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地域で楽しみながらお手伝い。北大ボランティアサークルあるぼら

2024.8.30

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北大生サークルの「あるぼら」は、有償ボランティアをしながら、被災地支援や地域貢献活動を行っている団体です。2011年の東日本大震災をきっかけに結成され、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震以降は、最も被害が大きかった北海道厚真(あつま)町で支援を続けています。地震から5年たった現在、ハスカップや原木しいたけ栽培など、農家さんのお手伝いをメインに活動をしています。

今回、お話を伺ったのは、現在法学部4年生で2023年度の共同代表だったお二人、川﨑華子さんと髙橋美輝(みつき)さんです。畑の土に触れ、作物のおいしさを実感し、まちの人々との交流を通じて、キャンパスライフだけでは得られない学びや気づきがあったのだとか。ボランティア活動を通じて世界が広がり、自らの成長にもつながったというお二人に、あるぼらに入ったきっかけや活動内容、そして厚真町への思いについて語ってもらいました。

東日本大震災から始まった有償ボランティアサークル

北海道大学の学生によるボランティアサークル「あるぼら」は、東日本大震災の際に、アルバイトで貯めたお金を使って被災地支援をしようと有志の学生が集まって発足しました。2018年の北海道胆振東部地震では、厚真町で震度7の強い揺れが発生。大規模な土砂崩れなどによって多くの尊い命が失われ、農地も大きな被害を受けました。

あるぼらのメンバーは現地で支援活動を行ったほか、花火大会や雪まつりなどのアルバイトで得たお金を使って必要な物資を送りました。さらに、厚真町のまちづくり会社「株式会社エーゼログループ厚真町支社」を通じて、農家さんの復興のお手伝いや、地元イベントの協力も行うようになりました。現在は、厚真町での農業ボランティアをメインに、地域貢献、まちの関係・交流人口づくりの活動をしています。

▼北海道大学法学部4年生で「あるぼら」の元・共同代表、髙橋美輝さん。

髙橋さんは、とても楽しかったという農業ボランティアについてお話ししてくれました。

「農家さんのお手伝いをするうちに『農業っていいな』と思うようになりました。土に触って作業することが気持ちいいし、農作物もおいしいし、農家さんも優しいんです。例えば、厚真名産のハスカップを栽培している土居農園さんでは、『食べていいからね!』と言われて、雑草取りをしながらハスカップの実をつまみ食いしていました(笑)。しいたけ栽培の堀田農園さんでは、原木しいたけと、近くの農家さんからいただいたカボチャをグリルで焼いていただきました。味付けは塩とオリーブオイルだけなんですけれど、とってもおいしかったんです!作業の休憩中は、トラックの荷台にメンバーのみんなで座って、おやつを食べたりもしていました」

満面の笑顔を見せるお二人。「このサークルが楽しいと思っているうちに、代表にもなっちゃいました!」と、笑って話してくれました。

青空の下で農作業やイベントのお手伝いを楽しむ

もうひとりの代表だった川﨑さんに、あるぼらのボランティア活動について聞いてみました。

「厚真町には5月から10月までの間、週末にお手伝いに行きます。サークルのLINEグループでボランティアに行けるメンバーを募り、エーゼロさんに日にちと人数を連絡し農家さんとの調整をしていただき、参加するという形です。決して義務というのではなく、やりたい人が楽しみながらボランティアを行っています。ほかにも石狩市の農家さんのお手伝い、真駒内(まこまない)花火大会の運営補助など、有償・無償のボランティアやアルバイトがありますが、これらで得たお金は交通費などのサークルの活動費として充てています」

▼北海道大学法学部4年生で「あるぼら」の元・共同代表、川﨑華子さん。

無理なくボランティアをするのが「あるぼら」のスタンス。学生さんがサークルに入るきっかけは?

