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100年続く焼肉店にするのが、3代目の使命。「焼肉大仁門」

2025.7.7

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小樽・札幌・倶知安に5店舗展開する「焼肉大仁門(やきにくだいじんもん)」。最初の店舗は、小樽で1971年に創業。それから徐々に店舗が増え、今年で創業54年を迎える老舗の焼肉店です。今回取材するのは、大仁門の常務取締役であり、3代目の小久保 匡紘(まさひろ)さん。大仁門を継ごうと思った理由や、これからの大仁門への想い、飲食店経営を目指す人へのメッセージなどを伺いました。

理屈ではなく「血」。祖父の志を受け継ぎ三代目として歩む

小樽で生まれ育った小久保さんは、現在、小樽や札幌に店舗を構える「焼肉大仁門(だいじんもん)」を率いる三代目の店主です。店のはじまりは、1971年に祖父が小樽に開いた一軒の焼肉店でした。

こちらが、焼き肉大仁門の常務取締役であり、3代目の小久保 匡紘(まさひろ)さん

「祖父は韓国出身で、幼い頃に兄とともに日本に渡ってきたそうです。まずは大阪で暮らし始め、そこから東北地方まで仕事を探しながら北上したと聞いています。東北で祖母と出会い、姓を『小久保』にあらためた祖父は、結婚を機に活気あふれる小樽の町に移り住みました。炭鉱や漁業が盛んな時代、小樽は人も産業も勢いづいていたそうです」

当時、小久保さんの祖父が始めたのは、今でいえばリサイクル業者のような雑貨店でした。ところが、40歳を過ぎた頃、「焼肉店をやってみたい」という思いが芽生えたそう。そこから焼肉大仁門が生まれました。

「魚の町・小樽らしく、うちのタレは煮干しから取ったダシがベースなんです。創業からずっとそれは変わっていません」と、小久保さん。

店はやがて小久保さんの父へと受け継がれ、1981年には2店舗目となる朝里店がオープン。そして同じ年に小久保さんは生まれ、物心つく前から焼肉店の空気を吸って育ちました。

「祖父は、父に店の経営を修行させるつもりで朝里店を任せたのだと思います。両親は朝から晩まで厨房とホールに出ずっぱりだったので、僕も自然と厨房に入ったり、ホールを手伝ったりしていました。なので、3歳でホールデビューですね(笑)。『あの店、3歳の子が働いてる』ってちょっとした噂になっていたらしいです」

家族の姿を見ながら育った小久保さんにとって、大仁門は特別な存在。成長するにつれて「自分が店を継ぐことになるかも」と考えた時に、迷いはなかったといいます。

「他の仕事に就職するということを考えたことは、なかったですね。本当は人と話すのは苦手だし、一人で黙々と作業する方が好きなんです。でも、店を継ぐならそうは言っていられません。自分の性格を変えてでも大仁門を継ごうと思いました。理屈ではなく、もう僕にとって大仁門が『血』なんです、身体の一部なんですよね。焼肉が好きだったし、両親や祖父にいろいろなお店に連れて行ってもらって、『舌の英才教育』も受けていたから、おいしいかどうかの味の違いも分かるようになっていた。自分ならきっと後を継げるだろうという自信がありました」

A5ランクの和牛を中心に羊・豚・ホルモンの上質なお肉が厳選されています。こちらのお肉を魚介ベースの焼肉ダレでいただくのが大仁門流!ぜひご賞味あれ。

小久保さんは、高校生の時に店を継ぐと祖父に宣言し、高校を卒業すると大学の経営学部に進学し、経営について学び始めます。3年間で経営学部の単位を取り終えた小久保さんは、大学4年のときに調理師学校にも入学。当時は、大学と同時に調理師学校も卒業できたため、卒業時には調理師免許も取得しました。そして、そのまま三代目として、祖父や父が守ってきた大仁門を引き継ぐことになりました。

小さな屋台から始まり、店舗を統括する経営者に

大学を卒業する頃には、大仁門はすでに本店・朝里店・東雲店の3店舗を展開していました。そんな中、小久保さんが三代目として最初に任されたのは、小樽の出抜小路(でぬきこうじ)という屋台村での新店舗。出抜小路は、観光客向けにさまざまな食のブースが並ぶにぎやかな通りです。

「カウンターだけがある20坪くらいの小さなお店でした。観光名所である小樽運河が近いのに、正直、焼肉を食べに来る観光客は少なかったですね。小樽といえばやっぱり海鮮のイメージが強いですし、場所もかなり奥まっていて目立ちにくかったんです」

観光地との相性と立地の難しさが重なり、初めて任された店舗の売上は思うように伸びなかったといいます。そして、開店から2年ほどで閉店を決断。

「確かに条件はあまり良くなかったけれど、自分の力不足もあったと思います。とはいえ、すごく勉強になりました。屋台で出会った人たちとのつながりができましたし、人脈も広がった。良い経験でした」

