署があると知り、そこで仕事をしてみたいと思ったのがきっかけで、サッポロビールの入社試験を受けました。あと、ビールをいろいろ飲んだ中で、クラシックが一番おいしいなと思っていたのもあり、サッポロビールに興味を持ったというのもあります」
このフードビジネスサポート部は、取引先の飲食店をコンサルティング的に支援する部署です。

「新規店舗であれば、コンセプト設計から内装・外装といったハード面、仕入れ・サービス内容、メニュー構成、人材育成、販促戦略まで、あらゆる部分をお客さまと一緒に作り上げていくのが仕事内容になります」
とは言っても、入社してすぐに希望の部署に配属というわけにはいきません。入社して3年間は営業として東京と神奈川に勤務します。
「とにかくフードビジネスサポート部に行きたかったので、最初は営業と言われていたのですが、毎年のように社内の異動公募に応募していました(笑)。でも、営業の経験は自分にとってプラスにはなりました」
希望が通ってフードビジネスサポート部に異動が決まり、配属は慣れ親しんだ北海道に。フードビジネスサポート部は大所帯の部署かと思いきや、「最初はベテランの先輩が1人いたのですが、2年経つと自分1人でした」とのこと。「この部署は、関わってきたお客さまの課題を見つけて、こちらから課題改善のプレゼンをすることもありますが、営業担当がサポートしきれない部分を補うというサポートの役割もあり、たくさんのお客さまに関わるので、1人になってからはなかなか大変でした」と話します。

このころの印象に残っているエピソードを尋ねると、「営業の先輩から言われたひと言かな」と林さん。某有名チェーン店でサッポロビールを扱ってもらおうと営業担当者と1年近くかけて一緒にいろいろな提案を行い、結果として取り扱いが決まったことがあったそう。「そのときの営業担当はもうすぐ定年という人だったんですけど、取り扱いが決まったとき、『この1年がサラリーマン生活で一番楽しかった』と言われたんです。これが自分としてはすごく嬉しかったんですよね」と振り返ります。
異動して感じた北海道と首都圏の違い。北海道の事業者は地域への還元を重視
北海道で5年半過ごし、今度は首都圏のフードビジネスサポート部へ異動。そこで5年勤務し、再び北海道へ戻ってきます。
「同じフードビジネスサポート部なのですが、首都圏と北海道では関わるお客さまのタイプがまったく違うんですよね。首都圏は広域の外食チェーンのお客さまが多かったので、トレンドを意識することも多かったですね。でも、北海道のお客さまは昔から地元で飲食店を経営している人がほとんどなので、いかに事業を通して北海道に還元できるか、北海道のことがどれくらい好きかというところも大事なんですよね。横の繋がりなどもたくさんありますしね」
林さんの名刺には、「JFCAフードコーディネーター」「北海道フードマイスター」「北海道観光マスター」などの肩書きがいろいろ書かれています。これらはフードビジネスサポート部で仕事をする中で、自ら学び、資格を取得していったそう。

「自己研鑽が特に必要な部署なんです。経営者さんと話すことが多いので、いろいろな意味で『深さ』を求められるんです。それで、足りないところを学んでいった結果、こうした資格を取ったという感じです」
資格取得ではありませんが、お客さまが求めているもの、望んでいることを引き出すためのヒヤリングの仕方などをデザイナーさんたちから学んだりもしたそうです。
社会的価値と経済的価値の両方で北海道を盛り上げていきたい
北海道に戻って3年半が経ち、次は自ら希望して北海道戦略営業部へ異動します。
「最初の5年半、そして3年半、フードビジネスサポート部で北海道の飲食業界に携わって、たくさんの方たちと仕事をさせていただいて、さっきも話しましたが、北海道の飲食業の方たちの多くは、いかに地域に、地元に還元していけるかも大事にされていて、飲食だけでなく横のつながりもすごくあるんですよね。そういうのを間近で見せてもらい、当社を道民のビールと言ってくださる方も多い中、これまでの経験を活かして、広い視野で当社のビールと地域をつなぎ、還元していきたいと思って異動を願い出ました」

全国勤務の会社員である林さん、また道外へ異動する可能性はゼロではないそうですが、「北海道にいる間は精一杯やれることをやりたい」と話します。北海道も札幌も好きと言う林さんは、「札幌はコンパクトにまとまっていて暮らしやすい町だし、北海道はどこへ行っても食べ物がおいしくて、自然も豊か。よく、どうして北海道がそんなに好きなの?と聞かれますが、逆になんで北海道のこと好きじゃないの?とって感じですよね」と笑います。
来年はサッポロビール創業150周年。アニバーサリーイヤーとなるとイベントも増え、林さんもますます忙しくなりそうですが、「食のイベントやスポーツなど、人の感情が動くときに当社の商品がそばにあってほしいと思います。皆さんにはいろいろなビールを楽しんでもらいたいですね。そして、社会的価値と経済的価値の両方を考え、いろいろな提案をさせていただき、みなさんと一緒に北海道を盛り上げいくことができたらと考えています」と最後に語ってくれました。