「うちで多いのは『北海道を満喫したい』とか『北海道の農業を体験してみたい』という理由ですね。北大生の7割ぐらいは道外出身者なので、北海道といえば農業というイメージで興味を持つんだと思います。使命感を持つとか、肩ひじを張るのではなく、スポーツや音楽などの趣味サークルに入るような感じで来てくれて、実際に活動をするうちにボランティアに興味を持って続けるパターンが多いですね」

入り口が「ボランティア」ではなく「農業」だったとは意外ですが、髙橋さんもこう続けます。

「あるぼらのメンバーは『お手伝いに行っている』という意識ではなくて、『農業のお手伝いをさせてもらっている』意識なんだと思います。リフレッシュにもなるんですよ。私も普段は授業を受けたりアルバイトをしている分、週末に厚真町へ行って青空の下で活動をしていると、心身が回復していくのを感じました」

厚真のイベントや行事のお手伝いもしているそうで、あるぼらの存在はまちの人たちに知られているようです。

「年に1度の『あつま田舎まつり』は大きなお祭りで、いろんな屋台やステージがあってすごく楽しいんです。昨年、私たちはホットスナックを売っていたんですけれど、前にお手伝いをした農家さんから『おいも食べな~』と差し入れをもらったりして、そんなことが本当にうれしかったですね」

▼「あるぼら」は厚真町の復興支援、イベントや行事のボランティアをメインに行っています。

ボランティアで欠かせない人とのつながり

とっても楽しそうな農業ボランティア。しかし、厚真町にはまだ被災地としての現実もあることを、髙橋さんが語ります。

「インフラは復興しても、被害に遭った農家さんはまだ復興の途中なんです。例えば、日本一の生産量を誇っていた厚真町のハスカップは、4万あった木のうち、地震の土砂崩れや地割れで1万本がダメージを受けました。実際に、お手伝いに行った土居ハスカップ農園では、『そこが当時、ハスカップの木が土砂をかぶったところなんだよ。新しく植え直した木だからまだ小さいんだよね』と教えてもらったりして、地震の被害を実感させられました」

高橋さんは宮城県仙台市の出身、川﨑さんは祖父母が東北に住んでいたことから、被災地の復興支援から始まった「あるぼら」に入会しました。大地震から2年半が経過していた厚真町では、農業のお手伝いがメインとなりましたが、川﨑さんはボランティアをする上で、とても大切なことを学んだといいます。

▼去年の10月に厚真町で行われたイオン環境財団主催の桜の植樹祭に参加しました。

「お金を稼ぐことが目的のアルバイトとは違って、ボランティアは『人間同士とのつながり』があってこそ、できる活動だと思います。私たちは、普段はほとんど学生同士でしか関わることがないけれど、厚真町ではいろんな職業や年齢層の人たちと関わりながら動いていきました。ほかのボランティアさんも、元サラリーマンだったり、やりたいことがあって厚真町に来ている人だったりして、そういった方々のお話を聞くことで視野が広がったと思います」

隣で大きくうなずく髙橋さん、サークル活動でご自身も大きく変わったのだとか。

「私は人見知りの性格でした。でも、この活動で厚真町が好きになって、『もっとこのまちを知ってもらいたい!』と思ったんですよ。だからこそ、代表としていろいろな方たちと話したり、人前で話したりする努力をしてきました。そのおかげで、いまでは人見知りだったといえば笑われるぐらい、積極的でチャレンジ精神旺盛な性格になりました」

札幌の学生向け厚真ボランティアツアーを主催

厚真町の良さについて、髙橋さんはこう話します。「人口4,300ほどのまちですが、よそから来た人にもオープンで優しいんですよね。本州から移住したユニークな方々もいます。厚真町やエーゼロさんたちが積極的に移住やまちづくりに動いてきたことが、親しみやすいと感じる雰囲気をつくり出しているのかなと思っています」

エーゼログループは、ローカルベンチャー事業としての起業支援や関係・交流人口づくりなど、「外の人とまちをつなぐこと」を町役場と一緒に行っている会社で、以前にくらしごとの記事でも紹介しています。

「うちのサークルは、当初からエーゼロさんにとてもお世話になっています。土居ハスカップ農園さんや原木しいたけ栽培の堀田農園さんなど、地元の農家さんを紹介してもらったのもエーゼロさんです。あるぼらの活動趣旨も、人と人とのつながり、輪を広げていくことが主軸のひとつなので、厚真町の関係・交流人口を増やすためのお手伝いもさせていただいています」

▼厚真町の原木椎茸農家さんで積み重ねてある木を積み替えている様子(天地返し)。

昨年の秋、あるぼらは業務委託の形で「日帰りボランティア体験・札幌の大学生のための厚真ツアー」を主催しました。その前年には、同じく厚真で活動する北大サークル、森林研究会と共同で同様のツアーを実施したそうですが、今回はエーゼログループからのサポートを受けながら、企画準備を自分たちで行ったのだとか。そのときのことを、川﨑さんが振り返って話します。