その後、小久保さんは東雲店へと移ります。屋台村の店舗とは違い、スタッフの人数も多く、規模も大きい店舗での運営に戸惑うことはなかったのでしょうか。

「特になかったですね。むしろ、小さい店だと全部自分でやらなきゃいけないという感覚がありますが、大きな店は任せられる人が増える分、少し楽になる部分もありました」

小久保さんは、東雲店での経験を重ねながら、大仁門の店舗全ての経営を任されるようになります。その中で、新たな展開として踏み出したのが、2019年にオープンした倶知安店です。もともと焼肉屋だった店舗を居抜きで使えるという好条件に加え、すでに観光地として人気があったニセコから近いことが、新店舗オープンへの後押しになったそう。

「実際にオープンしてみると、冬のスキーシーズンを中心にたくさんのお客さまが来店してくれました。特に12月から3月は、予約がすぐに埋まってしまうほど。インバウンドの影響で、お客さまはほとんど外国人でした。『1時間でもいいから入れてほしい』という電話もよくかかってきていましたね」

その直後、飲食業全体が打撃を受けたコロナ禍に突入。大仁門も例外ではなかったものの、ガイドラインの徹底や焼肉屋ならではの換気設備のおかげもあり、大きなダメージを負うことなく乗り切ることができました。そして2023年、次なる展開として札幌の西町に新店舗を構えます。

札幌西町店の外観。
店内の様子。和モダンを基調とした心の落ち着く空間です。

「西町に建つマンションの1階にテナントが入るという話を聞いたんです。小樽からも近くて、交通の便も良い。食材の運搬を考えても悪くないと思って決めました」

とはいえ、他の店舗に比べると札幌西町店はまだ軌道に乗りきれていないのが現状だといいます。

「ちょっと売上的には苦戦していて。札幌にも大仁門の味を広めるために、試行錯誤を重ねているところです」

全国の仲間とつながり、経営者としての姿勢を学んだ

小久保さんの今につながる出来事として、もう1つ忘れてはいけないことがあります。それが、「全国焼肉協会」との出合いです。大仁門が出抜小路に出店していた頃、小久保さんは、農林水産省大臣認可の全国焼肉協会に加入しました。全国の焼肉店経営者たちが加盟する事業組合で、和・洋・中に並び、焼肉もより多くの人に親しまれる食文化にしたいという思いを持つ人たちが集まっています。協会には、「タレに詳しい人」「郊外の大型店が得意な人」「人材育成に強い人」など、異なる得意分野を持つ人が集まっており、情報交換の場にもなっているそうです。

「例えば、チヂミをメニューに入れたいって言ったら、チヂミが得意な人を紹介してくれる。人材の相談もできるし、焼肉屋としての知恵を全国で共有できる場所です」

加入のきっかけは、小久保さんの父のすすめでした。

「青年部ができたから、入ってみろと言われたんです。でも、焼肉会のレジェンドみたいな人たちも多くて、最初はちょっと抵抗感がありました。東京で総会があるんですが、当時はまだ若かったし、正直、友達と遊んでいる方が楽しかった。でもあるとき、関西の老舗焼肉店の会長が声をかけてくれて、仲間に入れてくれたんです。最初は緊張して何も話せなかったですよ。でも、みんなすごく話し好きな人たちばかりで、気づいたら輪の中に入っていました。あの人が声をかけてくれなかったら、協会なんてつまらないと思ってすぐに辞めていたかもしれません」

当初は、協会への参加にあまり乗り気ではなかった小久保さん。先輩たちの助けもあり、少しずつ仲間とのつながりを深めていきました。そして今は、青年会の会長を務めています。

「先日、総会で何百人もの前で就任の挨拶をしたんです。さすがに緊張しましたね(笑)」

焼肉協会の先輩たちからは、味や経営のことだけでなく、「人としてのあり方」も学んだと話します。

「祖父と父には、焼肉大仁門という血を育ててもらいました。でも、成人して経営者として成長できたのは、焼肉協会の先輩たちのおかげです。ゴルフやお酒の飲み方も教えてもらったし、後輩への接し方や先輩としてのふるまい、社会のルールも学びました」

家族から受け継いだ「血」と、経営者としての処世術。その両方を与えてくれた場があることに「感謝しかないです」と小久保さんは語ります。

大仁門を100年続く店に。それが自分の使命

現在、小久保さんは本店・朝里店・東雲店の小樽3店舗に加え、倶知安店や札幌の店舗も全て統括しています。接客や経営はもちろんのこと、さらにタレの仕込みも自らの手で担っているそう。

「タレは企業秘密なので、スタッフには教えられないんです。だから今でも全部自分で仕込んだものを、各店舗に運んでいます。ニンニクを足してみたり、調味料の割合を調整したりと微調整はしていますが、煮干しからダシを取るという基本の部分は変えていません。今年で創業54年になりますが、変わらぬ味を守っています。味の最終的な判断も自分の舌が頼り。責任は大きいけれど、自信しかないですね」