「私たちが大好きになった厚真町に、ほかの学生にも来てもらってその魅力に気づいてもらいたい、そんな気持ちで企画を進めていきました。特に、基幹産業である農業の良さや食のおいしさを知ってもらいたいと、ランチには養鶏農家さんのレストランの卵を使ったメニューや、シカ肉をブレンドした『真鹿(まじか)』のハンバーグと、力を入れました。ツアーは日帰りで2回行ったのですが、初回には被災地としての厚真を知ってもらうために、土砂崩れのあった場所に1,200本のサクラを植樹するイベントにも参加しました」

ツアーは見事に成功、終了後のアンケートでは、参加者全員が「また厚真町に行きたい」と回答してくれました。サポートとして協力したエーゼログループからは、お二人が「泣いちゃうほど」温かいおほめの言葉が並んだ文章をもらったとか。このツアーをきっかけに、あるぼらに入会した学生もいて、現在の代表もそのときのツアー参加者なのだそうです。

▼楽しみながらボランティアをすることが「あるぼら」のモットーです。

厚真に通って見えてきた、まちの魅力と可能性

厚真町へのボランティアツアーを企画・実施したことで、まちづくりや地域づくりという視点を持つようになったお二人。このまちには、まだまだ関係人口や観光客が増える「のびしろ」があると川﨑さんはいいます。

「厚真町で活動する前は、被災地というイメージしか持っていませんでしたが、ボランティアで通っているうちに、観光地としてのポテンシャルがたくさんあることに気づきました。例えば、厚真町はハスカップの産地として有名なんですけれど、ハスカップを使ったおいしいクレープやデザートのお店もあり、収穫体験もできます。もっと観光アピールしていけばと思います」 

すると、髙橋さんがうれしそうに教えてくれました。

「この前、サークルのメンバーから『真鹿さんのハンバーグが飛行機の機内パンフレットで紹介されている』と聞いたんですよ。厚真町も情報発信されているなと思いました!厚真は、シカ肉も牛肉も、いろんなものがおいしいので、どんどんアピールしてほしいですね」

厚真グルメ押しのお二人ですが、川﨑さんは農業についてこのようにも話してくれました。

「いろいろな農家さんのお手伝いをしているうちに思ったんですが、農業って面白いんですよ。生活に関わるものであり、観光資源にもなる。それこそ、人と人とのつながりの基盤にもなりますよね」

厚真との縁を。先輩から、そして後輩へ渡すバトン

もうすぐあるぼらを卒業し、社会へと羽ばたいていくお二人。髙橋さんが、あるぼらへの思いを語ってくれました。

「あるぼらがいまも厚真町で活動できているのは、北海道胆振東部地震の後、当時の代表が『こういうボランティアをしたいんです!』と熱く売り込んできたから。真駒内花火大会やさっぽろ雪まつりの有償ボランティアなども、先輩たちから受け継いだものです。こうして先輩たちが作ってくれた『縁』のバトンを渡すことができて、いまは1、2年生が主体的に活動してくれている。これからも、あるぼらと厚真町との良い関係が続けばいいなと思っています」

仙台市出身の髙橋さんは、厚真町だけでなく、いま住んでいる札幌市の魅力についても話してくれました。

「私は仙台の坂道が多いまちに住んでいるので、ほとんど平地でギアがない自転車でもスムーズに行ける札幌が好きです。冬の季節も、札幌のほうが暮らしやすいんですよね。仙台では雪が日中に解けて夜に凍るため道が滑りやすく、風も強くて体感温度が低いんです。でも札幌は、冬に歩いているだけで汗をかくことがありますよね。あと、仙台から近くなるので、早く北海道新幹線が札幌まで延伸してほしいです!」 

札幌生まれの川崎さんも、こう語ります。「私も札幌が好きですね。都会と住宅地と自然が調和している。働く、暮らす、余暇を楽しむ、この3つがすべて揃っているのが札幌だと思います」

インタビューと撮影中、私たち取材班に細かい心配りと笑顔を絶やさず、さまざまな注文にもすぐにこたえてくれたお二人。サークルのリーダーを務めて得た自信と、厚真町への深い愛が伝わってきました。

▼自然が好きな方、都会より田舎派の方、北海道で農業がしてみたい方は是非「あるぼら」へ!新入生の入会をお待ちしております。
髙橋 美輝さん

北海道大学ボランティアサークル あるぼら

髙橋 美輝さん

川﨑 華子さん

北海道大学ボランティアサークル あるぼら

川﨑 華子さん

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