朝は小樽で仕込みを行い、夜はどこかしらの店舗に足を運び、店の状況を見たり従業員と話したりするのが日課。忙しすぎる毎日の中、どうやって時間をやりくりしているのでしょうか。

「せっかちなんですよ。仕込みのスピードは誰にも負けないし、判断も早い。それに、僕にとって仕込みは歯磨きみたいなもの。毎日当たり前にやるルーティンとして生活の一部になっているから、忙しいというストレスはまったく感じません。むしろ一番好きな仕事ですね」

一方で、暇な時期の対策や経費のやりくりなど、経営者としての苦労はあると語ります。ところが、三代目として、次の代へつなぐプレッシャーはないかと尋ねてみると、「プレッシャーはない」ときっぱり。

「子どもは3人いますし、いとこたちがそれぞれ朝里店と倶知安店の店長をしている。だから、後継者のことは心配していません。きっと誰かしらが継いでくれると思っています」

小久保さんが見ているのは、子どもたちに引き継いだその先です。

「大仁門を100年企業にしたいんです。とにかく100年生き残ること。それが唯一の目標だし、プレッシャーでもあるかな。祖父が作った大仁門が100年企業として続いていく姿を、自分の目で見届けたい。それが自分の使命だと思っています」

商売の原点は地域貢献。お腹がすいた人を満腹にさせたい

これから挑戦してみたいことについて尋ねると、小久保さんは「やっぱり焼肉ですね」と答えてくれました。新たな展開を考えるにしても、焼鳥やステーキなど、あくまで焼肉という軸を大切にしたいと語ります。すぐに新店舗を出す予定はないものの、思いを寄せている場所はあるそう。

「店を出してみたい地域はたくさんあります。ハワイやタイにも興味はありますが、まずは函館ですね。札幌西町店の店長が函館出身で、『地元で店を開きたい』という夢をずっと話しているんです。その夢をいつか叶えてあげたいという気持ちもあります」

「あとね…」と小久保さんは続けます。

「そもそも、商売って地元の人たちへの社会貢献だと思うんです。その地域の人たちとともに生きていくということ。それが、祖父と父が働いてきた背中を見て学んだことです。例えば、昔は大根を採るのが得意な人と、魚を釣るのが得意な人がいたら、それを物々交換していた。そうすると、大根と魚で煮物ができるわけです。自分の得意なことで近所の人と支え合う。そうやって成り立っていたのが、商いの原点だと思います」

さらに飲食業を志す若者たちに対しては、「逆算できることが大切」だと話す小久保さん。どのような意味なのでしょう。

「例えば、自分の店を持ちたいというゴールがあるなら、そこから逆算して、今の自分に何が足りないかを考えることが大切です。焼肉の仕事には、タレ作りやキムチの仕込み、肉のカットなど、さまざまな工程があります。それらを分けて、自分に足りないものは何かを見極めて学んでいく。もし、ホール接客が苦手なら、ホールの仕事ができる店で働いてみることも必要です。そうした経験をいつまでに積むのか、そして何歳までに店をオープンするのかといった人生設計を、逆算して考えられるかどうかですね」

店を持ちたいという夢はあるものの、自分にできるだろうかと迷っている人もいるかもしれません。そんな人に、小久保さんはこうアドバイスします。

「得意なことが1つあれば、人は生きていけると思います。みんな何かしら、社会に貢献できるものを持っているはずですし、それを仕事にできたら素晴らしいですよね。そしてその『得意』を見つけるには、人を認めることも大切です。例えば苦手な先輩がいたら、1つだけでも良いからいいなと思える部分を見つけてみる。相手を認められるようになれば、自分も認めることができるようになるはずです」

そして最後に、こんな言葉を残してくれました。

「僕の辞書の中に『人は経験』という言葉があります。今はYouTubeなどで何でも見られる時代ですが、見ただけでやった気になってしまう人も多い。でも、見るのと実際にやってみるのとでは全然違います。だから、やっぱり経験することが大事。たとえ失敗しても、無駄にはなりませんから」

インタビューを通じ、小久保さんの焼肉大仁門への熱い思いと、地元や人に貢献したいという気持ちがひしひしと伝わってきました。取材後には、ポロッと「お腹がすいている人には、いっぱい食べさせてあげたいんだよね」という言葉も。小久保さんのやさしさがにじみ出ています。小樽で生まれ育った焼肉大仁門が、これからも地域に根ざし、愛される存在であり続けることを願っています。

小久保 匡紘さん

焼肉大仁門 常務取締役

小久保 匡紘さん

札幌西町店:北海道札幌市西区西町北11丁目1-1
(本店:北海道小樽市色内1丁目13-5)

TEL. 札幌西町店:011-688-8929

大仁門札幌西町店 HP

大仁門札幌西町店 Instagram

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